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マボロシ!

藤井 風、あなたの音楽にわたしは泳ぐだけ

5月。ラジオから流れる「優しさ」に心臓を鷲掴みにされた。それからというもの私の生活は藤井 風一色だ。これが沼というものなのか?とんでもない底なし沼に落ちてしまったものだ。

多くの藤井 風ファンと同じように私もラジオからYouTubeに移った。ライブ配信のアーカイブで、彼の内側からあふれる音楽と彼の英語&岡山弁ミックス言語のギャップに私の脳内処理が追いつかず、どんだけあるんだ!という過去演奏が私の時間を食いつぶす。

衝撃だ!私の記憶を高速回転させて最も近い衝撃を探す。

小比類巻かほる、久保田利伸、ジャズピアノの大西順子だ。特に、地方から突然現れたという点で小比類巻かほるが一番近い。小比類巻かほる以来の衝撃的存在、藤井 風。

コロナ禍で混雑する店に行くことは極力避けていたが、藤井 風の1stアルバム、それも2枚組の初回盤を手にするためなら外出だってする。コロナ対策をとりつつ、短時間で店を駆け抜けた。

家でCDを開封する。ブックレットが入っていた。そっとめくっていくと写真集だった。そこには藤井 風という名の松田優作がいた。CDを出して外箱の中を覗くと、中から見返してくる藤井 風がいる。・・・・・めまいがした。サブスク時代になんという凝りよう、お金のかけようなのか。

Disc1をかける。5曲目からシングルカットされていない曲が流れる。突然、昭和にトリップしたのかと錯覚するようなサウンドだ。言葉の響きが練られていて、かつ、1曲1曲が文学作品を読んでいるかのような歌詞。彼の使う言葉も二十歳ちょっとの若者が簡単に思いつくとは思えないものだ。

Disc2。ピアノ弾き語り洋楽カバー。アレンジ:藤井 風。ピアノ:藤井 風。ボーカル:藤井 風。コーラス:藤井 風。吐息:藤井 風。藤井 風があの手この手で押し寄せてきて、私はなす術もなく陥落する。これはカバーなのか?オリジナルを超えてもはや藤井 風の曲になってないか?長年私の洋楽カバー1位の座に1人君臨し続けた佐藤竹善の隣に藤井 風が急浮上してきた。まさかこんな日が来るとは・・・

そして思った。藤井 風は数年後には拠点を海外に移してしまうだろう。小比類巻かほるはプリンスにプロデュースされた唯一の日本人となったが、藤井 風は一体どこまでいってしまうだろうか。

毎日のように、イヤホンやヘッドホンをつけてこの2枚をかける。23歳が紡ぐ極上の大人の音楽。いやなことがあって気分がよどんでいても、藤井 風が歌ってくれれば心が躍り出す。何度聴いても飽きることなどないし、聴くほどに新たな発見がある。あまりにも聴き続けている自分自身に驚くばかりだ。いや、聴くだけじゃない、あの早口英語の「Shape Of You」の歌詞を暗記してしまったのだ。それから、中3ですっぱりやめたピアノをまた弾きたくなって、電子ピアノを買おうとも思っている。「もうええわ」となる日など永遠に来ない気がする。どうにもならないこの中毒性。彼の歌を聴いているときの脳の状態を科学的に分析したら何か分かるんじゃないだろうか。

デビュー直後にコロナに見舞われ、彼の心の中ではいろいろな思いがあるだろう。しかし、家で過ごさざるを得ないのでラジオをつけたら藤井 風に出会い、ライブ配信のアーカイブに残る普段の藤井 風の姿で見事にハマる人続出だ(キーボードを床に直置きしてう〇〇座りスタイルは、鍵盤が見えるようにという藤井 風のピアノ弾きリスナーへの「優しさ」だと思う)。藤井 風のSNSをフォローすると、彼からファンへのメッセージが流れ、ファンも呼応してラブコールを送る。テレビなどに姿は現さずともネットでファンと親しみのある関係を築いている。まさにYouTubeから生まれた令和のアーティスト。ファンのマネージャーさんスタッフさんへの信頼も厚い。コロナ禍でファンを増やし、いつかまた大きなコンサートが開けるようになったときには、最もチケットの取れないアーティストになっていることだろう。

ニューノーマルな日々の中、数日に一度投下される藤井 風のSNSにファンは振り回されっぱなしなのだが、最近激震が走ったコメントがある。

『ちょっとマニアックなツイートする

「キリがないから」という曲の中には、
DとD♯の間のちょうど真ん中という
カラオケで採点できない未来の音が一つ入ってます。

(”マボロシ!”の“シ!”の音)』(藤井風Twitterより引用)

この”シ!”の音は印象的で、私はこの♯音が浮遊感が出てていいわ~と思っていたのだ。すぐさま「キリがないから」のMVに飛び”シ!”をかけながら、iPhoneのGarageBandでレとレ♯を鳴らしてみる。ホントにレでもなければレ♯でもなかった。なんという仕掛けを潜ませているんだ。弦楽器なら出せるが、ピアノだったらマボロシの音だ。

今年、YouTubeのArtist On The Riseに藤井 風が日本人で初めて選出され、ドキュメント映像が満を持して公開された。藤井 風本人を生で見た人が少ない中での公開とあって、盛り上がり方はもう祭だ。故郷を歩く風くん、ファンは数え切れないほど画面で見ている実家のピアノを弾く風くん、実家の喫茶店で子供時代を語る風くん、上京してからのことを語る風くん。彼の口から出る海外、ニューヨークという言葉。最初から分かっていたけど、本人からはっきりと言われると寂しさが募る。まだ日本での活動もあまりできていないのに、もういなくなる心配をしているの「何なんw」状態だ。

この映像が公開されてもファンの中には藤井 風は実在するのか?という疑問がそこはかとなく漂っている。だからといって、テレビに出てほしいと思っているわけではない。むしろ、出なくていい、今の風くんを失わずに音楽を楽しみ続けて曲を作ってほしい、と願っている人はかなりいるのではないだろうか。そんな、ちょっと雑に扱ったら壊れてしまいそうな雰囲気をまとった藤井 風は、どこか儚げな魅力を放っている。

リアルとバーチャルの間のちょうど真ん中で、限りなく透明に近い神秘的なベールを被ったまま、未来の藤井 風は気づいたら東京ではない場所に行ってしまうのかもしれない。でも変わらずにSNSで歌やメッセージを投下し続けてほしい。そして、そのときもきっと私は、うっすらとこう思うのだろう。

藤井 風はマボロシかも知れない、と。

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