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生活とエンタメのカクテル

ライブレポート『LIVEWIRE くるり in 京都磔磔』(2020年7月11日)

 はじめに 〜私のライフスタイルとくるり熱のうつろい〜

私がくるりのファンになったきっかけは、2003年くらいだったか。当時、バンドを組んでいる高校生だった私に、軽音部の後輩が『TEAM ROCK』を宿したMDを貸してくれたのだ。それからバイトで多少のこづかいを稼ぐ大学生になって、くるりのリリースを追ってCDをよく買っていた。

くるりに限らず、CD屋やレンタル店で音楽漁りをよくやったものだった。けれど、学生を卒業する頃には、自分のお気に入りの音楽がだいたい出揃った気にでもなったのか、いつしか音楽を掘るのが「なあなあ」になっていった。

それでも私はくるりが大好きで、心のルーツミュージックだという思いは変わらなかった。けれど、熱心にリリースを取りこぼさず追っていたかつての私はいつのまにか遠くへ行っていた。それから結婚もしたし、子どもができて音楽に没頭できる時間が減ったのもあったかもしれない。

最近になって、くるりの岸田繁がTwitterをやっていることを知った。フォローすると、彼らの仕事に関する情報が流れてくる。それらを受け取っているうちに、かつての「くるりリリースフォロー」に熱心だった私がいつの間にか近くに戻ってきていた。サブスクリプションサービスで、音楽がいつでもスピーディに手元に立ち現れるようになったという生活環境の変化も大きい。

そんな経緯があり、今回の『LIVEWIRE くるり in 京都磔磔』(2020年7月11日)を迎えた。私と妻には、くるりが好きという共通点がある。家庭での平和な鑑賞を期待して、私は視聴チケットを買った。くるりのファンを自称する割には、私はくるりのライブを会場で観た経験が2、3度しかない。会場の「京都磔磔」も未訪だから興味があった(くるりのライブ・ベスト『Philharmonic or die』で京都磔磔を会場とした録音を聴いたことがあるのみだった)。

 ライブレポート『LIVEWIRE くるり in 京都磔磔』

およそ1時間半、様々な編成のくるりを観た。岸田繁(Vo,Gt)、佐藤征史(Ba,Vo)、ファンファン(Trp,Key,Vo)、サポートに野崎泰弘(Key)、松本大樹(Gt)、BOBO(Dr)が今回のセットのメンバー。

『琥珀色の街、上海蟹の朝』で始まる。ハンドマイクで歌う岸田繁。初めてオンラインで観る彼らのステージへの興奮と新鮮さで、フワフワする私。照明やカメラワークが多彩に見せる初めての京都磔磔はモダンな要塞に見えた。

ファンファンと松本大樹がハケる。最近のリリース『thaw』収録の『鍋の中のつみれ』。次いで、『麦茶』。野崎泰弘がハケる。トリオで『温泉』『目玉のおやじ』『コンバット・ダンス』。ファンファンが再登場し『東京レレレのレ』。『言葉にならない、笑顔を見せてくれよ』(2010)の収録曲が豊かだ。このアルバムは岸田繁、佐藤征史にサポートのBOBOを加えた編成が主。今回、ドラムスにBOBOを迎えたために実現したセットリストかもしれない。

それから、現くるりメンバーのみでのアコースティックな編成に移る。最近の活動の一態として私を楽しませてくれていた、YouTube上で無料で観られるオンライントーク・演奏・飲み会の「くるりのツドイ」を思わせる。『キャメル』『ブレーメン』『宿はなし』と演奏した。本人の加入以前のレパートリーを吹くファンファンのトランペットに惚となる。くるりの歩みを描いた、実在しないドキュメント映画のエンドロールを観ているような気持ちになった。3人の中で一番新しいメンバーのはずの彼女の音が、私にこれほどの郷愁と感慨をもたらす不思議さに浸った。

すべてのサポートメンバーを含めた編成に戻り『Liberty&Gravity』。岸田繁の持つ風変わりなギターが画面に映る。この「ミャンミャン」と騒がしい鳴り、響き…そう、インドの楽器・シタールを思わせるのはその名の通り、エレキ・シタールだ。チューニングや弦がギターと同じなのか、ギタリストとしての技術で演奏できるらしい。キラリとしたアタック、くぐもった残響が印象的な野崎泰弘による鍵盤の和音はまるで瓦屋根の上の鯱のよう。ファンファンと松本大樹のハーモニックなフレーズが素晴らしい。特に楽曲エンディング付近、トランペット&エレキギターの合成音はまるでなまめかしく這い寄る固有生物のようだった。ファンファンの加入、そして現在のサポート体制に至って、くるりはこんな妙技を編み出していたのだ。これは新しい武器だと思った。

