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第2回 入賞 | 2016年10月24日

持田智也 (18歳)

「銀杏BOYZに愛を込めて」

 親の仇を叩きのめすような激しいドラム。草原を颯爽と駆け抜けるチーターのようなベース。エモーション全開で轟音を掻き鳴らすギター。それらに決して調和することなく、目を真っ赤に充血させリビドー全開で叫ぶボーカル。
  僕は初めて銀杏BOYZのライブ映像を見た時、衝撃を受けた。金属バットを後頭部にフルスイングで叩きつけられたような圧倒的なインパクトだった。そして何故だか分からないが涙がボロボロと溢れた。そんなことブルーハーツ以来だったので思い切ってファンレターを書いた。
「SEX」「オナニー」「童貞」
 そんなダイレクトな言葉を声高らかに歌うバンドを僕は知らなかった。僕が銀杏に出会った当時といえばback numberやSHISHAMOといった甘酸っぱい、ある意味では美化された青春を歌うバンドしか知らなかった。しかし彼らは違ったのだ。思春期の本音、例えば「あの娘のお尻に顔をうずめて/息ができなくなって/いっそのこと死んでしまいたい」「あの娘に1ミリでもちょっかいかけたら殺す」「もしも君が泣くならば僕も泣く/もしも君が死ぬならば僕も死ぬ」などの生々しい、フライパンにこびりついた油汚れみたいな真っ直ぐすぎる等身大の青春を銀杏BOYZは代弁してくれた。そんな彼らの歌にどっぷりはまり、ゴミ箱にティッシュの山を作るのと同じくらい夢中になった。
 僕が彼らに出会ったのは高校生の頃だった。少し色気付いてきて異性の目を気にしだす年頃だ。自分の周りも例外ではなく、学校行事の前には沢山のカップルが誕生した。彼らの聴いている歌は決まってパリジャンが羽織っているスーツみたいにオシャレなのだ。海外のEDMやヒップホップというやつだ。しかし僕はどうだ。INUや日本脳炎、ブルーハーツ、オナニーマシーンに銀杏BOYZだ。当然ルックスが良いわけでも運動ができるわけでもない。そんなやつに彼女が出来るはずもない。周りを妬みながら想像でしか交われないあの子を思いながら銀杏BOYZを聴き、ティッシュの無駄遣いで環境破壊を行う儚い青春だった。
 そんな僕にも好きな子が出来た。黒髪清楚系、育ちがよくえくぼが可愛いいかにも童貞好みな女の子だ。何回か連絡を取り、告白をした。結果は言うまでもない。泣いた。さらにその半月後くらいにその子はサッカー部のやつと手を繋ぎながら学校から歩いて帰っていた。僕は手に持っていたマッチを一気飲みをして泣きながら銀杏を聴いた。「君に彼氏がいたら悲しいけど/『君が好きだ』という/それだけで僕は嬉しいのさ」(夢で逢えたら)と峯田は僕に向かって囁いた。甘いはずのマッチが何故だか苦くてしょっぱかった。
 そんな僕にもとうとう童貞を卒業する時が来た。あまり詳しい事は言えないが間違っても「何年も付き合っていたオシドリカップルが初夜を迎える」なんて美しいもんじゃない。端的に言うともぐらのクソみたいな童貞の捨て方だ。一人前の漢になった夜、僕はもちろん銀杏を聴いた。しかし以前より響かなくなっていた。なんとなく歯車のズレのようなものを感じていた矢先、ベーシスト安孫子とギタリストチン中村のバンド脱退が発表された。僕は目の前が真っ暗になり、奈落の底に突き落とされた気がした。もうあのうねるようなベースラインと美しい高音のコーラスは聴けないのか、もうあのマイケル・ジャクソンが気が狂って小便撒き散らすようなダンスをしながら爆音で鳴らされるギターは聴けないのか。しかしまだ希望がある。ドラマーの村井だ。彼がいるなら銀杏は再生できる。そう信じていたのだが彼も脱退してしまった。あの激しいビートは間違いなく銀杏BOYZの核であった。僕はその夜、「なんて悪意に満ちた平和なんだろう」をギターで泣きながら弾き語りした。世間はクリスマス。恋人達は寄り添って静かに歌う。イルミネーションのネオンが嫌味ったらしく光っている。なんて悪意に満ちた平和なんだろう。
