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ACIDMAN・配信ライブ―音楽を愛する人々の結晶

「してやられた」を体感した話

2020年7月11日。
私はパソコンの前にいた。

ACIDMANの初有料配信ライブ・THE STREAMを観るためだ。

以前、音楽文に掲載していただいたように、3月11日のACIDMANの無料配信ライブで、私にとって、ライブハウスがどれだけ大切で、ライブハウスで鳴らされる音楽をどれだけ求めていたのかを気づかせてくれたACIDMANの音楽に、もう少し触れてみたいと思ったから。

また、7月11日のライブは、配信ならではの企画を考えていると、大木さんがインタビューで発言されていたので、どんな配信ライブになるのかという期待もあった。
 
 

結論から言うと、それほど彼らの音楽に詳しくない私でも、ただただ感嘆するしかなく、驚きの連続で、見て良かったと心の底から思えるライブだった。
最初から最後に至るまで、緻密に計算され尽くした演出は、これからしばらくは続くであろう配信ライブという形において、表現の仕方は沢山あるのだと、新しい可能性を示してくれたように思う。
 

3月11日の配信ライブは、ライブハウスで行う通常のライブを、ネットを介して伝える、シンプルな配信だった。そのライブも、ライブハウスで鳴らされる音楽を求めていた私にとって、心が潤う素敵なライブだったが、今回の配信ライブでは、映像を駆使した配信ならではのライブとなっており、通常のライブでは体験出来ない新鮮なもので、全編を通して、一つの芸術作品を見ているかのような感覚に陥った。
 

ライブが始まり、背景のみならず、ライブ空間そのものに映像が投影される。
MVでも始まったのかな?と思わせるほどに、ライブをしている3人に溶け込む映像。
「これが配信ならではということか」と納得しながらも、なんとなく、映像を使うんだろうなという予想をしていた私は、この時点ではまだそこまでは驚いていなかった。
「そうきたか!」と膝を打つ思いがしたのは3曲目の「to live」だった。イントロでは背景に野生動物達の映像が流れる。
そして歌が始まったその瞬間。
演奏・歌唱するACIDMANを背景に、to liveのLyricがタイポグラフィーで現れる。
それにより、早口のように捲し立てられるLyricが映像として目に飛び込んでくる。まるで、私達は背景映像に使われている全ての生きとし生けるものと等しく、ただ生きて、ただ死んでいくというメッセージを突きつけるように。
この演出には、配信ライブを観ていた観客が皆驚いていて、チャット欄の流れが特に速かった。

その後も、照明や映像を駆使しながらライブは進んでいく。
彼らの代表曲・ALMAが始まる前には、大木さんが南米チリにあるアルマ望遠鏡を訪れた時に撮影したという星空が背景に投影される。
その頃には既に配信ライブが始まってから、映像や照明の美しさにより、ACIDMANの音楽の世界に引き込まれていた私は、「あ、私、今宇宙にいるなー。」なんて物凄く平凡な感想しか持ち合わせていなかった。ライブを観ているのに、MVの世界に没入しているようなあの不思議な感覚を上手く伝えられる程の語彙力がない自分を恨めしく思う。
ALMAが終わった後、MCを挟み、次の曲が始まった瞬間、また驚かされる。

メンバーの配置が変わっている。

ライブ開始時からALMAが終わるまでは、画面左からBa.サトマさん、Gt&Vo.大木さん、Dr.イチゴさんが三角形に並ぶ、いわばよくある3ピースバンドの陣形だったACIDMANが、大木さんのMC中に、3人の距離が詰められ、向かい合うように円形になっていたのだ。
そして、そこから、その3人の周りをぐるぐる廻るように、揺蕩うように動くカメラワークと共に、インスト曲が始まる。カメラのスイッチャーを使う事なく、ワンカメだけで撮られるその映像を観ていると、私達が3人の間を自由自在に浮遊しているような感覚を受ける。
生配信という事で、円形になったメンバーを映すそのカメラワークの途中でスタッフが映り込んでもおかしくない状況だけれど、一切映り込む事はなかった。

to liveでのタイポグラフィーといい、MC中に観客に察される事なく陣形を変える手はずといい、この配信ライブの為に、ACIDMANチームがどれだけ考え尽くし、動いているのか、長年のファンでなくとも、手に取るように…というのはあまりにも烏滸がましいのだけれど、伝わってくる。

それは、メンバーの衣装をスタイリングする程の大木さんのこだわりや気持ちだけでなく、今はまだ以前のようにライブを行う事が出来ない中で、音楽が鳴り止む事がないように、そして、音楽を愛する観客の為に、普通のライブではない驚きや感動を与えたいと考え続けた音楽を愛するスタッフの皆さんの情熱が具現化したライブだったとも言えるだろう。

「従来のライブが1番だけど、配信ライブも2番手になれるように。」「こんな経験はなかなか無いから、前向きに」そんな事を語っていた大木さんの言葉が、嘘ではないというのが、このライブを通して伝わってくる。

