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誰かの願いが叶うころ

宇多田ヒカルに学ぶ「優しさ」

最近聴くようになったアーティストに、宇多田ヒカルがいる。彼女の歌を聴いていると、本当は知りたくなかったことを知らされることが多い。しかしそれをあたたかく受容してくれているような。そんな心地になる。さて、今回のタイトルにしている「誰かの願いが叶うころ」だが、これも彼女の歌だ。この歌にはこんな歌詞がある。

誰かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ
みんなの願いは同時には叶わない

私はこの部分で、自らの大学入試を思い出してしまう。高校三年間、否、幼い頃から憧れていた大学を受けて、そして失敗したことを。

始まりは幼稚園の頃だった。当時の私は県庁所在地に住んでいて、家の近所には名門の大学があった。本を読むことが好きだった私は、両親にこんなことを言われた。
「文学部に行くといい。あの大学には文学部もある」
本のことを学ぶなんて素敵だと、当時の私は魅了された。以来、まっすぐにその大学に憧れ続けた。金銭的な都合も鑑み県内でしか大学を選択できなかったのも強かった。

高校生になってもその思いは変わらなかった。幾度となくオープンキャンパスや模試で学び舎に足を運び、廃れるどころか増す一方。しかし、成績は一向に上がらない。何度模試を受けてもEとDを右往左往。高校三年になり勉強に本腰を入れても変わらない。それどころか周囲に追い抜かれ右肩下がり。

そんなとき、推薦入試の枠を頂いた。担任に何度も訂正されつつ死に物狂いで志望理由書を書いた。毎日社説をスクラップし要点をまとめ感想を書いた。面識の有無関わらず先生方に面接対策や小論文の添削をお願いした。小論文対策や面接指導で黒と赤に染まった大学ノートを見て、頑張っている自分を褒めながら、努力は必ず報われると信じた。

迎えた当日、小論文も面接も太刀打ちできなかった。面接に至っては、この学科に向いていないとまで言われる始末。発表当日。私の高校は携帯持ち込み不可となっていて、合格発表は昼休みを利用してパソコン室で閲覧するよう言われていた。しかし発表時刻は午前九時。待てるわけがなかった。密かに持ち込んだ携帯で、一時間目の休み時間に個室に閉じこもって結果を見た。番号はもちろんない。人前では泣けない私だったが、偶然声をかけてきた先生の前で泣きじゃくった。その後の授業は数学で、マーク式の問題演習だった。時は十二月頭。センター直前の張り詰めた無音の環境に、私の鼻をすする音だけがこだましていた。

昼休みになった。推薦をしていただいた校長先生、自らアポイントを取り面接指導をお願いした教頭先生やその他先生方に涙ながらに報告に向かった。先生方は皆優しく、まだ一般もあると励ましてくださった。それで私はさらに落涙。こんなに泣き濡れた昼休みは初めてだった。

教室に戻ろうとしたとき、パソコン室を通り過ぎた。その際、一人の女の子が画面を見て、涙を流しながら歓声を上げているのが見えた。私と同じく他学科の推薦枠を頂いていて、一度AOで涙を呑んでいた。ようやく彼女の思いが実ったのだ。素直に祝福できず、その場を立ち去る自分を呪った。自分が悔し涙が止まらないときに、彼女はうれし涙を流している。たった一つのURLを開くだけで、ここまで相反する感情を抱く人間たちがいる。その状況に耐えられなかった。

あれから三年と半年。今になっても色褪せない。そんなときにこの歌に出会った。宇多田ヒカルの歌を聴いていると、これは私のために作られた歌だと錯覚に陥る。それほどに強大な力を持っている。この歌は、このような形で締められる。

小さな地球が回るほど 優しさが身に付くよ
もう一度あなたを抱き締めたい できるだけそっと

今でもまだ、この過去を思い出し悔やむ。しかしいつか、そんな自分もそんな過去も、青春だったと笑える日が来るのだろうか。それほどの優しさが身に付くのだろうか。そうだと期待したい。期待をしたら、無意識のうちにそれに応えられるよう、自分が変われるかもしれないから。

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