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“リライト”された先にある人それぞれの“解放区”

―ASIAN KUNG-FU GENERATION―『甦る“Re:Re:”の記憶の片隅に』

《消してリライトして/くだらない超幻想/忘られぬ存在感を》

(“リライト”)
 
 

リライトとは【(特に執筆者以外の者が)文章を書き直すこと】
 
 

たわいもない日常の風景の中に、1つの音楽が重なって、この心が書き換えられたり、また新しく生まれ変わったり、響く音の可能性は無限大である。
 

とある休日の朝『ASIAN KUNG-FU GENERATION』(略称=アジカン)を聴いて感じた想いをこの文章に残しておきたいと思う。しばしの間、お付き合い頂けたら嬉しい限りだ。
 
 

トタバタトタバタ──。
 
 

目覚まし時計が鳴り響くように、今日も忙しなく動く家族の足音が、快適な眠りから僕を呼び覚ます。眠たい目をこすり寝癖頭でメガネを掛け、枕元にあったスマホを片手に窓を開ける。
 

心の扉を開くように密閉された空間から解き放たれた瞬間、心も体もリフレッシュされ、心地よい日差しが幸せを運んでくれる。
 

その視線の先に広がる青空、頬を撫でる少し肌寒い風、聴こえる小鳥のさえずり、五感に伝うその清々しさは、この気持ちを外の世界へと導いてゆく。
 
 
 

《軋んだ想いを吐き出したいのは/存在の証明が他にないから》

(“リライト”)
 
 

日常の景色に身を委ねながら、知らず知らずにこの歌詞とメロディを口ずさんでいた。昨夜何度もリピートして聴いていたからだろうか。
 

このフレーズが何度も頭の中をループして離れずにいた。
 

人それぞれが示す《存在の証明》に、一体どんな価値があるのだろうか。
 

窓越しでふと物思いに更けながら、遠く山道を走る車を見つめていた。列をなす車はミニカーのように小さくて、そっと手を伸ばせば簡単に掴めそうだった。
 

答えが出ないまま、想いを巡らせていた矢先、、、
 
 

グゥグゥグゥグゥ──。
 
 

「お腹が鳴る」という当たり前のことにふと笑みが溢れた。
 

答えは至って簡単だった。
 

至極当然のように、僕の《存在》を空きっ腹が《証明》してくれた。「生きている」それでいいのかもしれない。
 

現実に引き戻された瞬間だった。
 
 

ギギギ、ストン──。
 
 

朝の洗顔や歯磨き、トイレなど一通りやり終えた後、リビングにある濃いブラウン色の椅子に腰を下ろした。
 

お気に入りのピンクのマグカップを手に取り、沸騰したばかりのお湯を注ぐ。
 

ティーパックから染み出るルイボスティーの香りが心を穏やかに包み込んでくれた。
 
 

その後、、、
 
 

手慣れた指先でスマートフォンを操作し『ASIAN KUNG-FU GENERATION』Tour 2019『ホームタウン』で演奏された“解放区”のライブ映像を流したのも束の間──音が流れ、数秒も経たない内に甦る記憶と、その臨場感が、リビングを極上のライブハウスに変えてくれた。
 
 

《車道を渡って君が走り出す/沿道に立って僕は手を振る/次第に姿が小さくなっても》
 

《頬をつたって感情が溢れ出す/沿道に立って僕は手を振る/指で何度も/涙を拭ってたんだよ》
 

(“解放区”)
 
 

『ASIAN KUNG-FU GENERATION』
アジアン・カンフー・ジェネレーション
 

「欧米の人が聞いたときに忘れない名前にしたい」という思いから付けられたのがこのバンド名である。
 

ASIANの部分には自分達はアジア人であるというアイデンティティが盛り込まれている。KUNG-FUの意味はたまたまゴッチがカンフー映画にハマってただけとのこと(笑)GENERATIONはロックっぽい単語で音の締まりも良かったからだそうだ。
 
 

