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ライブハウスのいままでとこれから

セックスマシーン!!『緊急ワンマンライブ「すぐにライブやっとんねん!」』生配信ライブレポート

「楽しい!」「最高!」「音おっきいぜー!」……。バンドのフロントマンを務める森田剛史(Vo.Key)はライブ中何度もそう絶叫し、心からの喜びを爆発させていた。未だ多くの課題が残されているライブハウス。だが確かにこの日、再びライブハウスは動き出したのだ。
 

思えばライブハウスが再開する重大な契機となったのは、5月28日に大阪府が正式決定した「6月1日に全業種への休業要請を全面的に解除する」との表明だった。それはコロナウイルスの影響で長らく営業自粛が続いていたライブハウスにとっては事実上の解禁宣言であり、今後ライブハウスは原則着席、ステージと観客の間を2メートル以上空ける、ステージ上に透明のカーテンを設置する等の感染防止指針を遵守すれば、再び観客を入れてライブを行うことが可能となったのだ(なお上記の感染防止指針は本稿執筆時点のものである)。
 

この一報を受けて最も速くスタートダッシュを切ったのが、関西出身の4人組バンド・セックスマシーン!!(以下セクマシ)だった。『緊急ワンマンライブ』と冠されたタイトルからも分かる通り、大阪府知事の記者会見から1時間も経たないうちに発表された今回のライブは、一見ライブを信条として突き進んできたセクマシによる先走った行動のようでもあり、その実大阪府が取りまとめたガイドラインに徹底的に従うという、並々ならぬ決意を秘めての敢行だった。会場に選ばれたのは大阪心斎橋に居を構えるライブハウス・ANIMA。本来であれば350人のキャパを誇るANIMAだが、当日の来場者は49人に限定。加えて客席は7行7列で観客同士の距離をしっかりと離すことはもちろん、来場者及びスタッフは全員マスクまたはフェイスシールドを着用し、検温チェックも実施。万が一感染者が出た場合に備えて『大阪コロナ追跡システム』の利用と共に全来場者の連絡先も伺うといった、隅々まで行き届いた感染防止対策が取られた。……無論こうした試みは何かと槍玉に上げられていたライブハウスの始まりを告げる1日を成功させるにあたり「やるからには絶対に感染者を出してはならない」とのセクマシの強い思いを体現した形であったということは、本題に入る前に明確に記述しておきたい。
 

かくして去る6月1日、運命の夜は幕を開けた。腕を前後左右に広げても人と接触しない十二分な距離が保たれた49脚の椅子の他、ステージ上には巨大なスクリーンがステージ全体を覆い隠すように配置され、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。ふと座席付近に目を向けるとそこにはカスタネットや鈴、でんでん太鼓といった小さな鳴り物もセッティングされていた。その異様な光景には多少なりむず痒い気持ちは覚えるものの、やはりライブハウスにとっての新たな第一歩に立ち会うことのできる貴重な瞬間が間もなく訪れることを考えると、自ずと期待が高まる感覚にも陥る。
 

観客たちが皆一様に在りし日の爆音を待ち望むある種厳かな雰囲気の中、定刻を少し過ぎたところで暗転。直後眼前のスクリーンに『新しいライブハウスの楽しみ方(案)』なるVTRが投影された。そこではマスクの着用を求めると共に、飛沫感染防止の観点からライブ中は発声を禁止し、代わりに手拍子や鳴り物、胸の前で拳を握る『「ぐっ」とする』等で感情表現を試みること、万が一体調を崩した際はスタッフにすぐに申告する等、ライブを安全に行うにあたっての観客に対する協力事項を森田がカメラの前で実演する形で流された。
 

そして「それでは皆様、ごゆっくりとライブをお楽しみください」との森田の一言の後にスクリーンが廃されると、そこにはギター、ベース、ドラム、マイクスタンド、スピーカーというもはや目撃すること自体数ヵ月ぶりとなった、正真正銘ライブハウスのステージがお目見え。もちろんコロナウイルス対策のため前面が透明なビニールシートに覆われていたり、各楽器の配置に距離がある等の違いは確かにある。だがその光景はこの会場に集まった観客の誰もが愛してやまない、ライブハウスのステージそのものであった。
 

