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哀しみと愛しさの隙間から見えたもの

SEKAI NO OWARIがデビューして10年経った今、彼らが解放したストーリーとは

私たちは今年、梅雨という名前にあまりにもピッタリな天候が続いていた季節の間、身体や大事な荷物を傘の下で守ってもらった事が何回あっただろうか。
 
そしてそんな傘の存在を忘れ、どこで別れたかも思い出せずに放置してきた事がこれまで何度あるだろう。
 
私は、無条件にただその人のためだけを想う愛情という傘をどれほど今までの人生で差し出され、どれくらい差し出す事が出来たのだろうか。
 
 
SEKAI NO OWARIがインディーズデビューから10周年という記念すべき節目の年に発売したシングルの表題曲「umbrella」。

聴き始めた瞬間、まるで雨粒の一滴が波紋としてどこまでも広がっていくように、深瀬さんの美しくて透き通っている高音域の歌声が耳から全身に行き渡っていく。
そうして始まったと思えば、その余韻に浸らせる暇もないほど勢い良くAメロへと吸い込まれてゆき、力強くも切なげな歌声により幕が上げられていった。

鼓動に直接轟くようなドラムの音、最後の最後まで雨が上がることに対して惜別の思いを募らせるようなピアノの繊細なフレーズ、曲の世界観をくっきりと浮き上がらせるようなストリングスの音色、ストーリーの展開を支えるギターの響き…

今までの中でも特に苦労して作られたというこの曲は、一度聴いただけでもぎっしりと詰まった彼らの熱量が届いてくるようだった。
  

「umbrella」という曲のタイトルを聴いた時、すぐに思い出したのは2017年に彼らが発売した「RAIN」という曲の存在だった。

「虹が架かる空には雨が降ってたんだ
 虹はいずれ消えるけど雨は草木を育てていくんだ」
 
たとえその時は雨が二度と降り止まないような暗く色のない世界に見えても、必ず意味のあるものとなって未来に恵みを与えてくれる、そんな風に人生の移り変わりを重ねたこの曲に救われた人は少なくないと思う。
鬱々とした雨の日だって悪くないと思える、そんなふとした瞬間にも音楽の力を感じられた。

その最後はこのセリフで締められている。
 
「そうだ 次の雨の日のために 傘を探しに行こう」
 
偶然かもしれない、けれどまるでバトンを渡すかのように紡がれた“傘”というワード。
今度はその傘が主人公となり、密かなる想いを抱えたまま自分の役目を全うする、そのように描かれた姿は胸を締めつけられるような哀しく儚い物語だった。
 
「私は君を濡らすこの忌々しい雨から
 君を守る為のそれだけの傘」
 
RAINでは希望を与えた雨、しかしumbrellaのAメロで歌われる傘の目線から見れば“忌々しい”とさえ思うのだと言う。

ここで考えられる事。

それは、きっと傘自身にとっても“恵みの雨”だったという点。

一見矛盾した表現だが、短く説明するならばそれが一番分かりやすい言い方だと思う。
何よりも必要とされる存在となって君に寄り添う、少しでも長くその時間が続きますように…そういう願いが込められているのではないだろうか。
まるで自分自身に言い聞かせるように。

「忌々しい雨から 君を守る」

それこそが“君”のそばにいて良い理由。
そこに自分が存在する意味を見出していることが感じ取れた。

ただ、そんな切ない感情の奥にはもっと計り知れないほどの深い想いが描かれているように思えた。
 

以前、「傘にどこか共鳴するところがある」と深瀬さんが話しているのを聞いた時、少し衝撃を受けたのを覚えている。

「自分はビニール傘みたいに吹けば飛ぶような存在だった。
だけど、こうして10年間SEKAI NO OWARIを続けてきたことから自信が生まれ、このタイミングで傘を題材にした曲の歌詞を書くことが出来た」と、そんな風に語っていたのだ。
 
思えば私たちは、彼らがこの10年間どんなに美しくて眩い景色を見てきたのか、その裏でどれだけ悔しくてやりきれない思いを重ねてきたのか、ほんの一部だってきっと知らない。
だけど、そんなただのファンにも一つだけ確かに分かる事がある。

それは、これまで4人はどんな瞬間も支え合いながら大きな愛を生み出し、それを私たちが両手に抱えてもこぼれ落ちそうなほどに目一杯、差し伸べ続けてくれていたという事。

しかも10年間、ずっとだ。
 
その愛を感じたきっかけは、デビューしてからこれまで彼らが作り上げた曲に共通して、“優しさ”そして“物事を対極から見る視野の広さ”という芯がある事に気づいた時だった。
 