 あの4人が残した最後のアルバムがその一ヶ月後くらいに発売された。ファンの間では賛否両論があると思う。もう過去の銀杏じゃない、そんな意見も溢れていただろう。正直に言うと僕も最初はあまり好きではなかった。ノイズや打ち込み、シンセサイザーが多用されている。往年のファンからすれば変わってしまったと感じるだろう。しかし僕は思った。人は変わる。彼らももう童貞ではないし、僕もそうだ。本当のファンならば末長く銀杏を応援しようと誓った。その行動の一つとして僕はバンドを組んで銀杏の曲を演奏した。同年代に銀杏を知って欲しかったのだ。
 可もなく不可もない人並みの日々を過ごしていた時に嬉しいニュースが飛び込んできた。銀杏BOYZのライブ映像が収録された『愛地獄』が発売される。しかも京都の映画館で発売前試写会が開かれなんと峯田が来るのだ。これはもう行くしかない。
 試写会当日、僕は必死にスクリーンにかじりついた。スクリーンの中にはもういなくなってしまった安孫子、チン中村、村井がリビドー全開に演奏している。僕はそれを見るだけで嬉しくて嬉しくて泣いた。試写会が終わると峯田が登場した。憧れの人が3メートル先にいる。心臓の鼓動が速くなる。司会が「何か峯田さんに質問がある方はおられますか?」と観客席に投げかけた。僕はいの一番に手を挙げ尋ねた。
「僕も銀杏BOYZに憧れてバンドをやっているんですけど何かアドバイスを下さい!」
 噛みながらなんとか言えた。
「僕みたいに自分勝手にしていたらメンバーいなくなっちゃうんで気をつけてください(笑)。 気の合うメンバーでやるのが一番楽しくて良い音が創り出せるので頑張ってください」
 初めて峯田と喋れた。憧れのミスキャンの先輩と喋れたような感じ。その夜、僕は興奮して眠れなかった。
 大学へ入学し、軽音部に入部した。相変わらずパンクが大好きだ。そんな音楽漬けの日々を送っている僕にまたも嬉しいニュースが飛び込んできた。
「銀杏BOYZ世界平和祈願ツアー開催」
 なんとバンド形式での銀杏が見れる。サポートメンバーは元andymoriの藤原、後藤、元The Cigavettesの山本幹宗。大好きなバンドの融合だ。運良く若い番号を取れたおかげで最前列でライブを見る事ができた。とてつもないライブだった。ライブというよりは戦争だ。平和なんてあったもんじゃない。上から人が雹のように降ってくる。至る所で発生するモッシュ。後ろからは大量の人波が迫ってくる。中には号泣してる人もいる。僕もその1人だった。涙腺がもうもたなかった。初っ端から峯田が弾き語りで「人間」。もうダメだ。新曲「生きたい」の途中からはサポートメンバーが登場し重層なバンドアンサンブルを奏でる。耳が孕んでしまうんじゃないのかと錯覚した
 次にゴイステ時代からの名曲「若者たち」が演奏される。会場のボルテージは一気にマックス。ナイフを握ったオーディエンスは大合唱。なんて最高なんだ。生きててよかった。その後のことはよく覚えていない。ライブが終わった後には声が嗄れ、心地好い疲労感が全身を覆っていた。打ち込みもゴイステ時代の曲も素晴らしかった。本当に久しぶりにバイタリティの溢れる素晴らしいライブを見れた。ありがとう。銀杏BOYZ。
 サポートメンバーの技量は間違いない。銀杏の良さを潰してしまうんじゃないかと思っていたがそれも杞憂に終わった。新たな銀杏BOYZ。月並みな言葉だが最高だった。
峯田は山形弁交じりの優しいMCで「どんな事をしても生き延びて欲しい。そしたらまた会えっから。な。」といった。
僕はロクでもない人間だし、ギターも歌も下手くそだ。しかしそれでも歌おうと思う。叫ぶといった方が適切な表現だ。ギターを爆音で弾こう、いや掻き鳴らそう。そしていつか銀杏がちっぽけな僕を救ってくれたように誰かを救いたい。ありがとう。峯田。僕は生き延びようと思う。また元気な姿を見せて欲しい。そしてまた僕の涙腺を壊してくれ。どんな辛い時も救ってくれるのは音楽だ。ロックはまだ死んでない――少なくとも銀杏BOYZがいる限り――。

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