しばらくすると、観客の鳴らす拍手とカスタネットや鈴、でんでん太鼓による打音で祝福されながらメンバーが入場。定位置に着くなり森田は「こらまた変わった景色ですね……」と緊張の面持ちだ。その後は森田が公演中は声を上げると飛沫が飛んでしまうことから無声を心掛けてもらうこと、バンドメンバーについても一定の距離を保って演奏すること、更にはライブの途中で数分間の換気時間を設けること等、この日のライブに求められる鉄壁のルールを繰り返しレクチャー。観客ひとりひとりの協力がなければ成り立たない事実を、改めて各自の脳裏に刻み込んだ。
 

入場から数分間に渡り業務的な言動に終始したメンバーたち。彼ら自身ライブハウスでのライブが数ヵ月ぶりということもあってか、その表情はどことなく固い。しかしながらその心中には抑えきれない興奮も内在していたようで、森田は一連の注意事項の説明が終わった直後には「いやあ、なんか……こう……嬉しいなあ。嬉しいけど、ドキドキするなあ」と顔を綻ばせていた。そう森田が語る最中も、バックではアンプに繋いだギターのフィードバック音が反響したりノイズが鳴ったりとロックバンドのライブならではの不協和音にも似た音が響いていたが、これさえも今の彼らを祝福しているようにも感じられ、感動的に映った。
 

そして近藤潔(Gt.Key.cho)が打ち鳴らしたドラムを合図に楽器隊が爆音を轟かせ、森田の「俺たちライブするの、久しぶりー!」との一言から雪崩れ込んだ1曲目は、開幕を飾るに相応しい“久しぶり!”。
 

《柿の木が育つほどの時を僕ら離れ過ごした/会ってみりゃもう一瞬だ》

《あぁ素晴らしい今日だこの気持ち君は今どうだ/どうなんだ》
 

“久しぶり!”はセクマシのライブにおいて、とりわけ久方ぶりに訪れた地でたびたび披露されるライブチューンだ。けれども記念すべき1曲目に、再スタートの意味合いを含む“始まってんぞ”でも、ロケットスタートを切るが如くの数々のキラーチューンでもなくこの楽曲が選ばれたことには、数ヵ月ぶりに動き出したライブハウスでライブを行うという喜びと興奮を、集まった観客と共有する意味合いも大いに含まれていたのではなかろうか。事実“久しぶり!”がもたらした爆発力は凄まじく、ステージに立つセクマシはもちろん観客たちも皆声には出さないまでも拳を天に突き上げ、セクマシをセクマシたらしめるキャッチーなロックサウンドに身を任せていた。森田が歌詞の一部を《久しい君のその顔が》を《久しぶりの君たちが》に変えて歌唱する場面も含めて、まさしく『久しぶり』に訪れた双方向的な興奮は、大きな渦を巻いてライブハウスを包み込んだ。
 

その後は外出自粛期間中に発表された新曲を含む、キャリアを総括するかの如き盤石のセットリストで進行。実際問題セクマシの楽曲はCD音源の時点でも、他者がもたらすレスポンスを前提として作られているものが大半であるため、やはり従来のライブと比較するとやり辛い環境であったことは否めない。そんな中森田が御法度であると知りながらも無意識的に観客を煽ってしまったり、歌詞を飛ばしてしまったりと何度か感情が理性を上回ってしまう一幕もあり、この日のセクマシはどこまでも肉体的なライブを行っていたように思う。
 

そして「ロックとかライブハウスが少し怪しくて、何かちょっと触れたら怪我しそうな感じで、少し淫靡な感じがしてた、そういう気持ちを思い出して歌います」との一言の後に鳴らされた“かくせ!!”は、紛れもなく今回のライブにおけるひとつのハイライトだった。
 

《悪いことしてんじゃない 何となく人に言えない/難しくもなんともない 集まって歌っているだけ》

《ちょっとだけ変かもしれない 何となくバラしたくない/心配をかけたくはない かといってやめられはしない》
 

“かくせ!!”はMVの時点ではサビで歌われる《親からかくせ!!》の一幕から、公開当初は青少年特有の様々な秘密にスポットを当てた楽曲であると思っていた。ところが前述のMCや、三密を避ける行動の徹底が日常的に叫ばれていたMVの公開時期(MV公開日は緊急事態宣言が発令された約1週間前)等を鑑みると、この楽曲は世間に後ろ指を指されていた渦中のライブハウスを如実に表していることが分かる。中でも《悪いことしてんじゃない 何となく人に言えない/難しくもなんともない 集まって歌っているだけ》の歌詞はパンク道を地で行き、更には20年以上にも及ぶ長いキャリアの大半を地道なライブ活動に現在進行形でベットするセクマシならではの説得力を伴って高らかに鳴り響き、心を震わせた。
 

