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変遷するライブシーンで

今だからこそ成し得た、超能力戦士ドリアンによる存在証明

とてつもないライブだった。オンライン配信だからこそ可能な多数のギミックと演出を駆使した約2時間に及ぶ熱演は紛れもなく、ライブエンターテインメントの何たるかを明確に提示した、記憶に残るに相応しい唯一無二の体験であった。
 

去る7月11日に開催された、超能力戦士ドリアン初の生配信ワンマンライブ『画面の中からこんにちは!』。この日は自身初となるオンラインライブということもあり、事前に「1曲目はこれかな」、「一言目に何を語るんだろう」と開始時の演出に様々な思いを巡らせていたのだが、そんな期待を込めたオープニングは『おーちくん(Dance.Vo)が何故か十字架に磔にされている』という誰もが予想だにしなかったトンデモ展開から幕を開けた。良く見るとバックには紅蓮の炎がメラメラと燃え上がっており、おーちくんの顔には所々煤が付着している。未だ理解が全く追い付かない中、おーちくんが「実は僕は今、閻魔様に捕まっております。突然のことで驚かれたと思いますが、まずはライブについて諸注意をさせてください」と口を開くと、今回のライブの録音や録画、アップロードは固く禁止すること、ライブ中は出来るだけ『#ドリアン生配信』のハッシュタグを付けてツイートすることなど、此度のライブにおける鉄壁のルールの数々が述べられた。
 

そして一連の諸注意が終わると、おどろおどろしいバックミュージックと共に地獄の番人・閻魔様の野太い笑い声が響き渡り、おーちくんが地獄に落とされた主な理由と彼が元の世界に戻る唯一の方法が語られた。以降の閻魔様の話を整理するに、閻魔様がおーちくんを拘束し続ける理由は「他の2人が8週連続リリースのために曲作りを頑張っていたのに、毎日家でダラダラしていただけ。何も仕事をしていない」というおーちくんの堕落しきったこの数ヵ月にも及ぶ自粛期間中の生活に起因するものであると判明し、おーちくんのライブの様子を実際に観て閻魔様が納得出来ない限り、決定は絶対的に覆らないとした。かくして超能力戦士ドリアンによる初のオンラインライブ……ひいてはおーちくんの地獄行きを回避するための最後の手段とも言える、運命のワンマンライブが幕を開けたのだった。
 

その後画面は徐々にフェードアウトし、いつしか地獄の光景は大阪・心斎橋に居を構えるライブハウス、Pangeaのステージへと遷移。満面の笑みを浮かべたおーちくんによる曲紹介と共に鳴らされた1曲目は、名状し難い推しへの愛情にスポットを当てた“尊み秀吉天下統一”。
 

《まさに尊み秀吉天下統一 沼落ち確実ホトトギス/良い物見させて頂きました/堪らない!ヤバくない?語彙力足りない》
 

『尊い』とはイラストやグループの推しメンバーへの好意を中心とし、今や様々な好きな人や物への愛情を端的に表す広義のネットスラング。対する『豊臣秀吉』は言わずもがな、歴史を代表する戦国武将である。この双方を絶妙に掛け合わせた“尊み秀吉天下統一”は確かに古風な合いの手こそ取り入れてはいるものの、サウンドはキラキラと響き渡るシンセサイザーを主としており、あまりに現代的だ。その絶妙な違和感と疾走感が織り成すアルサンブルでもって、画面越しながら確かに、内なる興奮が高まる感覚にも陥る。
 

超能力戦士ドリアンはギター2名とメインボーカル1名の3人で結成された、ロックバンドとしては一風変わった編成のバンド。更には基本的にはPCの打ち込みを大々的に使用してメロディーを形作っている関係上、ともすれば音圧が欠如した淡白な演奏に聴こえてしまう可能性もゼロではない。だが今回のライブでは生楽器の少なさに伴うサウンド面での物足りなさは一切感じなかったどころか、後述する型破りなパフォーマンスを阻害せずストレートに届ける点においてはむしろ、ギター2本に打ち込みを合わせた独自のサウンドは非常に適した編成にも思えた次第だ。そしてバンドメンバーは数か月ぶりのライブということもあり、やっさん(G.Vo)とけつぷり(G.Cho)はいつになく力の入ったプレイを魅せ、先程まで絶体絶命の危機に瀕していたおーちくんも軽やかなダンスを披露し、心底楽しそう。曲の終盤には両の手の平を合わせて拝む「あぁー尊い!」の振り付けもバッチリ決まり、最高の滑り出しだ。
 

続いては持続した熱量で次の楽曲へ移行……するかと思いきや「このまま曲に行きたかったんですけど、いきなり僕は弦を切りました!」とのやっさんの報告により、ライブは急遽弦を張り替える時間を繋ぐためのMCタイムへ突入。
 

繰り返すが、この日は超能力戦士ドリアンにとって初のオンラインライブ。そのため直接思いの丈を述べる一幕こそなかったが、彼ら自身強い決意を胸に臨んでいたはず。そのため元々は“尊み秀吉天下統一”からは間髪入れずに楽曲を演奏し大いに熱量を上げる予定だったらしく、ギターを降ろした直後に「有料ですよね今日これ!すいませんでした!」と流れるような土下座で謝罪したやっさん。……正直素人目に見るとトラブル面は然程感じなかったどころか、むしろ軽やかにギターを掻き鳴らしていた印象さえ抱いていたのだが、実際は弦が切れるのみならず冒頭のギターリフを弾きこなした時点でチューニングも狂っていたらしく、スタッフからは「一旦おちつこう」とのカンペが出ていたという。復旧を待つ間には、やっさんが「でもあのオープニングから止めれんくない?」、「アーカイブ用にもう一回演奏しよや」などラジオのレギュラー出演で培われたトークスキルで何とか場を繋いで待機時間を感じさせない工夫を見せ付けていたが、その間も5分が経過すると自動的に次曲のイントロが流れてしまうPCや予想より遥かに長時間復旧しないギターに翻弄され、いたずらに時間が経過していく。
 

そんなこんなでようやく弦が張り替えられ、ある程度時間に余裕があることを確認したメンバーは気を取り直して“尊み秀吉天下統一”を再演奏。「この曲聴いたことありますよね皆さーん!」と前にも増してしきりに盛り上げるおーちくんに対して先程予期せぬトラブルに見舞われたやっさんはというと、回復したはずのギターの調子がまだ良くないらしく、ギターを弾きつつペグを回してチューニングを調節する強引なテクニックで軌道に乗せようと試みるも、楽曲の途中では遂にギターの音が鳴らなくなるハプニングが。そんな最も悪い形で発生した事象にパニックに陥ったやっさんが「音が鳴らへん!」と叫んでヒヤヒヤする場面もありつつ、何とか完奏へ。奇しくも2度のトラブルに見舞われてしまった“尊み秀吉天下統一”。けれども予測不能な展開もまた、リアルタイムのライブならではだ。事実開幕の時点では少しばかり緊張していたメンバーも演奏終了後は完全にエンジンが掛かった様子で、互いに顔を見合わせながら一様に笑顔を浮かべていた。
 

来たる8月26日には自身3枚目となるミニアルバム『マジすげぇ傑作』のリリースを控える彼ら。今作は前作『ハンパねぇ名盤』から、何と約4ヶ月後という短いスパンでのリリースとなる。そのワーカホリックぶりを体現するかの如く、この日のセットリストは比較的新しい楽曲を広く展開しつつ、随所に彼らの代名詞とも言えるライブアンセムとファンによるリクエスト曲や替え歌等独自の試みも取り入れた、大盤振る舞いの構成となった。
 