後藤正文(Vo/G)愛称はゴッチ。アジカンのメインボーカル&ギター。
 

丸型フレームが定番のクラシカルなボストンタイプの眼鏡をかけ、身振り手振り感情を表現しながら語りかけるように歌うその姿がいつも印象的である。
 

笑うと目尻に皺(しわ)を寄せ、微笑むその表情は愛らしい。クールな顎ひげもチャームポイントの一つ。
 

そして、“解放区”を歌うその声色はまさに変幻自在だ。
 

吸い込まれるような低く重みのある声から一転してサビに入った瞬間、勢いよく放つその声は美しく、光を放つような輝きが会場を包み込む。
 

聴こえるその声に刺激され、身体の芯に眠る未知なるエネルギーが覚醒するようで、不思議だ。
 

それは、笑って、走って、踊って気付けば自然と体が軽くなるような妙な感覚にも似ている。汚れた鱗がいつの間にか剥がれ落ちて、また新たに再生するかのような神秘的なさまとも言おうか。
 

独特な空気感から染み出るゴッチのまろやかな旨味が五臓六腑に染み渡ると、この上ない充足感に満たされる。
 
 

喜多建介(G/Vo)愛称は建ちゃん、キタケン等。アジカンのキャプテンでリードギタリスト及びバッグシンガー。
 

リーダーではなくキャプテンというところが重要らしく、それでも大した意味はないらしい(笑)
 

個人的に思うチャームポイントは、顔をクシャクシャにして笑った時のはにかむ笑顔が素敵である。
 

その一方で、演奏に集中する真剣な眼差しや佇まいがクールで格好いい。そうした普段とステージとのギャップがファンには堪らなく、心をくすぶられる。
 

また、“解放区”の始まりの部分で特に印象的だった場面がある。
 

ゴッチの歌い出しと同時に、他のメンバーの演奏に目を配りながら息を合わせ演奏する喜多さんの姿だ。
 

バンド全体の音のバランスを確認しつつ曲に入る姿が印象深く、とても心に残っている。
 

自然とアジカンのリーダーとしての役を担う喜多さんこそ、ファンもメンバーも皆が頼りにしている、正真正銘アジカンのリーダーであり、キャプテンなのである。
 

「今日は朝から体調が悪いな」と思ったら、迷わずキャプテンが掻き鳴らす爽快なギターの音色を聴いてほしい。
 

無意識に体が動いて、その不調も憂鬱な気持ちも、全部吹き飛ばしてくれるに違いない。
 
 

山田貴洋(B/Vo)愛称は山ちゃん又は山さん。アジカンのベーシスト及びバックボーカルを担当している。
 

それぞれ4人の異なった個性や価値観が強く結び付いて、生まれるグルーヴの基盤を根っこから支える、アジカン低音リズム隊の隊長が山さんだ。
 

ギターやドラムの音域の隙間を埋めるように、淀みない滑らかなベースラインが一音一音その旋律に溶け込むことで、より一層アジカンの音楽に深みが増してゆく。
 

時折、ステージ上からファンやメンバーを優しく見守る山さんらしい少し控えめな笑顔に何だか心が和む。
 

ただそこにいるだけでもメンバーの心の支えになっていることは間違いないだろう。
 
 

伊地知潔(Dr)愛称は潔、キヨポン等。バンドではドラムを担当している。
 

アジカンリズム隊の特攻隊長とでも言おうか。バンドサウンドの鼓動を刻むような脈打つドラム音の振動が肌を伝い、激しく心が震える。
 

2本のドラムスティックで奏でるロックなグルーヴ、正確に刻むその技術、そのテクニックは彼にしか表現できない類い稀な才能である。
 

また、鳴り響くバスドラムの重低音に掻き立てられた観客の手拍子と声援が会場全体を包み込み、その熱量は一気に沸点まで達する。
 

最高潮に達したその場所こそ、ファンにとっては何よりも最高の“解放区”と成り得るのかもしれない。
 
 

《解放区/フリーダム》

(“解放区”)
 
 

目に映る色鮮やかにライトアップされたステージから伝わるその4人の熱量、全身からほとばしる感動に鳥肌が立つ。汗ばむ観衆の額から醸し出るその熱気、一夜限りの空気感、そこにいる誰もがこの特別な夜を一思いに堪能する。
 
 

演奏後──。
 
 

