3911 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

秦 基博の無観客ライブを見て、ひとりのファンが思ったこと

そこにいたのは、いつもと変わらない秦 基博だった。

8月27日木曜日、午後8時。

F.A.D YOKOHAMAに置かれた、手書きのライブ看板から、秦 基博の初となる無観客配信ライブが始まった。中へと続くドアを開けると、壁一面に貼られた色とりどりのステッカーが目に入る。明かりのついた舞台の上には、一本のマイクスタンド。慣れ親しんだライブハウスの雰囲気が、何とも懐かしく感じるのは、きっと私だけではないだろう。

リラックスした様子で、おもむろに登場した秦 基博。
ギターを手に取り、呼吸をひとつ。

歌い出した瞬間、見慣れたはずの部屋が、F.A.Dのフロアに変わった。
 

新旧織り交ぜた、今と昔が交差する曲の数々。彼のライブを初めて見た人も、昔から応援している人も、誰もが楽しめるセットリストになっていた。

ギター一本で歌い上げる、デビュー曲の『シンクロ』。ライブハウスという狭いハコの中で響く、どこまでも伸びるような歌声が、日々の移り変わりの中でいつの間にか疲れていた心へ、ゆっくりと、しかし確実に沁みこんだ。

ライブでは定番となりつつあるループマシーンを使った、『Raspberry Lover』。きっとこんな風なアレンジになるのだろうという予想は、容易に裏切られた。ギターを叩く音がパーカッションに、何度も重ねられた声がコーラスになる。気がつくと、息をするのも忘れるほど見入っていた。

最新アルバム「コペルニクス」からは、既出の『Raspberry Lover』を含め4曲。その中で、初めて弾き語りで披露された『9inch Space Ship』は、秦 基博の可能性をさらに広げるような一曲だった。一歩を踏み出す勇気を与えてくれる歌詞と、未来を連想させる明るいメロディ。声とギター、聞こえるのはそれだけなのに、まるでその場にバックバンドがいるような音色を、その端々に感じた。

そして、配信ライブの最後に歌われたのは、『朝が来る前に』。

誰にもどうすることもできない、やむを得ない状況。中止になってしまったライブは数知れない。ファンだけではなく、アーティスト自身もまた、心待ちにしていたに違いない。チケットの払い戻し手続きも、もう慣れたものだった。ひとつ、またひとつと、手元にあるチケットが離れていくたびに、仕方がないことだと言い聞かせていても、しゅるしゅるとエネルギーが奪われていくように感じていた。

「滲んでいく昨日 変わり続ける未来
 信じているよ 離ればなれでも つながっているんだ」

「いつかここでまた会えるよ ねぇ そうだろう」

この歌詞を聞いた瞬間、ダムが決壊したかのように、涙があふれ出た。

今はまだ、いつになるかはわからない。それでもまた、いつかここで。

再び彼の歌声に会える日が必ず来ると、そんな確信めいたものを感じられた気がした。この時間は無駄ではない。ただ悲しいだけでもない。次に会えたときの喜びは何十倍にも、何百倍にも、なるはずだ。
 

約60分間。彼の原点ともいえるF.A.D YOKOHAMAで行われた、初の無観客配信ライブ。彼自身、こういった形のライブは初めてで、どうなるかわからないと、ライブの途中で言っていた。しかし、そこにいたのは、いつもと変わらない秦 基博だった。
 

秦 基博が紡ぐ歌は、日常のどんな場面にも溶け込める。聴く人の日々に寄り添う、柔らかなメロディと力強く繊細で、どこまでも伸びるような声。

彼だからこそ出せる、特別なあたたかさを、再認識する時間となった。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい