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神はサイコロを振らない

メジャーデビューに寄せて

コートが手放せないまだ肌寒い春のある日、新宿のタワーレコードに寄った。エスカレーターで上がってすぐに店内のBGM、レジを打つ音、客とスタッフとの会話、それら全ての音をその音楽がノイズキャンセルのように遮断し、甘く力強い男性の声が真っ直ぐ私の耳に響き、突き抜けて入ってきた。透明で華奢な糸に引っ張られるように音のなる方へ進む。

目の前には夜に入る前の青い空と海のシンプルで美しい情景のCDジャケットがそこにあった。タイトルは明朝体で「秋明菊」と書かれていた。これが神はサイコロを振らないとの出会いだった。

帰宅し、早速SNSとYouTubeでバンド名と楽曲を検索した。
もしエメラルドの原石を見つけた時、磨く前にでもきっとこんなにも輝いて見えるんだろう、そう思った。グラデーションの空が永遠に続くような静寂、泡沫の幽玄の美、気品のある和語、その世界観を確立する力強いバンドサウンド、底抜けに好きな夜明け前の世界だった。
 

「秋明菊」のCDを出した当時は彼らの地元である福岡を拠点に活動していて、東京でのライブはほんの数回だった。”次、彼らが東京でライブをするならば、絶対に行こう”そう決めた矢先、渋谷のライブハウスでのライブが解禁された。迷わずにチケットを取り置きした。

迎えたライブ当日。神はサイコロを振らないという世界は、洞窟の中にある神秘の泉のように流麗だった。ライブハウス、ここは泥まみれになりながら這いつくばる場所、そして彼らも必死で掴んだ東京行きのチケットだったはずなのに、あまりの美しさに呆気に取られた。ライブは底抜けに美しかったが、同時にたくさんの努力をしている地に足がついている音がした。その姿はまるで白鳥のよう、そう思った。

その後も密かにライブに行き、密かに音源をチェックし、密かにCDやグッズを買った。ある時、気がつけば所属していた事務所を辞めていて、フリーで活動していたこともあった。
 

世の中が閉鎖的になった今、「夜永唄」が話題になっていた。これは一年以上前にリリースされたCD「ラムダに対する見解」に収録されている楽曲だ。昨今の「夜永唄」のバイラルヒットの渦の中にいて思うことは”いい音楽はいい”素直にそう思える。

音楽業界は誰しもが痛感するほど経済が厳しい状況だ。本来予定されていたライブは無期限延期や中止を余儀なくされ、ライブバンドは無観客配信ライブ、グッズを通販で販売し、バンドマンがライブハウスを救おうとこぞって立ち上がった。
 

そんな最中で今日、渋谷のWWW Xで行われた無観客配信ライブでユニバーサルからのメジャーデビューが発表された。”業界初”のリモート契約だそうだ。”業界初”なのはたまたまかもしれないが、対面で会えるその日を待たずとも遠隔で契約する、そのくらいに音楽のプロであるレコード会社が彼らの音楽に信念を置いてくれたのだと思うと、1ファンとしても非常に光栄である。

これはアーティストにとっても業界にとっても価値のある行為であるに違いない。いい音楽をスピーディーに、いいアーティストをより早く世の中に輩出する、時代を変える素晴らしい取り組みなのだ。
 

日本のバンドシーンに彗星の如く現れた「神はサイコロを振らない」。彼らの音楽はきっと貴方の孤独に寄り添い、清凉な川の流れる水のように心を浄化してくれるだろう。
 
 

拝啓、神はサイコロを振らない様

メジャーデビューおめでとうございます。
ここからがスタート、引き続き応援させていただきます。

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