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異世界の交差点

YOASOBI「夜に駆ける」に欅坂46「避雷針」を聴いた日のこと

YOASOBIの「夜に駆ける」。
きっかけは、何となく見ていた朝の情報番組だった。
どうしようもなく耳から離れなくなって、MVを何度も何度も観た。
なぜか分からないけれど、ふと気づくと頭の中に流れているのに、ふとしたきっかけで、何かの拍子にぱっと消えてしまいそうな気がする。それと同時に、どこか懐かしい感じもした。
 

ほぼピンクと青のみで描かれているMVの世界。
中学生の頃の美術の教科書の、補色残像の説明のページにあった、青いいちごのイラストを思い出した。
青いいちごのイラストをじっと見続けて、ぱっと隣の白い空間に目を移すと、補色残像の効果で見慣れた赤いいちごが一瞬だけ見える、というもの。

何を求めてかは分からないけれど、何度も何度も聴いた。
まるで、本当に赤いいちごなんて見えるのかと半信半疑ながらも、青いいちごをじっと見つめたあの美術の時間のように、何かを求めて、何度も何度も、聴いた。
 
 

「君」をこの世界のすべてから守りたい。
理由なんて分からないけれど、どうしても「君」に惹かれてしまうんだ。
理屈を超えて本能で、「君」を求めてしまうんだ。
強くて弱い「君」。
「僕」の心のなかにはこんなにも強烈に存在しているのに、繋いだ手を離してしまったら最後、二度と「君」は戻ってこない気がする。瞬きしている間に、「君」が見えなくなってしまったらどうしよう。

本当は心のどこかで、分かっているだろう。
もうやめておけ。それ以上深入りするな。
それ以上は、「僕」が「僕」でなくなってしまうから。

「僕」のなかの冷静な「僕」は、こう言う。
でも、そんなの無理だ。

『初めて会った日から 僕の心の全てを奪った』

そんな「君」に出逢ってしまった「僕」はもう、「君」に出逢う前の「僕」には戻れない。
「君」の手を離すことなんて、絶対にできやしないんだ……。
 

儚く、美しい「君」に惹かれ続ける「僕」。
手を離せば楽になると分かっているのに、「君」の手を離すことができない「僕」。

『もう嫌だって疲れたよなんて 本当は僕も言いたいんだ』

それでも、「君」から離れられない「僕」。
 
 

私は、こんな「君」と「僕」に、どこかで出逢ったことがあるのではないか。
何故か、そんな気がしてならなくなった。
 
 

ある曲を聴いて、全く別の曲が頭のなかを漂うことがある。
ある曲を聴いて、いつか読んだ小説が思い起こされることもあるし、小説を読んで、どこかで聴いた曲が流れてくることもある。
 

そんなとき私は、まるでいろんな人が創った世界の、交差点に立っているような気持ちになる。
カラフルな光が重なり合ってできた、真っ白な光に包まれているような、そんな気持ちになる。
 

二つの世界はいつも、突然繋がる。
 

今回もそれは、突然訪れた。
 
 
 

『君が気になってしまうよ』
『そんな不器用さを守るには 僕がその盾になるしかない』
『僕は何に惹かれたの? 僕は何に期待するの ?僕も不幸に見えると言うのか?』
『信じることは裏切られること 心を開くことは傷つくこと』
『落雷のような悲しみに打たれないように……』
 

……あぁ、これだ。
 

もう何度目かも分からない「夜に駆ける」を聴き終わって、あるとき、突然頭のなかに流れた欅坂46の「避雷針」。
何かがぴたっとはまった感じ。

青いいちごを見続けて本当に赤いいちごが見えた、あの美術の時間の小さな感動を、また味わったようだった。
 

そこからはもう、いろいろなことを考えてしまう。
 
 

『君が気になってしまうよ』
『面倒臭いその存在』
『扱いにくいその価値観』
『だって 誰も理解できない』
……『だから きっと目が離せない』

理解できないのに、理解できないからこそ、「君」にどうしようもなく惹かれてしまう「僕」。
何に惹かれているのかも分からない。
自分がどこにいて、どこに向かっているのかも分からない。
……でも、ただ、『暗い目』をしている「君」を守りたい。
 

『初めて会った日から 僕の心の全てを奪った』
『騒がしい日々に笑えない君』
『君にしか見えない 何かを見つめる君』
『君の為に用意した言葉どれも届かない』
……『僕の目に映る君は綺麗だ』

確かに目の前にいるはずなのに、まるで違う世界にいるかのような「君」。
今は分かり合えなくてもいい。「僕」の言葉が届かなくてもいい。
……でも、ただ、『寂しい目』をした「君」のそばにいたい。
 
 

絶対に出逢うはずのない、二つの世界の「僕」と「君」。
でも、彼らはものすごく近い世界を生きているような気がする。
絵本の次のページが、今読んでいるページの裏に印刷されているように、ものすごく近くにいるのに、目を合わせることはできない。
そんな距離で存在している気がしてならないのだ。
 

……もし、彼らが出逢ってしまったら?
二つの世界の交差点で、すれ違ってしまったとしたら?
 
 

「僕」は、もう一人の「君」を見て何を思うのだろう。
「君」に感じたあの衝動をもう一度感じて、「君」以外の世界の存在を知って、落胆するだろうか。
あるいは、もう一人の「僕」にとって特別なもう一人の「君」は、「僕」にとっては何てことのない、風景のなかの人物の一人であろうか。
 

「僕」は、もう一人の「君」から離れられないもう一人の「僕」に、何か感じるだろうか。
もう一人の「僕」のなかに自分自身を映し出してしまったとしたら、客観的な立場で、冷めた目で、彼のことを一度でも見てしまったとしたら、「僕」にとっての「君」は、それでも変わらず特別であり続けるのだろうか。
 

「君」は、もう一人の「君」の存在に気がつくだろうか。
気がついてしまったとしたら、万が一お互いに通じ合ってしまいなどしたら、世界はどうなってしまうのだろうか……。
 
 

二つの世界の交点に立ったとき、こんなにもいろいろなことに想いを巡らせてしまう。
これだから、音楽の、小説の、映画の、そこらじゅうに溢れているカラフルな世界に飛び込んでいくのはやめられないなあ、と思う。
 
 

だから何だ、と言われてしまえばそれまでだ。
でも、こんな風に、異なる世界の交差点に立っているような時間を、歩道橋の上から、あっちの世界とそっちの世界を眺めているような時間を、私は、大切にしたいと思うんだ。
こんな風に、カラフルな世界に出逢えることは、どうしようもないくらいに愛しいことなんじゃないかと思うから。
 

日常は、容赦なく流れていってしまう。
特に、一人で過ごす時間が長い今、気づいた頃には終わってしまっているような毎日の繰り返しに、恐ろしくなることもある。
会うことが難しくなって初めて、“人”から、どんなに大きなパワーをもらっていたのかを実感する。
 

世界が狭くなってしまいがちなときだからこそ、私は、世界は広いと信じたい。
あっちの世界とそっちの世界に交点があるのなら、私が今いるこの世界も、どこかに繋がっているかもしれない。
そう思ったら、恐ろしく過ぎていく毎日も、少しだけ楽しくなってくる。

目の前だけを見て、何かに怖くなってしまうこともある。
そんなときこそ私は、カラフルな世界との出逢いを大切にしたい。
大丈夫。きっと、世界は広い。
 

(『』内は「夜に駆ける」「避雷針」より引用)

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