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あの日見たあの光のように

星野源のたった7文字の言葉

2020年8月19日。

インスタグラムが更新されたとスマホに通知が届いた。
開いてみるとライブ会場の照明らしき写真と共に
「ライブしてえな」
と、たった一言添えてあった。

とうとう彼が言ってしまった。
このご時世、実際に大っぴらに音楽を楽しむ事は勿論、楽しみたいという希望さえも言うことがなんとなく憚られる。
そんな中、私達は彼の思いを聞いてしまった。
ライブに行きたい。あの空気を味わいたい。
同じ空間の中みんなで音楽に身を委ねて自由に踊りたい。
その思いを「しょうがないよね」と自分に言い聞かせ、言うことも我慢していたのに。

その後その投稿のコメント欄は
「ライブいきてえ」
「源さんに会いたい」
一斉に我慢していた言葉が堰を切ったように連なっていた。
 

ライブに行きたい。
 

私が星野源のライブに初めて行ったのは2017年に行われた「LIVE TOUR 2017 Continues」だった。
それまでも名前は知っていたし、医療系ドラマに出ているところも見ていた。
それが2016年に放送された「逃げるは恥だが役に立つ」で頼りない主人公を演じる彼と、エンディングの主題歌「恋」でキレキレにダンスを踊る彼を見て、そのギャップと歌のカッコよさにあっという間にファンになってしまったのだ。
いわゆる「沼落ち」というやつだ。

その彼のライブに行く。
前の日はドキドキして眠れなかった。

当日、私は会場のステージから一番遠く、後ろは壁という3階席にいた。
一人ぼっちで座っていた。
それでもとてもとても幸せだった。
ライブが始まる前にうっすらと会場全体に立ちこめるスモーク。
観客の開演前の他愛のないおしゃべり。
開演前の会場内のBGMはマイケル・ジャクソンの曲かかかっていた。
ざわざわとした会場の中で一人ぼっちの私は静かにそれらを体感し、ライブ会場独特の雰囲気を味わっていた。

会場のライトが全て落ち、その時はきた。
声優たちがボイスドラマで音楽の変遷について語っている。
古い音楽が台頭してきた新しい音楽に攻め込まれている、しかし連綿と音楽の歴史は続いていて、星野源もその中で音楽を続けている、そんな感じのボイスドラマだ。
そして「音楽は続きます…音楽はどんな形になっても続いて行くんです…!!!!」のセリフと共にツアータイトルの赤いロゴが会場を照らし、会場が一気に歓声に包まれた時、ステージの奈落の底からマリンバと共にキラキラとした光の中から星野源が現れた。

「星野源はいる!星野源って実在したんだ!」初めて自分の目で存在を確かめた!という万感の思いで声にならない歓声と涙が溢れて止まらなかった。
それがたとえ3階席の一番遠い片隅から小さく見える彼だったとしても。
一瞬の静寂。真っ赤に染まるステージ。ビカビカと光る照明。
私の星野源のライブ歴は一度は見てみたいと思っていたマリンバを演奏する彼の「Firecracker」から始まった。

「一番後ろまでちゃんと見えてますよ」と会場をのぞき込むように彼は言った。
何本か出ているライブDVDを見ていてもいつもこの言葉を言っている。
こんな3階の一番後ろの席は見えているのだろうか?
でも彼はステージの上から何度も何度も「ちゃんと見えている」と言っていた。
それは過去に彼が連れて行ってもらった武道館の天井席で見たライブでの経験から、一番後ろにいる観客にまで目を向けたいという思いからのものだった。
でもさすがに見えるはずはない、自分の音楽を聴きに来てくれた観客に対するリップサービスだろうとどこかでそう思っていた。

しかし同じツアー中、幸運なことに別会場のステージ真横の注釈席が取れた時、ステージ側から客席を見た景色は本当に会場の一番後ろまで見えていた。
会場を照らすライトは最後方までくっきりと自由に踊り、歌い、声をあげる観客達の様子をステージに伝えていたのだ。
リップサービスではなく、本当だった事に驚いた。

その後彼は世界的に有名な音楽プロデューサーのマーク・ロンソンとのダブルヘッドライナー「LIVE in JAPAN」や、男性ソロアーティスト5人目となる5大ドームツアー、その後のワールドツアーなど、どんどん想像をはるかに超えるスピードでたくさんの驚きを与えてくれた。
しかしその規模や場所は変われどあのいつものセリフは変わらず言ってくれる。
「一番後ろまでちゃんと見えてますよ。」
 

いつも、彼は誰も置いて行かないように、会場を隅々まで包み込むように歌ってくれている気がする。だから一番遠くの隅で聴いていたあの日の私にもそっと寄り添ってくれた気がする。

今までとは世界が変わってしまい、生のライブを開催するにはたくさんの困難な事があるこの世の中で、星野源の「ライブしてえな」の一言はあの一番後ろまで照らしていた照明のように、今後の私達の未来を照らしてくれるかもしれない。
そんな希望の一言でもあった。

ライブいきてえな。

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