中盤以前のハイライトが前述した“かくせ!!”であるとするならば、その以降におけるハイライトは言わずもがな、彼らのライブの最大のキラーチューンと名高い“君を失ってWow”だろう。原曲では3分少々で疾走するこの楽曲はライブではほぼ決まって森田が客席に突入し、会場の外でシンガロングを試みる、観客を弄る等感情そのままのステージングを繰り広げるため結果的にかなりの長尺に変貌することでも知られている。実際今回もステージを降りる一幕こそあったものの、それは演奏途中で行われた5分間の換気タイムのみ。では此度の“君を失ってWow”がかつてのライブと比較して良くなかったのかと問われれば答えは断じてNOであり、あくまでこの限られた環境下で圧倒的な熱量を見せ付けていた。加えて「テンションを……腹の底から上げろ!」「確かにビニールは歯痒い!けどこれ越しだとしても……お前に音が聴こえてるぞー!」といった楽曲の合間に挟まれる舌足らずな絶叫も、集まった観客のボルテージを一段階上昇させる重要なスパイスとして大いに受け入れられており、思わず笑みが溢れてしまう。そして本来シンガロングによる大合唱を求めるサビ前で「グッとしろ!」と胸の前で強く拳を握る森田の姿は、ライブを鑑賞している観客の発声を禁止する意味合いの他にも「今すぐこの場に集まった全員でシンガロングしたい」という森田自身の感情を、必死に押し留めているようでもあった。
 

そして大サビに至る直前、森田が関係者扉を経由して客席後方の防音扉へと移動して行われた換気タイム。無論この換気タイムは三密で言うところの密閉を回避するための行動であり、結果的に森田は約5分間に渡って防音扉を含む店内のあらゆる箇所を開け放った。とはいえこの場は本来であれば爆音が鳴り響くライブハウスであり、防音扉を開放した状態での演奏は重大な騒音問題に発展しかねない。そのため必然ギターとベースは実質的なミュート状態、ドラムはスティックのカウントオンリーで換気を進行することとなったのだが、観客が無声を余儀無くされていることもあり、この換気の5分間は極めて寂寥感漂う時間となった。だが森田はテンションの著しい低下を生まざるを得ないこの状況下でも「ちょっとごめんなさい近寄りすぎました。2メートルですよね……」「僕ここいたらあれですね。トイレとか行きづらいですよね」としきりに笑いを誘ったり、果ては「知ってました?ライブハウスの客単価を変えるのはドリンクなんすよ。セカンドドリンク以降」と今後のライブハウスの活動に繋がる裏事情を暴露したりと、ライブが行われている今とその先の未来に繋がるトークで緊張の糸が切れないよう工夫を凝らし、この今までのライブハウスでは考えられなかった『換気タイム』という未曾有の時間を乗り切っていた。
 

以降は昨年の6月に発売されたミニアルバム『明日を見にいく』収録曲を含む比較的新しい楽曲群の中に、“頭の良くなるラブソング”や“春への扉”といった定番のライブアンセムを配置する熱狂必至のセットリストで畳み掛け、「ラスト行きます、楽しかったです。またね」との森田の短い一言の後、キーボードをつま弾いて始まった最後の曲は2017年発売のアルバム『はじまっている。』より、“胡蝶の夢”だ。
 

現実と夢の区別がはっきりとつかない状況を喩えた意味で広く知られる言葉を直接タイトルに冠した“胡蝶の夢”。キャパ350人の会場に49人の入場制限、世間の意見に逆行しての敢行、ガイドラインの徹底した遵守がもらたした窮屈さ……。確かにこの日未だ人通りの少ない大阪の繁華街でひっそりと行われた今回のライブは、あまりにも異質だった。これはセクマシにとっても、様々なライブに足を運んだ経験のあるオーディエンス側にとっても、良くも悪くもまさしく夢のような一夜であったと言えるだろう。しかしサビで歌われる《ひとときの短い夢だった とても気持ちの良い夢》は今、決して悲観的な意味合いとしてではない、明らかな希望的側面を携えて響き渡っていた。ラストは「叫んでいた俺たちと、今日来てくれた、今日観てくれた、今日ライブハウス空けてくれた、もう全部引っくるめてロックバンド・セックスマシーンだったウォー!」との森田の絶叫でもって、運命的なライブの本編は終了。メンバーは満面の笑みでステージを降りたのだった。
 