会場を包む、盛大な拍手と大歓声が彼らを祝福する。リスナーの熱い声援から届く愛情は美しく、心の色が新しく塗り替えられたかのように彼らの表情も喜びに満ちていた。
 

それと同時に、とろけるような極上デザートを食べた後、口の中に甘く染み渡るようなその味わい深いライブの余韻、覚めやまぬ興奮に、至極心が満たされてゆくのが分かった。
 

脳内に溢れるオキシトシンの幸福感に酔いしれる中、その音にまたもや我に返された。
 
 

グゥグゥグゥグゥ──。
 
 

人はこの当たり前には勝てない。ひとまず食卓に並べた昨晩のおかずの残りを無我夢中で平らげた。
 
 

どことなくフワフワとした満腹感に浸りつつも、チョイスした楽曲のMVが、甦る“Re:Re:”の記憶の片隅に僕を連れていってくれた。
 

重なり合うドラム、ギター、ベースの音色が1つとなって、少しの歪みもなくただ一直線に、ありのままこの胸に突き刺さる。また、流れるイントロに拍車をかけるように、観客の熱い手拍子が場を盛り上げる。
 

そして、腹の底から湧き上がるリスナーの掛け声に会場全体が一体となって「今か!今か!」とその声を待ちわびる。
 

疼く体を揺らしながら、五感に鳴り響くその音色の中心に、ぴたりと纏うゴッチの声が合わさった瞬間、誰もが心を奪われてゆく。
 

それぞれがタイムスリップしたかのように、独立した時間の流れに身を任せ、心の扉を解放した。
 
 

《君を待った/僕は待った/途切れない明日も過ぎて行って/立ち止まって振り返って/とめどない今日を嘆き合った》

(“Re:Re:”)
 
 

“Re:Re:”(アールイー・アールイー)を初めて聴いたのは、アニメのオープニングテーマに起用されるにあたって再レコーディングされた時だった。
 

この楽曲には、君と僕の2人の人物が登場する。
 

歌詞から察するに主人公の君を失った悲しみや後悔、その絶望感、消えない負の感情とともに過ぎ行く日々など、そうした心から悔やむ自責の念が歌われているように感じる。
 
 

だが、しかし──。
 
 

歌詞に漂う憂鬱な雰囲気とは裏腹に、曲のイメージを根底から覆す疾走感溢れるリズムやメロディにまず驚かされる。
 

そして、その勢いをより一層加速させる生き生きとしたバンドサウンドの躍動感が相まって、苦い過去の記憶を根こそぎ全部抜き取ってしまうようなその音楽の力に心が揺さぶられる。
 

先が見えない真っ暗なトンネルでさ迷う“Re:Re:”の動かない時の流れに逆行して、脳裏に浮かぶ走馬灯のような一瞬のスピード感をメロディやバンドサウンドで表現する様は、流石としか言いようがない。
 
 

過去の失敗や後悔に囚われて苦しんだ先にある未来を、どれだけ自分自身にとって価値のあるものに変えてゆくことができるか──。
 

《どうかなくさないでよって》と歌うその言葉に、見失いかけた自分を何度も取り戻せた気がする。
 

明日への道筋は、自分自身で見つけてほしい。その問いの答えは、その胸の中にあるとアジカンは教えてくれた。
 
 

トタバタトタバタ──。
 
 

イヤホンを外すと、いつも通りの慌ただしい日常がそこに流れていた。
 

手慣れた手つきでスポンジを泡立て、素早く食べ終えた食器を洗う。
 

その後、自分の部屋に戻り、寝巻きのジャージ姿から白いTシャツに着替え、お気に入りの淡いグレーのジーンズに穿き替えた。
 

トイレを済ませ、出掛ける準備を整えた後、履き慣れた黒いスニーカーを履いて颯爽と玄関の扉を開けた。
 
 

ガチャ、ギギギ──。
 
 

新たな1日の始まりを歓迎するかのように、眩しい朝の光が解放感とともに、温かく今日も僕を迎え入れてくれた。
 
 

《笑い出せ/走り出せ/踊り出せ/歌いだそう/解放!》

(“解放区”)
 
 

“リライト”された先にある人それぞれの“解放区”
 

さあ、どこに行こうか。
すっと思い浮かぶ、“君の街まで”
 

僕らの胸の中に「今」
確かに鳴り響くその「音」を感じながら──。

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