521 件掲載中 月間賞発表 毎月10日

2017年9月21日

海 (20歳)
169
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

スピッツを好きになりたい

優しいということ

〈スピッツを好きな人は、優しい人〉。これは私がつい最近まで勝手に持っていた偏見である。最近まで、と言うのは、それが今は揺らいでいるからであるが、揺らぎ始めた結果、私は前よりずっとスピッツを好きになった。

私が小さい頃から無意識に耳にしていたのは、””空も飛べるはず”や”チェリー”、”ロビンソン”といったもはや国歌である曲達に加え、父が私の幼少期に歌い聴かせてくれたという”君が思い出になる前に”くらいで、そのどれもが「優しく」、「温かい」ものとして心に染み付いていた。そんな私に「こんなに優しい曲ばかりのスピッツを好きなら、その人自身もきっと優しいのだろう」、という想像が生まれるのは、ごく単純なことだったと思う。

スピッツなんてもう有名すぎたので、彼らの曲はナチュラルに聴くことが出来すぎたのだろう。私はただその明るく爽やかな印象だけを受け取り、きちんと「スピッツ」という存在に目を向けることをしなかった。

そんな私が今、スピッツの音楽に対する考えが変わっていくのを感じている。きっかけは、つい2ヶ月ほど前に発売されたアルバムを聴いたことだった。「スピッツを好き=優しい」という思考回路が出来上がっていた私は、父が貸してくれると言うそのアルバムにすぐ飛びついた。私もスピッツを好きになりたかったのだ。

しかしそんな単純なことではなかった。

スピッツの結成30周年を記念して出されたそのアルバムに詰められた45曲の中で、私はどれほど今まで知らなかったスピッツに出逢っただろう。私が長い間抱いてきた、彼らの音楽への憧れ、そして彼らの音楽を愛する人達への憧れは、もしかして私の作り上げた幻想の上に成り立っていたのかもしれない、と思った。私はそう思ってしまうほど、初めてスピッツの曲に「切なさ」だったり、「痛み」だったり、「孤独」を感じた。そんな感情が、今まで知っていた彼らの明るさや爽やかさの中に、実は存在していた気がしたのだ。

そんな世界観を特に印象付けたのは、”さらさら”だった。

《だから眠りにつくまで/そばにいて欲しいだけさ/見てない時は自由でいい》

私はこの曲を聴いている間、胸がキュッとなるような寂しさや苦しさに、穏やかさや熱さが混ざった複雑な思いだった。イントロの時点で私の知るスピッツの範囲を超えてしまった後、軽いビートに乗せられながらも切ない歌詞はどんどん先へ進んで行ってしまう。私は自分が男の子で、誰かをとても愛おしく思っている、でもその人にその想いは届いてくれない、そんな錯覚に陥っていた。丁寧な歌と詞とメロディーが、自分を物語の主人公にしてくれるようだと思った。

この曲によって、私の中で安易に作られた「スピッツを好き=優しい」の意味は、少しずつ変えられていった。

今まで私は、「聴いていて温かい気持ちになる歌」を歌うスピッツを、優しいのだと捉えていた。しかしそれはスピッツをあまりにも表面的にしか見ていなかったのでは無いかと思った。本当は、「綺麗なだけで終わらない感情を優しく包み込む歌」を歌うことが、彼らの優しさなのかもしれなかった。そんな気がした。

私にはそんな彼らの音楽がより一層魅力的だったし、彼らの魅力を感じることは、優しさを知るための道しるべになると思えた。だから自分の中にある「スピッツを好き=優しい」の方程式は、揺らぎはしたが崩れそうには無い。

真の意味でスピッツに出逢ったばかりの私は、彼らの音楽を心から愛し、今まで長い間見守ってきた人達が、彼らの音楽をどう捉えるのかを知らない。音楽を聴いてどう思うかは人の自由で、捉え方の正解は無いのだと思うが、スピッツをちゃんと聴いてきた人達に、”さらさら”を聴いたこの気持ちの答え合わせをお願いしてみたい、と少し思った。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい