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振り落とされぬもの

コールドプレイ『Everyday Life』レビュー

 音楽を聴いて何かを書きたい!と感じたのは久しぶりかもしれない。

 ぼくはこれまで、このバンドは過大評価され過ぎだと感じてきたけれど、このアルバムに関しては反対に過小評価されているのではないかと思う。

 ゴスペル、ジャズ、R&B、ドゥーワップなど、アメリカの伝統的な音楽を彼らなりに咀嚼して自身の音楽に組み込んでいることが今回の新機軸だと言えるが、前作、前々作のEDMへの接近の反響も少しだけ残しつつ、よりオーガニックなサウンドに纏めて、さらにオープニング曲やタイトル曲においては、ポスト・クラシカルを参照したと思しきストリングス・アレンジまで披露するなど、彼らの作品中、最も冒険的な内容になっている。

 加えて特筆されるのは録音の良さ。最近のロック/ポップス系のアルバムでこれほど立体的な音響が感じられる作品というのも珍しいのではないか。アコースティックとエレクトリック楽器のブレンド、ハイファイとローファイのミックス具合が絶妙だ。
 オジサンみたいなので、あまり昔の話はしたくないけれど、80年代には、ドナルド・フェイゲンの『ナイトフライ』、ロキシー・ミュージックの『アヴァロン』、スクリッティ・ポリッティの『キューピッド&サイケ85』など、オーディオチェックに使うならコレ!といった、高音質を売りにした(勿論内容も素晴らしい)アルバムがたくさんあった。
 しかし、音質よりも便利さを重視するリスナー環境の変化のせいもあって、今や、クラシックやジャズを除けば、優秀録音盤に出会うことはめっきり少なくなってしまったが、この『Everyday Life』は、そんな近年では希少な、「音」に触れてみるだけでも聴く価値のあるレコードだと言える。(しかし、そもそもこの音の良さを感じることの出来るシステムを現在どれだけの人が持っているのか?というジレンマは残りますが・・・)
 また、<国や言語、文化、宗教に違いはあれど、世界のどこにいても誰にでも「普通に1日」は訪れる。1日24時間をテーマに掲げたコンセプト・アルバム>だという作品が持つスケール感を醸し出すのに、この素晴らしいサウンドスケープは多いに貢献しているのではないだろうか。

 アルバムには16曲(トラック数で言えば24)入っていて、アナログ盤は2枚組なので、一応ダブル・アルバムだということになっているが、時間としては53分程度なので、曲数の割には簡潔な作品だと言えるかもしれない。実際トラックリストだけを見ると1分や2分台の曲が多いので、HIPHOPのレコードみたいな、インタールードが一杯入っていると誤解しがちだが、短くてもちゃんとした(という言い方が適切かどうか分からないが)曲ばかりであって、むしろこれがたった2分で終わるのは勿体無い、サビをもっとリフレインしてもらえないだろうか?と感じるような曲が次々と繰り出されるので、あの部分をもう一度聴いてみたい!と、また始めからリピートすることになってしまう。
 
 「1日24時間」をテーマにした作品だと聞けば、最後はしんみりと終えるべきであるような気もするのだが、このアルバムのフィニッシュは、マラソンのゴールを迎えるような、あるいはベートーヴェンのシンフォニーのような、歓喜のクライマックスが待ち構えている。ありきたりな言い方になってしまうが、ラストの2曲「Champion of the World」と「Everyday Life」を聴いて何も心を動かされない人がいるとしたら、その人はそもそもロックを必要としていないんじゃないかとさえ感じてしまう。

「誰もが傷つき/誰もが泣く/誰もがあらゆる嘘を吐き/誰もが倒れていく/誰もが夢を見ては疑い/明かりが消えても踊り続ける/日々の生活に振り落とされぬように」(「”Everyday Life”)

 そして、コールドプレイの音楽もまた、「振り落とされぬ」ものとして、ぼくらの毎日の生活にリアルに鳴り響く。

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