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世間の米津玄師像から脱却した米津玄師

MV『感電』で魅せた米津玄師の進化

進化とは、「生物個体群の性質が、世代を経るにつれて変化する現象」という意味だそうだ。だから一個人が変化する現象は、進化とはいわずに「変化」であったり「成長」という言葉で表すらしい。
けれども米津さんに関しては、変化ではなく、「進化」という言葉を使いたくなる。ボーカロイドで音楽を創っていた米津さんは、その頃の自分について、自己肯定感がほとんどなかったと言っていた。しかし今では、日本を代表するポップミュージシャンへと昇りつめた。

世間は米津さんのことを、「新曲を出すたびに新しい音楽を魅せつけるアーティスト」と高く評価している。
しかし、メディアにはあまり出演せず、SNS での配信も他のアーティストに比べるとかなり少なめだ。長い前髪で目が隠れているという容姿も相まって、多くの人が米津さんのことを「ミステリアス」というレッテルを貼っていたようだ。一昨年の大晦日、米津さんが初めて生放送で『Lemon』を歌った。その時も、出演者や視聴者は「米津さんが笑った、しゃべった」と驚き、大きな話題になった。
だから雑誌のインタビューでは、「ずっとミステリアスだとか孤高だとか、そういう言葉で片付けられることが多くて。ほんと、それに対して辟易してるんですよ。(中略)その、謎の人間みたいな。テレビに出て一言しゃべったら『しゃべった!』って言われるぐらい(笑)」「そういう珍獣みたいな扱いを受けてるのが、ほんとに嫌なんですよね。」(Rokin’onJAPAN2019年7月号)と言っていた。
 

そしてそのインタビューから1年後。深夜遅くに、新曲『感電』のMVが公開された。
おそらく、多くの視聴者が「え!?これが米津玄師なのか!?」と驚いたのではないだろうか。これまでのMVの米津さんといえば、クールでかっこよくて色気があり、どこか陰のある雰囲気を醸し出しているものがほとんどだった。しかし、『感電』のMVで歌い踊る米津さんは、明らかに今までの米津さんではなかった。
画面いっぱいに口を大きく開いて笑い、髪の毛をぐしゃぐしゃにしながらギラギラ光るダンサーとキレのあるダンスを踊っている。
 

私は頭のなかが真っ白になった。
 

初めて見る米津さんをどう受け止めていいのかわからなかった。戸惑う気持ちのまま、私を置いてけぼりにして、映像と音楽はどんどん進んでいく。

クールな米津さんが猫を抱えながらにゃんにゃんにゃんと歌っている。両頬を手で挟んで舌を出してお茶目に笑っている。そしてなんと!パンダの四輪車に乗ってからの、宙に舞う米津さん。

「米津さんが浮いた!飛んだ!」

もう大笑いするしかなかった。今までの私の中での米津玄師像が一気に崩壊した。『感電』という、たったひとつの映像を通して、米津さんはさらに新しく「進化」してしまった。
恐らく多くの視聴者も同じ思いだったのではないだろうか。
 
 

「兄弟よ如何かしよう もう何も考えない様 銀河系の外れへと さようなら」(『感電』より)
そうだ。米津さんは、「米津玄師」という世間のレッテルを、銀河系の外れへとさようならしてきたのだ。
「真実も 道徳も 動作しないイカれた夜でも 僕ら手を叩いて笑い合う 誰にも知られないまま」(『感電』より)
米津玄師らしさという真実なんてもうどうでもいいんだ。これが米津玄師の真実なんだから。なんて最高に楽しい夜なんだろう。時間を忘れて、何度も何度もMVを繰り返して見た。

「失ったつもりもないが 何か足りない気分 ちょっと変にハイになって 吹かし込んだ四輪車」(『感電』より)
『Lemon』が大ヒットし、多くの称賛を得た米津さんでも、何か足りないと感じていた。それはもしかすると、「米津玄師はミステリアス」という世間が貼ったレッテルを、剥がしてしまいたいという自分自身の衝動が足りないと感じていたのかもしれない。
 

「たった一瞬の このきらめきを 食べ尽くそう二人で くたばるまで そして幸運を 僕らに祈りを まだ行こう 誰も追いつけない くらいのスピードで」(『感電』より)
レッテルを貼られた自分も、このハイになった自分も、一緒になって共にこの一瞬のきらめきを食べ尽くそうではないかと言っているように聴こえる。
 