当然細部まで練り上げられたそのライブの興奮は画面越しにも十二分に伝わるもので、《ちょちょちょ!ちょっと待って/牛さんは食べられる側の存在》の歌詞に思わず膝を打つ“焼肉屋さんの看板で牛さんが笑っているのおかしいね”、様々な食材を取り上げつつ、最終的に『レモン1個に含まれるビタミンC=1個分』との解に着地する“レモン一個分のビタミンC”、楽器隊が演奏を放棄してキレの良いダンスを繰り広げた“天保山”、教育テレビを彷彿とさせる振り付けで一体感を生み出した“ファミリーコンサート”など、エンターテインメント性と独自の着眼点を前面に押し出した楽曲を次々披露。曲間の途中途中で彼らの代名詞とも言える「興味あるー!」のレスポンスと笑い声がスタッフから頻りに上がる一幕も含めて、『歌って踊って笑顔で帰ろう。抱腹絶倒3ピースバンド!』との公式のキャッチコピーを地で行くような和気藹々としたステージングだ。
 

今回のライブは全編通して様々な趣向を凝らしたものであったが、特段ハイライトとして映ったのは、かねてよりのライブアンセム“チャーハンパラパラパラダイス”からの新曲“鬼は退治せず話し合うべき”の予想だにしない流れだった。まずは『パラパラダンサーズ』として序盤で披露された“焼肉屋さんの看板で牛さんが笑っているのおかしいね”で登場した牛さんと、今回が初登場となる赤鬼さんが呼び込まれてイントロ部分の振り付け指導に移行したメンバーであるが、おそらく事前に多くの練習を重ねたであろう赤鬼さんのダンスと比べて、牛さんのダンスは本来高らかに腕を上げて踊る場面さえ腕を数10センチほど上方に上げる程度で、あまりに拙い。そんな明らかに練習不足な状態でスタートした“チャーハンパラパラパラダイス”だが、当然牛さんのダンスが悪目立ちする芳しくない結果となってしまう。サビ前にはとうとう不甲斐ない現状を見かねたやっさんが音を止めさせると、以降は牛さんに対して「練習してきてなくない?体もでっかいし目立つから、踊られへんのやったらちょっと楽屋下がってもらおうかな」と強い口調で叱責。すごすごとステージ裏に去っていく牛さんを尻目にやっさんは「ちょっと空気悪くなっちゃいましたけど、僕たちの意識がこれだけ高いっていうのが分かっていただけたと思いますんで」とし、改めて牛さんがいない状態で再スタート。実際牛さんがいない状態で行われた“チャーハンパラパラパラダイス”のダンスはメンバー含め完璧な出来映えで、楽曲においても某音楽ゲームの楽曲を彷彿とさせるパラパラ風のメロディーに乗せ、一体感のある盛り上がりを見せた。
 

予想外の展開に至ったのは、その直後。終始キレキレだった鬼さんのダンスに感服したやっさんが「ほんまに牛さん出て行ってもらって良かったなー。やっぱり赤鬼さん最高ですねー!」と労をねぎらった瞬間、赤鬼さんがどこからか飛んできた凶弾に倒れてしまう。無音がもたらす物々しい雰囲気の中、カメラの映像はいつしかステージ横へと遷移。そこには先程戦力外通告を言い渡された牛さんが右手に拳銃を構えてステージを見つめる、決定的瞬間が映し出されていた。そしておーちくんが鬼さんの元に座り込み「うう……牛さんめー!」と怒りを滲ませて始まった次の楽曲こそ、暴力的行為にNOを突き付ける新曲“鬼は退治せず話し合うべき”だ。
 

《ダメダメダメダメ退治ダメ/話し合いで解決きっと出来るはず/鬼にもきっと家族がいるし、守るものがあって然るべき、穏便に話進めるべし》
 

昔話の桃太郎における鬼への不遇な扱いにスポットを当て、平和的解決を提唱する“鬼は退治せず話し合うべき”は、軽快なメロに乗せて進行するポップアンセム。けれども楽曲が進むにつれて、テーマは最終的に亀を虐める浦島太郎の展開や熊と相撲をとる金太郎にも広がり、おーちくんは歌詞で様々な暴力的シーンが訪れるたびに腕をクロスさせ、異議を申し立てていく。ラスサビでは何故か仲良くなった牛さんと赤鬼さんが入り乱れて意思疏通の取れたダンスを繰り広げて握手、抱擁の果てに裏へ消える場面もあり、最終的にすっかり友好関係となった牛さんと赤鬼さんを見送りつつ、先程牛さんに赤鬼さんが撃たれた場面を至近距離で目撃していたおーちくんは「よう仲良くなれたな……」とボソリ。ごもっともな感想である。
 

