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藤井 風に背中押された日。

50代主婦に見る『帰ろう』のききめ

11年半同居した姑が亡くなった。正確に言えば、最後の3年は施設そして病院にお世話になったので、同じ屋根の下で暮らしたのは正味8年半程。
価値観も性格も何一つ合うモノがなく、意地っ張りな者同士、彼女と私は何かとぶつかり合った。
互いに情は確かにある。彼女の良さも解ってるし、私のことも認めてくれてはいた。だから、所謂嫁姑バトルのような、そんなさもしい感情は一切ない。
ただ馬が合わない。
若い私の方がへりくだればいいんだろうけど、譲れない理不尽な事も多く、
何かとかみ合わなかった。
それでも彼女が怪我や病で倒れる度に、長男の嫁として精一杯の愛情を注ぎ
献身的に介護した。どんなに尽くしても、感謝の言葉すら聞けない。
体や脳が思うように働かない苛立ちから、彼女は元気なとき以上に我が儘になりどんどん駄々をこねる幼子に戻っていき、時に私に当たり散らした。
「すべてを投げ出したい!」と、何百回心が折れそうになったことか。

家での介護が難しくなり3年前、姑はこの家を離れ、専門スタッフの介護を受け始める。そして“命に関わる選択”が増えたのを理由に、血の繋がりのない私は一歩下がり、彼女の息子達に全権を委ねることにした。私なりに嫁業を精一杯やったので、この頃にはもう、燃え尽きていた。
だから、この2年面会にも行かなくなっていた。私が行っても、好い顔はされない、互いにストレスになるだけ。そう思っていたのも理由。

それなのに“危篤の報せ”を受け、一番に病室へ駆けつけられたのは、偶然
近くで仕事していた私だった。
病室に入ると、そこには2年ぶりに見る寝顔があった。
看護師さんに促され、彼女のそばに行き、顔を近づけ耳元で「お義母さん!」と言った。でも、その後が続かない。何か言わなきゃと焦るだけで声が出ない。
2年分の無礼を詫びるべきか、それとも何か労いの言葉でもかければいいのか・・・
好い言葉が見つからず、決まり悪く椅子に座る。
何を言えばいいんだろう? さっきの言葉に詰まった自分を思い返しながら、姑の横顔を見ていた。
窓の外に広がる曇天の空。蒸し暑いけど、海からの風が心地好かった。

不謹慎かもしれないが、なぜだかこの時、急に私の脳内で藤井 風の『帰ろう』がイントロから適度な音量で再生された。そしてダンナが着くまでの約1時間、姑と私の久々のふたりきりの時を見守るように、藤井 風はこの歌を飽きずに
唄い続けてくれた。

私の脳内自動リピート曲『帰ろう』は、1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』のラストを飾る、日本語の美しいバラード曲だ。
「『死ぬために、どう生きるか』人生を、帰り道に重ね合せて、自問自答した」
セルフライナーノーツの本人コメントをもとに詞を注意深く聴くと、彼自身の『帰ろう』だけでなく、聴く者それぞれの人生分『帰ろう』のテーマや風景が浮かんでくる。そしてモチロン、私の『帰ろう』も。
これまで自分なりに詞を理解したつもりでいたけど、まさか命の灯火が消えゆく姑のそばで、その歌詞の意味を思い知ることになろうとは。
 
 

<ああ 全て与えて帰ろう
ああ 何も持たずに帰ろう
与えられるものこそ 与えられたもの
ありがとう、って胸をはろう> 
 

<与えられるものこそ 与えられたもの> こんなシンプルで大切なこと、
この世に生まれてまだ20年ちょっとの若者に言われて気づくなんて。
 
 

<憎みあいの果てに何が生まれるの
わたし、わたしが先に 忘れよう>
 

私達は憎み合うくらい険悪な関係だったわけじゃない。でも、今の私に必要なのはコレだ。この歌に救われた。
念のために言うが『帰ろう』は、決して嫁姑物語を描いたものではない。
しかし、嫁姑のややこしささえも鎮める力が、この歌にはある。
私がそれをこの前、体感したからわかる。
姑が骨になる日。
最後のお別れの時、お棺に眠る彼女の耳元で今度は「ありがとう」がすんなり
言えた。
この瞬間、私の中で何年も燻っていたモノが全部消えていた。
 

アルバムリリースの前、藤井 風の公式Twitterには、こんなメッセージが
あった。
「あなたの何かのお役に立てますように」

ありがとう、風君。早速、役に立ちましたよ。
 

※<>内はすべて『帰ろう』(アルバム『HELP EVER HURT NEVER』収録)
より拝借

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