彼らがステージを降りた数分後、次第に早くなっていくリズミカルな手拍子でも「アンコール!」の絶叫でもない、各自の鳴り物がもたらす多種多様な打音が鳴り響く名状し難い暗転時間を経て再び呼び込まれたセクマシ。直ぐ様演奏に取り掛かると思いきや「鳴り止まぬ太鼓、そして鈴。アンコールありがとうございました。おまけターイム!」との森田のアンコール宣言を皮切りに、長尺のMCへ突入。その間もパコパコと鳴り続ける鳴り物を見て試合中にメガホンを叩く様をイメージしたのか、日野亮(Ba.Key.cho)による「なんかワールドカップみたいやね」との突っ込みから次第に話は脱線し、最終的には思い付くチーム名を列挙するサッカー談義に花咲かすメンバーたち。しかしながらそのグダグダなトークの応酬は観客との熱量の不一致を強く感じさせるものでもあり、収拾がつかない展開に耐えかねた日野が「もうええねん!」と告げて強制終了。ライブ前とは大きく違うリラックスムードである。
 

その後は至って真面目に、集まった観客のマスクの着用、心斎橋ANIMAが用意したビニールシート、鳴り物を販売する楽器店等、この日が多くの協力のもとに成り立ったものであることを改めて口にした森田。……かと思えば再び森田が「三密言えますか?」と近藤を問い質す形で急ハンドルを切り、よもやの「密室」(三密は密閉・密集・密接)発言で予想外の展開に帰結してしまうのもまた、予定調和なしのステージングを繰り広げるセクマシらしく、微笑ましい。
 

最後に「今日のライブのスタイルはひとつの案です。もっといろんな人がいろんなことを思い付いていくと思うんで、楽しみで仕方ありません。最後おまけで1曲だけ。そういう新しい時代の未だ見ぬライブハウススタイル目指して」と森田が語り、良い意味ではこの日のライブハウス再開を彩り、また悪い意味ではコロナウイルスにより『新たな生活様式』を実践せざるを得ない時代へと突入した今鳴らされるべき1曲“新世界へ”でもって、運命的な夜は出し惜しみなしの完全燃焼で終演を迎えた。
 

休業要請こそ解除されたが、ライブハウスには今なお課題が山積している。三密やキャパシティの問題はもちろんのこと、感染防止策をどう講じるのか、ライブを開催したとして、ライブハウス存続に値する程の採算が取れるのか……。考えは尽きない。人数を大幅に制限したライブならいざ知らず、押し合い圧し合いで熱気に包まれるライブや、大入りのソールドアウト公演が実現するのはおそらく何ヵ月も先の話になるだろう。だが悲観的に捉えるだけでは何も始まらない。ひとつの例として今回セクマシが声以外で感情を表現する手段として鳴り物を提唱したように、ライブハウスとアーティストサイドには未だ見ぬ無限の可能性が秘められているのも事実。そう。ポジティブな考え方次第で、きっとライブハウスは何でもできるのだ。
 

ライブ終了から数週間後、セクマシは公式ツイッターを更新し、仮にコロナウイルスに感染した場合に発症から行動制限解除までの最低限のラインであるとされる2週間以上が経過したが、ライブの参加者が感染したという報告はひとりもいなかったことを公表した。よって今回、心斎橋ANIMAで行われたライブはひとつの結果として、疑う余地もない大成功に終わったのだ。……人の捉え方は多種多様だ。此度の彼らのライブ開催を快く思わない人もいるだろうし、中にはひとりの感染者も生み出さなかったという明確なデータを見た上でも異を唱える人もいるかもしれない。けれどもセクマシが先陣を切ったこの日のライブには世間の風潮や反対意見では決して崩れない程の、大きな意義があったのだと、僕は信じて疑わない。今回のライブはまさにライブハウスの未来を占う試金石と称するに相応しい、歴史的な一夜だったと言えるのではなかろうか。

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