以降はコメント機能を用いた多数決を試みた末、圧倒的多数の支持を受け演奏された“人見知RIVER”や意気揚々と店に赴くも一転凄まじい後悔へと切り替わる“パンケーキ量多い”、球技の根本部分をフィーチャーしつつ、喧嘩両成敗とも言うべき思いがけない主張に突き進む“ボールを奪い合う選手全員に1つずつあげたい”、遂におーちくんがライブを見ていた閻魔様に認められ、奇跡的に地獄行きを免れるに至った“いきものがかりと同じ編成”と次々に楽曲を展開。
 

前述の通り、今回の彼らのライブが笑いやコント風の展開、鋭い着眼点の歌詞など稀有な試みなど所謂『エンターテインメント性』に照準を合わせたものであったことは、紛れもない事実である。そんな中今回のライブにおいて、極めて真剣な面持ちで思いを届ける楽曲があった。それこそが来たるニューアルバムに収録される新曲“今は曲の中やけど”だ。
 

《美容院もお花見もテーマパークもBBQも/映画も舞台もスタバもカラオケも全部いく/友達と朝まで飲みにも行っちゃうし/卒業式もちゃんとやる サウナやジムで汗かいて/好きな人にも会いに行く/そして/ライブ沢山行ってやる!》
 

“今は曲の中やけど”で歌われる内容はただひとつ。それはコロナウイルスの影響により今や遠い存在となってしまった『当たり前の日常』である。加えてそれらの渇望を列挙する歌詞に拍車をかけるが如く、今までの楽曲に顕著に表れていたライブならではのギミックや、シンセサイザーを軸とした打ち込みはこの楽曲では一切なし。徹頭徹尾リアルな思いを言霊として放つ“今は曲の中やけど”は超能力戦士ドリアンの最もロックバンド然とした一面を見せ付けると共に、今鳴らされるべきストレートなメッセージソングとしても鼓膜を震わせていた。
 

その後ライブは代表曲“ヤマサキセイヤと同じ性別”、著名なお菓子と大々的なコラボレーションを果たした新曲“カンデみ~んなハッピー!”を立て続けに披露し大盛り上がりで幕を閉じたが、今回約2時間に及んだ超能力戦士ドリアン初のオンラインライブは、端的に表すとするならば『めちゃくちゃ良かった』の一言に集約されて然るべしな、全編笑顔と興奮に包まれた底抜けに明るく楽しい非現実的空間であった。実際手間暇かかったオープニングや次曲のアンケートを閲覧者に委ねた場面も鑑みると、彼ら自身も現在の実情を深く理解した上でこの日を迎えていたことは明白。普段とは異なるライブをどう楽しんでもらえるか、何が最も面白く映るかを徹底的に考えたそのひとつの結果として、最も閲覧者の心を震わせる形で大団円を迎えるに至ったのだろう。
 

……もはや公然たる事実だろうが、コロナウイルスで三密の危険性が叫ばれる昨今、大多数のアーティストの主なライブの場所はインターネット上の生配信に移行しており、オンラインライブは今後更に需要が高まっていくものと推察する。確かに生のライブと比べてオンラインライブは、幾分か劣る点もあるかもしれない。そんな中前向きに双方の折衷案を模索した今回の試みは大袈裟な言い方をすれば、かつてない局面を迎える今だからこそ独自のやり方で『ライブ体験』を証明した、言わばオンラインライブの未来を占う試金石的な代物であったようにも思えてならないのだ。

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