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蘇る記憶と共に

貴方が愛したSUPER BUTTER DOG「サヨナラCOLOR」

SUPER BUTTER DOG「サヨナラCOLOR」
この曲は、人生の中で最も大切な一曲だ。
なんで今更、そう思う人も多いかもしれないが今日は貴方の誕生日だから、特別な日だから、再生ボタンを押した。

曲が流れると今でも幼い頃のあの懐かしい記憶が脳裏によみがえる。
そうさせるのは、よく家の中でながれていたから、だろう。
 SUPER BUTTER DOGは両親が好きなバンドで受動的に私も好きになってよく聴いていた。勿論、一番好きなバンドも曲も他にもある。でもこの曲は私の胸の中に住み着いていた。

 幼い頃の私は歌詞の意味を考えていなくて、わかる言葉でも意味は右から左で、全く考えてなんていない。当たり障りのない鼻歌を流れた音楽と同時に口遊んでいた。
天井を見つめて、床に寝転んで。耳を撫でる声とその音楽に身体を奪われたような気分になった。そうやって音楽を聴くのが好きだった。

いつもそうしていると私と同じように父親も床に寝転んで天井を見つめていた。いつもと同じように私の手を優しく包んで、私が父親の顔を見つめると、父は静かに微笑んでくれる。

優しい時間と穏やかなお昼だった。
あの時間が大好きだった。

 しかし、ある日。父親が姿を現さなくなった。お昼にはいたのに、今はどこにもいない。次の日になって出てきてくれない。隠れているだけだと思って、私は家中を探しまわったのを今でも憶えている。

「ねえ、隠れんぼはいましてないよ」

 大きな声で叫んでも、耳を揺らすのは自分の声だけで、どこからも父親は出てこなかった。こんなに呼んでいるのにどうしてどこにもいないの。と、私は天井を見つめてグッと堪えた。

「あのね、あのね。」

 不安そうな顔をした母が、私の手を優しく包んだ。天井から母親に視線をむけると蓄えていた滴が頬をつたって、容赦なく服に滲んでいった。母は私の頬につたったそれを服の袖で拭いていく。
時節「ごめんね、」と呟いて。落ち着いた私を見ると母は息を吸って、私と目を合わせて視線を床に落とした。
 「もう、もういないの。」と、母がそう言った。

 母の掠れた声が空気に溶けていく。その日も相も変わらず「サヨナラCOLOR」が家の中で流れていて、私の鼓膜をじんわりと揺らしていた。

言葉を理解するには何日もかかったけれど、あの頃の私は天井を見つめて床に寝転んで音楽を聴いていても、私の手を優しく包んでくれる人がいない事がどういうことかはわかった。

ああもう「何日、何ヶ月」いないんじゃなくて、もう永遠にいないんだ。優しく包んでくれる人はもういないんだ。

 かわりに、母が寂しそうに笑って手を優しく包みこんでくれた。寂しそうだった。ごめんね、とあの日から何度も脳を揺らしてた。
 

 でもその日ぐらいから、流すように聴いていた「サヨナラCOLOR」を意識して聴くようになった。あの時、あの穏やかなお昼の時間を取り戻している気分になれたからだろうか。

 まるで、その陽だまりのようなぬくもりに、包まれている感覚に陥っていった。置いていかれたのは私なのに、父親が背中を押しているように、もう大丈夫だからと笑っているようだったのだ。

 寂しそうに響くボーカル永積崇の歌声に身をゆだね、言葉ひとつ一つの意味を考えながら紡ぎ、一歩踏み出す勇気を自らくちずさむ。貴方からのメッセージだと勘違いする。でもその勘違いが何度も力をくれた。
私はあの時の記憶と「サヨナラCOLOR」を胸に、何度も人生の一歩を踏み出すのだ。

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