未知のウイルスによって、私達の生活は一変してしまった。だけれども、それを悲観してばかりじゃいられない。マイナスな言葉、攻撃的な言葉は出そうと思えば幾らでも出てくる。コロナは関係なく、辛い思いを抱えている人も沢山いるだろう。
人は悩みを抱えると、その問題が自分の全てを覆い尽くしているような錯覚に陥る。その原因は他者なのか自己なのか。
そんな悩み多き時代に生きる人々へ、メッセージを伝える為の演出が、本編最後の「Your Song」だった。
この曲は全編を通して、英語で歌われている。ライブハウスでも盛り上がりそうなキャッチーな曲だ。背景にはACIDMANのライブでの光景が映し出されていた。メンバーは勿論の事、ライブハウスで音楽に熱狂するファンの姿も映し出されている。きっと、ライブハウスに行きたくても行けない、画面の向こうにいるファンへのメッセージなんだろう。ライブハウスでの光景を思い出しながら聴いて欲しいとの思いからなのか、映像はその背景のみで、照明の使い方も、ライブハウスでのそれのようで、ごくシンプルな演出だった。配信ライブの本編の最後を、そうしたのは、ライブハウスで行うライブへのリスペクトの表れなのかも知れない。
ただ一つ、Your Songでの配信ならではの演出は、全編英語のこの曲に、和訳のテロップを付けた事だ。
和訳を付けることで、彼らの伝えたいメッセージがよく伝わってくる。

“きっと あなたも私達も間違ってはいない”

自分も他者も認める優しさ。

“祈ろう 互いの運命を讃えよう
私達は先へ行かなければならない”

お互いの健闘を祈りながら、前に進もうとする強さ。

それでも前に進むには力が必要だから、

“貴方の呼び掛けが糧になる”

そして何度も繰り返される
“You’re O.K. (あなたは大丈夫)”

悲しみや苦しみの中、前進するのには勇気が要る。でも、”あなたは大丈夫”と背中を押してくれる彼らがいる。

私達は経験した事のない現実を生きている。自粛期間が終わった後も、何が大丈夫で、何がダメなのか、手探り状態の日々だ。
いつまで手探り状態の日々が続くのか、誰にもわからない。
それならば、今出来る最善を尽くそう―そんな気概を感じた配信ライブだった。
 

本編ライブを終え、最後のMCにて、新曲Rebirthの配信は9月である事、このライブ後に音源として初披露されるという事が発表された。そして、大木さんが「Rebirth、生まれ変わるっていう意味なんですけど、スペルを変えたらReverse、巻き戻るとか逆再生とかって意味にもなるんだけど、生まれ変わってまた巡っていくんだという曲、聴いてください。リバース!」と言ってカメラに指を向けた瞬間―この日、何度驚いただろうか―さっきまで流れていた映像が、逆再生され始めた。

その瞬間は、目の前で繰り広げられている映像について脳内の処理が追いついていなかった。

「は?????」

家の中で、パソコンの前で、リアルに呟いた。
私って、本当に驚いた時は、「は?」って言葉が出るのか。別に知っても誰も得をしない自分に関する情報を手にした後は、新曲Rebirthと共に、reverseされるこの日の配信ライブの映像を背景に流れるクレジットを眺める。ライブ中も、一つの映像作品を観ているみたいだなと思っていたけれど、まさかエンディングロールまで用意されているとは。
「してやられた」とは正にこの事か…と、その鮮やかな演出方法に半ば放心状態で、逆再生される映像を眺めつつ、贅沢な時間だったなと、この日のライブを振り返っていた。Rebirthが流れ終わった後も、インスト曲と共に、ライブ映像がどんどん逆再生される。
灰色の街で、最初は映像がモノクロで、画面が色づき始めた頃に大きな花束が出てきたのも見応えあったな、とか、やっぱりto liveのこのフォント最高だなとか、想いを馳せているうちに、オープニングで流れた「灰色の街」のMVへと戻る。
いよいよ本当にラストだな…と、しんみりしたのも束の間。
 
 

灰色の街のMVで終わりの筈だった。
ハズだったが、モニター画面が映り、大木さんが映る。

「は????」
二度目の「は?」が出た。
 

ついさっき、「してやられた」と思ったばっかりなのに、ACIDMAN凄いわ、この演出力…と感嘆していたところだったのに、またしても「してやられた」のである。

この日の映像が逆再生され、配信は終わったと思い込んでいたが、そこにまた、つい先程ライブを終えたばかりの、生の大木さんやスタッフさん達がいた。

そして、秋にインストライブを行うという、とっておきの告知をして、本当の本当に配信終了となった。
 
 

この、最初から最後まで緻密に計算し尽くされた配信ライブの感動は、私はきっと忘れる事はないのだろう、と思った。

1回のライブで、「してやられた」と何度も思う事ってあるだろうか。
そもそも、「してやられた」と思う体験自体、なかなかするものではないだろう。
ACIDMANは沢山の驚きをくれる。
 

【「2020.7.11. ACIDMAN」
また渇き始めている私の心に、沢山の潤いを与えてくれる、そんなライブになりそうだ。】

上記は、私が5月にACIDMANの音楽文を書いた時の文章だ。
今思えば、3月のライブハウスでの配信ライブも、観たキッカケは偶然だったけれど、「してやられた」体験の一つだったんだなと感じる。
 

2020年5月の私へ。
潤いだけじゃなく、沢山の驚きと感動の詰まったライブだったよ。
8月になったら、デージーの種を撒こうね。
 
 
 
 

” “内はACIDMAN・Your Songの和訳より引用

※MC内容はニュアンスです

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