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予感のする方へ

帰り道、SUPER BEAVER、決断

都内の小綺麗なオフィスの打ち合わせスペースで、私は人生の岐路に立たされていた。

「異動して一緒にやってみるつもりはある?」

わからなかった。言っている意味ではなく、「自分にそのつもりがあるのか」が。

その人から出てきたその言葉は、良く言えばプロジェクトへのお誘い。システマティックな意味では「異動の意思確認」だった。

大学院を卒業して、世間一般で言う「大企業」に就職して2年半。苦しい事も、かと言って特別楽しい事もない社会人生活を送っていた自分に、こんな転機が訪れるとは露とも思わなかったことだ。

誘ってもらったのは、メンバー5人、結成わずか1年ほどの新規プロジェクト。内容は社内風土改革。そのためには方法は何でもありの特殊部隊だ。

これまでも本業の傍らお手伝いとして参加しており、そこでの経験はこれまでのモノトーンの仕事に比べると確かに楽しかった。頻繁な外出、社外の方との打ち合わせ、全く知らない分野の知識。そのどれもが刺激的だった。

だが異動となると考える。異動したチームで自分は活躍できるのか、プロジェクトがなくなる可能性はないか、その時に自分のキャリアはどうなるのか。いつも楽天的な私もこの時ばかりは少し迷っていた。

そんな問いを受けた帰り道、お気に入りを集めたプレイリストが選曲してきたのは、SUPER BEAVERの『予感』だった。
 
 
 

ビーバーの歌はいつだって真っ直ぐだ。日本語らしいハイコンテクストの表現からは少し離れて、いつだって伝えたい事をそのまま言葉にするようなバンドだと思う。

初めて知ったのはアニメのOPとなっていた『らしさ』。

”だから 僕は僕らしく そして 君は君らしくって
始めから 探すような ものではないんだと思うんだ”

就活の頃知ったこの曲を、面接前に必ず聴いていたのを思いだす。未来に対して明確な意思も希望もなく、なのに「あなたらしさ」を求め続けられ、それを捏造する事に疲れていた頃、この歌詞は何度も私を救ってくれた。聴く度に「このままで良いんだ」と、自分らしく居させてくれた。

そんなビーバーが、今後のキャリアを大きく決めかねないこのタイミングでまた背中を教えてくれた。『予感』はこんな風に始まる。

”どうあったって自分は自分で
どうやったって誰かにはなれない
ならば嫌うより 好きでいたい 想うまま 想っていたい
会いに行こうよ 会いたい自分に”

振り切れ度50%。

確かにそうだ。誰にバカにされようと、会いたい自分に会えるかも知れない道を選びたい。
 

”予感のする方へ 心が夢中になる方へ
正解なんて あって無いようなものさ 人生は自由”

振り切れ度80%。

予感がする。もちろん正解はわからないし、自信なんてない。それでも夢中になれる予感がする。

そうして曲は終わりへと向かい、最後の言葉が放たれる。
 

”名も無き感動に 感情に 想うがままの名前をつけていこう
名も無き感動に 感情に 気づいた意味をちゃんと愛せるように”

そうだ、この感情はきっと「ワクワク」なんだ。小さい頃近所で初めて知らない道を見つけたような、スポーツで初めて大会に出た時のような、この不安と期待が入り交じる感情を「ワクワク」と呼ぶんだ。

振り切れ度100%。

長らく感じていなかった、居心地の悪さを伴う感情の名前をはっきり思い出した時、メールの送信ボタンは押されていた。

「先程頂いた話ですが、ぜひやらせてください」
 
 
 

様々な紆余曲折を経験して、その度に喜怒哀楽を感じながら、異動してからの1年はあっという間に過ぎ去った。

そしてまた選択の時が来た。お金も時間もかけて、社外も巻き込んで、プロジェクト存続をかけた一世一代の大仕掛け。成功すれば目標達成への大きな一歩、失敗すれば間違いなくプロジェクトチームは解体だろう。その中で自分の担う役割の責任は大きい。

もちろん挑戦しない道もある。チームの存続を最優先にするならば、劇的な効果は見込めなくとも、手堅く安全策でいくことも出来る。

だが今度は迷わない。大事なことはビーバーが教えてくれた。
期待と不安を胸に踏み出そう。予感のする方へ。

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