お気に入りのあの曲のイントロが鳴る。『Morning Paper』だ。この曲を積んだ『アンテナ』は、くるりの作品の中でも独特の存在感を放つ、私が最も好きなアルバムのひとつ。曲の後半、最後のコーラスを迎える前あたりからの熱狂と高揚は、今回のセットリストを通してみてもハイライトのひとつだ。撮影・制作陣がメンバーの手元を大写しにして臨場感を伝える。演奏中、ドラムス・BOBOのフィルインが1拍はみ出したようなシーンがあって、それに気付いたであろう佐藤征史がコーラスパートを歌いながらも見せた表情に浮かべた微かな笑み、一瞬の岸田繁のBOBO方向への視線の動きを私は見逃さなかった。曲が終わって、「ゥォェーーイ!」とコールする岸田繁。レスポンスするBOBO。岸田繁:「あとで編集な」「(一同、笑)」。こんな様子をプレイバックできてしまうのも配信ならではだ。現体制のくるりは、バンドのメンバーシップが良い。ステージ自体が超自然的な存在に見守られているかのようだった。私も、その超自然の一部だったかもしれない。

野崎泰弘がハケる。『ロックンロール』の降臨に胸が躍った。今回の『LIVEWIRE くるり in 京都磔磔』を鑑賞して特筆したいことのひとつが、松本大樹のギター。ソロパートは明らかに、この音楽に「定型のピースをはめ込む」以上の仕事だ。『LIVEWIRE くるり in 京都磔磔』というチャンスに生まれた、完全なオリジナルバンド。彼のギターは、サポートという区別の存在と一緒に私の心を奪って行った。

松本大樹がハケ、野崎泰弘が戻る。『心のなかの悪魔』。鳥飼茜の作画によるMVが記憶に新しい、4月に配信、5月にCDリリースされたばかりのアルバム『thaw』の顔だ。ピアノを入れたフォー・ピースの素直なバンドの音と、内省的な歌詞が静謐で美しい。くるりの名バラードリストに、私はこの曲を書き加えた。

松本大樹が戻り、ストラトでメロウなソロを聴かせた『奇跡』。ラストは『everybody feels the same』。メンバーでコーラス、標題の歌詞“everybody feels the same”を唱える。ネットワークを通じて、時間も場所もばらばらに、仮想上で一堂に会した視聴者たちが心の中で共に標題を唱えたかもしれない。MCが長引いたことを理由に時間の都合で1曲削った様子だったが、直前の岸田繁の「いいんじゃないですかコレが最後の曲で」という言葉に、およそ1時間半夢中になった私が頷く。楽器をおろして「またね〜」と発した佐藤征史の笑顔も、それに同意していたと思う。メンバーは一列になってステージを降り、京都磔磔の階段を上って行った。

 むすびに 〜逃しても追える配信ライブ〜

配信でライブを楽しむというのは、多くの人がこの頃初めて体験することだと思う(あるいは未体験か)。日常生活にその新しい楽しみをスマートに合流させ損じた私は、家族の風呂や食事の進行に押されて、ろくに視聴環境の準備ができないままに開演時刻を迎えて焦った。視聴中も、我が家の幼児たちが「わぁわぁ」して平和な鑑賞とはいかなかった。

ライブ後には、3日間程度の見逃し配信期間があった。私が視聴環境の準備を怠けたことも、当日の家庭の生活をスムーズに進行しそこねたハンディも小事だ。見「逃す」どころか、繰り返し再生し、延々とライブの視聴体験を「追って」摘み取った。

ライブ会場に赴いて、一度きりの体験を持って帰るのとも違う。無料・または定額で特に期限もなく見続けられる動画配信ともやや違う。「ライブ配信は生演奏の代替じゃなく、独自のコンテンツなのだ」といった主張が聞こえてくるこの頃だけれど、今回自分で体験してみて確かにそう思う。楽しみに時間的・形式的な幅がある。いつ・どこで・どんな風に楽しむか、個人に依拠する。私は自宅でカクテルをつくって、寝間着で飲みながら鑑賞した。結局、オンタイム時は妻ばかりが幼児たちにかまってくれた(妻、ゴメン)。でも、こういう家庭の風景と大好きなバンドのライブが、バーチャルにひとところに重なる体験は今までになかった。翌日以降に渡って、こってりとプレイバックしながらこの文章を書いた。ライブレポート(らしきもの)を初めて書いた。そんな気まぐれを起こさせるくらいに、この鑑賞体験は私に強く作用した。ちなみに、メモを取る気のない怠けた書き手にも、配信ライブは優しかった。

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