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米津玄師の音楽が伝える系譜

『BOOTLEG』からその先へ

米津玄師の新しいアルバム『STRAY SHEEP』が2020年8月5日にリリースされることが発表された。前作『BOOTLEG』から約3年ぶりの待望の新作だ。今月の6月26日からは、米津さんが主題歌『感電』を手掛けたテレビドラマの放送も開始予定で、今年は米津さん関連の嬉しいニュースでいっぱいの楽しい夏となりそうな予感がする。

 公開された新しいアルバムのタイトルとジャケットのアートワークから、様々な解釈や受け取り方ができそうな、一筋縄ではいかない作品になっているのではないか、という予感が私にはしている。ジャケットのイラストを見た時、米津さんはどれだけビッグになっても、ちゃんと尖った部分は持ち続けていているんじゃないかな、と思った。

 米津さんの音楽と絵やイラストから、私が連想するアーティストがいる。それが、チェコ出身で、19世紀のアール・ヌーヴォーを代表する画家でありイラストレーターのミュシャだ。ミュシャはパリに渡り、様々な舞台作品や企業や商品の広告•ポスター、パッケージのデザインや、本のカバー•挿絵などを手掛けた。日本でも人気が高く、去年の7月から9月の終わりにかけて、渋谷で「みんなのミュシャ」という展覧会が開かれていて、私も2回足を運んだ。「みんなのミュシャ」というタイトルにもある通り、ミュシャの作品を高尚な芸術作品として捉えるよりも、よりみんなに身近な、ポップで大衆的な側面に光を当てて楽しむための展覧会だという印象を受けた。そこでミュシャの作品やミュシャに影響を受けた様々なアーティストの作品を目の当たりにした時、ミュシャと米津さんとの間にある共通点が浮かび上がってきた。

 まずパッと見て共通していると思うのは、イラストの驚異的な線の細かさと緻密さだ。米津さんが今までに描いたアートワークもすごく精密な線で描かれているが、『STRAY SHEEP』のジャケットイラストでは、それが更に強まっている気がする。ミュシャのイラストも、女性の髪や、ドレスのひだや服のしわ、植物、様々な模様などを非常に細かく描いており、「線の魔術師」とも言われている。米津さんもミュシャも、とんでもない集中力で、何時間も作業していたのではないかと想像する。  

 続いての共通点は、米津さんもミュシャも、ポップで商業的なものを作っていて、でもそれと同時に、高い技術に裏打ちされた芸術性があるところだ。米津さんは、過去にドラマ『アンナチュラル』の脚本家である野木亜紀子さんとラジオで対談した際に、「芸術家と呼ばれるのを好まない」、「職人でありたい」という趣旨の発言をしていたが、ミュシャと米津さんを見ていると、職人でないとアーティスティックなものを生み出すことはできないんじゃないか、ということに気づかされる。そして、ポップで大衆的なものと芸術的なものは、相反するものではないのだ、と示してくれている。米津さんの音楽も、ポップな音楽としての大衆性と、まるで物語を読んでいるかのような文学性や、様々な情景を浮かび上がらせる映像性、深く考えさせられる哲学性、そしてやっぱり芸術性が共存している。

 もうひとつの共通点は、人間がそうであるように、音楽も、アートも、すべてが何らかの系譜、つながりの中にあるのだ、ということに気づかせてくれるところだ。ミュシャは、日本を含む世界中の音楽やアート、現代のポップカルチャーに大きな影響を与えている。アメリカの有名コミックや日本の漫画、海外のミュージシャンのレコードジャケットのアートワークやコンサートのポスター、明治時代の日本の文学誌や、海外の雑誌など、枚挙にいとまがない。私はミュシャの展覧会を見ながら、何だか米津さんの『BOOTLEG』と共通する部分があるな、と思っていた。米津さんが2017年に発表したアルバム『BOOTLEG』でも、自身が影響を受けてきた日本や海外のバンドや、様々な音楽に対しての敬意が込められていて、アルバムそのものが米津さんの音楽の系譜を表現しているようだった。

 そして、そこから1年近く経った2020年6月12日、RADWIMPSの野田洋次郎さんが”PLACEBO”という曲で米津さんとコラボすることが発表された。このニュースをみた瞬間、驚くよりも、夢の世界にいるような気持ちになった。「ついにこんなすごいことが現実になるのか、すごーい!!」と思った。そして、このニュースをきっかけに、去年ミュシャ展に行った時に考えていたことが蘇ってきたので、今これを書いている。

 野田さんと米津さんは、2015年11月4日に行われた「10th ANNIVERSARY LIVE TOUR RADWIMPSの胎盤」で共演を果たしている。その時のMCで、米津さんはRADWIMPSのことを「偉大な父親」に喩えていた(rockinon.comの2015年11月7日の記事参照)。ついに、米津さんが、自分の音楽の系譜における父親のような人とコラボする。

 ちなみに、曲名の”PLACEBO”と聞いて、偽薬としての効果を思い浮かべる人が多いようだが、私の頭の中に浮かんできたのは、イギリスのロックバンドのPLACEBO(プラシーボ)だ。自分が中学生の頃好きだったアメリカのアイドルグループの記事を読むために買っていた洋楽雑誌にプラシーボも出ていたので、何となく覚えていた。この野田さんと米津さんのコラボのニュースを知ってから、こちらのプラシーボについても調べてみたところ、1999年に発表された”Without You I’m Nothing”という曲のシングルバージョンで、David Bowieをゲストボーカルでフューチャリングしていた。プラシーボにとってのDavid Bowieという存在と、米津玄師にとっての野田洋次郎という存在が何だかシンクロしているな、と密かに感動していた。

 『BOOTLEG』でもすばらしいコラボが生み出されていたけれど、その先の『STRAY SHEEP』では何が生み出されているのか。”PLACEBO”、心して待っています。

 

 

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