「稲妻の様に生きていたいだけ お前はどうしたい? 返事はいらない」(『感電』より)
世間から見られている米津さんと、真実の米津さん二人が対話しているように聴こえる。米津さんは、稲妻のような煌めきを一瞬で放つように生きていきたいのではないだろうか。自分に対する世間が持つネガティブなイメージを、一瞬で覆してやりたい。そんなふうに衝動的に生きてみたいのではないだろうか。
 

そんな米津さんの内なる強い心の響きが伝わってくる歌詞の中にも、米津さんが音楽を創っていくうえで大切にしているであろう私たちへのメッセージ、優しさもきちんと伝わってくる。

「きっと永遠が どっかにあるんだと 明後日を 探し回るのも 悪くはないでしょう」(『感電』より)
この部分の歌詞が米津さんらしくて大好きだ。
こんな幸せな夜にも、永遠の幸せは存在しない、人の命にも永遠はない。そんなことはわかっている。けれども、永遠を探すように生きるのもきっと楽しいよと私たちに、そして米津さん自身に言っているように感じる。
やらなきゃいけないこと、やりたくないことが明日待っていようとも、明後日は楽しいこと幸せなことがあるかもしれない。明日ではなく、明後日を追いかけてごらん。そしたら、永遠にたどり着くかもしれないよ。
そんなふうに聴こえてきて、明日も頑張ってみようかと思えるのだ。米津さんはライブでも、「嫌なことも面倒なこともやらなければいけない。だけどまたこんなふうに、みんなで美しい時間を作りましょう。だから、楽しく生きていこうね」(ツアー『脊椎がオパールになる頃』MCより)と言っているように。
 

世間のミステリアスというレッテルから脱却しても、米津さんは米津さんだと感じる。このMV で笑い転げる米津さんも真実だし、今までのかっこよくて寡黙でシャイな米津さんも真実なのだ。
そして私は、意外な米津さんを観れたことが単に嬉しかったのではない。米津さんがこうしてまた新たな米津玄師へと進化した姿を観れたことに心から感動した。
他人から見られる自分に自信が持てず、他人とどこか違うことに疎外感を感じ、他人と比べて劣等感を抱く毎日。「変わりたい、もっと遠くにいきたい」という日々願う自分の手を、米津さんが引っ張ってくれている感覚になれた。

「人は変わろうと思えば、変わることができるんだよ」と。
 

MVが公開されたのち、仕事に行くと、「米津さんめちゃくちゃかっこよかったですね」「空飛んでたよね!かっこよかった!」「あんな風に笑うんだね、可愛かった」「かっこよかった、やっぱ米津さんは天才だったね」などと、たくさんの人が私に声をかけてくれた。普段は対岸にいて、あまり話をしない人でさえ、そういって話しかけてくれた。米津さんは、やっぱりすごい人だ。私を一緒に遠くに連れて行ってくれる。
 

米津さんは、「人間の欲望ってとどまることを知らないもので、もっともっと知ってもらいたい、そのために好きでもない自分の歌声や、奇妙な出で立ちや、そういうものを表にさらさなければいけない。やりたくもないライブをやらなければいけない。結局、自分の首を絞めるようなことばっかりやってるんですよね。そうじゃないとつまんないですよ。自分がやりたいことだけ、自分の殻に閉じこもって、自分のパーソナルスペースの中だけでやったところで全然おもしろくない。(中略)自分が自分のことを好きでいるために、自分の嫌な部分も全部出す必要があった」(HIGHSNOBIETY JAPAN 2018 インタビュー)と言っていた。
今回の新曲やMVに関しては、米津さんがどういう思いで創作したのかはまだわからないが、きっとこんなふうに、いつも自分を進化させていくことを米津さんは考えていたのかもしれない。世間から見られているネガティブなイメージを認める強さが米津さんにはあるだろうし、そこから脱却しようという勇気もあっただろう。

世間が決めた「米津玄師」から脱却しようとした姿は、ほんとうに生き生きとしていた。そして、新しく進化した米津さんは、美しく、とても幸せそうで、満足そうに見えた。
 

米津さんへ。
米津さんの勇気や強さが感電して、私達も変わろうと強くなれる気がします。素敵な音楽を、素晴らしいMVを、ありがとうございました。これからの新しい米津さんの活躍を、楽しみにしています。

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