光と闇、正義と悪、生と死、希望と絶望、悲しみと喜び、争いと平和、朝と夜…
普通に考えていたらどうしたって真反対にあって交わらないはずのテーマを、どちらかを特別に敵視する訳では無く、その両面が混在する世界の姿、そしてそこで生きる者たちの本質を常に歌ってきた彼ら。
中には祈りにも似た願いが込められたものも多いように思う。

その根底にある優しさと考え方に触れた時、かつて無いほど心は震え、感じたことの無い温もりで満たされていた。

「人に優しくしよう」と、言葉で言うのは簡単だ。
だけど、こんなにも純粋で信じられないほどまっすぐな愛を“音楽”という力のあるものを通じて届けるためには、いくらエネルギーと時間を費やしても到底簡単な事ではなかったはず。
それでも彼らは、今もなお新しい世界を追求し、表現の幅をどこまでも広げながら現在進行形で続けている。
  
そうして生まれる優しさは時に、強烈な鋭さを持って振りかかってくる事がある。
目を瞑ってしまいたくなるような、そんな自分の弱い一面を剥き出しにされてしまったらもう逃げられない。
もちろんそれは、自分なんてダメだと奈落の底に突き落とされるものではなく、どんな無力さや苦しみもしっかり受け入れられるように真実を見つめさせていくものだった。
それもただ一方的に答えを押しつけるのではなくて、一人一人が様々な方向から考えて決めた道を進めるように。

これはきっと彼ら自身が、本当の弱さや絶望するほどの苦しみを人一倍知っていて向き合ってきたからだと思う。
だからこそ彼らからは、脆く崩れてしまうことのない凛とした土台のある強さが伝わってくる。

実は、今回のumbrellaにはそんな彼らの強い愛にどこか似たものを感じられるような気がしていた。
 
「私の気持ちは自由だと誰かが言った
 そんな事ないわ 運命よりも変えられないの」

自分ではもう変えることが出来ないほどの固い意志。
一度決めたその覚悟を、生涯を賭けて貫き通していく生き方が映し出されているように思えたのだ。
 
ただ…
 
「雨が静かに上がり傘立てに置かれた傘
 忘れた事さえ忘れられてしまったような」
 
きっともう、こんな風に誰からも必要とされなくなり、忘れ去られてしまうと恐れる事は二度と無いはずだ。

10年という月日の積み重ねによって彼らの存在は確立されてきた。
今や多くの人の心に無くてはならない灯火のような存在になっている。

だからこそ、深瀬さんが言った通り10周年というこのタイミングで、umbrellaという曲が一つの作品として生み出され、世に放たれていったのかもしれない。
 
…と、曲の事を伝えているつもりが、彼らへの想いを語るばかりになってしまった。
 
要するに、このumbrellaの主人公として擬人化された傘の想いには底知れない愛情があると、ただそう伝えたかった。

この曲のテーマとなっているのは“無償の愛”。

自分の運命に気がついてしまっても、際限なく溢れる悲しみに蓋をして、一つの見返りも求めずにすべてを捧げるほどのあまりに大きすぎる愛が描かれている。
 
実際、ここまで深い愛を誰かのために差し出すことなど人生の中でそうある事じゃないかもしれない。
けれど世界中には、100人いれば100通りの様々な色や形をした愛の表し方があると思う。
だからこそこの曲は多くの人の心にそれぞれ違った見え方で浸透していき、ある時には寄り添ってくれる味方のような存在になってくれるのではないだろうか。
そうして力を貰った者たちは、きっとこれからも4人の織り成す世界に魅了されていくことだろう。
 
そしてこの曲の主人公自身も、彼らの手によって陽の当たらぬ想いを歌の中に昇華されたことでどこか報われたのではないだろうか…私の主観に過ぎないものの、そんな風に感じている。

長い時間をかけて多くの人の居場所を作ってきた彼ら。
きっと4人はこれから先も、一人でうずくまっている人がいればその人が顔を上げられるように目線を合わせて手を引っ張ってくれる。

変化し続けながらも変わらない愛を彼らは描いているからだ。

いつか、その貰った愛に負けないほど私たち自身も彼らや大切な人たちに対して大きな愛を抱えながら生きていく事が出来るのだろうか…
 
そんな事を考えながらも、今思う事はただ一つ。

この10年を超えた先の未来、4人によって引き続き丁寧に紡がれていく物語をいつまでも私は素直な気持ちで見つめていきたい。

今はただ、そう願わずにはいられない。

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