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生き長らえた偶像

ジーザス&メリー・チェイン『Automatic』

 ジーザス&メリー・チェインの1stアルバムは、不毛の1980年代にあって、ほとんど唯一ともいえる革新的な音楽的スタイルを提示してみせた作品である。今でも、ラジオから流れてきた「My Little Underground」を初めて聴いたときの衝撃というものは忘れることができない。しかしながら、彼らにとっては、『Psychocandy』というアルバムは、以降のキャリアにおいて、ずっと背負っていかねばならない十字架ともなった。<ジーザス&メリー・チェイン=フィードバック・ノイズ>という図式が出来上がってしまったのだ。実際のところ、『Psychocandy』と、初期のレア・トラックを集めた『Barbed Wire Kisses』を除けば、フィードバック・ノイズはそれほど用いられていないにも関わらず、である。

 彼らの2ndアルバム『Darklands』は、そういったイメージや、初期衝動のままに突き進むコンプレックスから逃避するかのように、デビュー・アルバム全体を覆い尽くしていたフィードバック・ノイズはきれいさっぱり取り除かれていたが、残念ながら、それ以上の目新しい音楽的内容はほとんど無く、彼らの作品を特別なものにしていたのはノイズの塊にしかすぎなかったのだろうか、という誤解をさらに生み出しかねないものとなっていた。

 しかしながら、1988年の画期的なシングル「Sidewalking」に続いて、翌89年に発表された、3作目の『Automatic』において、ウィリアムとジムのリード兄弟は、煮詰まりつつあったバンドを不況状態から救い、新たな局面を打ち出すことに成功した。オープニングの「Here Comes Alice」こそ、前作の「Darklands」を思わせる重い足取りで始まるが、ZZトップ風のリフで幕開ける、続く「Coast To Coast」を聴けば、彼らの意図は明確なものとなる。具体的に言えば、メジャー・コードとドラム・マシンの使用ということになるのだろうが、実際の聴覚的には、文字で伝える以上に、それまでの彼らの音像とは隔世の感がある。『Psychocandy』の亡霊を追い払うには、このくらいの吹っ切れ方をしなければならなかったということなのか。いずれにしろ、彼らの楽曲中もっとも明るい曲調を持つ「Between Planets」、ローリング・ストーンズとビーチ・ボーイズをミキサーにかけて、ドラム・マシンとノイズで味付けしたような「UV Ray」、ピクシーズにカバーされたことでも有名な「Head On」(ブラック・フランシスとは違い、ジム・リードの皮肉っぽく、苦みのあるヴォーカルが素晴らしい)など聴き所は多く、完成度の高いアルバムであることは間違いないだろう。一方では、<らしくない>作品として、ゴシックな愛好家たちには受けが悪かったりもするのだが、さほど成果を上げることもなく終わってしまった、これ以降の彼らの歩みを見れば、個人的にはむしろ、このアルバムの路線をもっと突き詰めてほしかったくらいである。ちなみに、いかにも蛇足という印象を与える、最後の2曲「Drop」と「Sunray」は、オリジナルのLPには含まれていなかった、CDのみのボーナス・トラックであることを付記しておきたい。

 もし彼らが1stアルバムだけを残してすぐに解散していたら?と時々考える。
 おそらくは伝説のバンドとして、再結成して活動を続けている現在よりもずっと高い評価を得ていたのではないだろうか。デビュー当初は、<セックス・ピストルズ以来の衝撃>と騒がれていたが、幸か不幸か、彼らはピストルズのような破滅的な性向は持ち合わせていなかったし、むしろ生真面目すぎるくらいのバンドであったように思われる。アーティストとして生き長らえることの困難について、改めて思いを馳せずにいられない。

 とは言うものの、ジーザス&メリー・チェインにとっては悪いことばかりでもない。マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、スロウダイヴ、ライドの、シューゲイザー御三家はもちろん、21世紀に入ってからも、ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ、レヴォネッツ、レディオ・デプト、ダム・ダム・ガールズ など、彼らの影響を感じさせるバンドには枚挙に暇が無い。それはまさに<イエスとマリアの絆>から産み落とされた申し子たちのようである。そして、ジーザス&メリー・チェイン自身もまた偶像であり続けるのだ。

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