3898 件掲載中 月間賞毎月10日発表
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

僕にしか見つけられない言葉を探して

ヨルシカというパレードを眺めながら

日々、何かを感じ、考え、それを文章という形で吐き出しているのだけど、それが「他ならぬ自分自身」から生まれたものなのか、不安になることが多々ある。

もちろん僕は、誰かの書きつづったことを、そっくりそのまま並べるような「盗作」をしたことはないけど、偉そうに「自分の意見」として提示しているものが、誰かの語ったことの影響を強く受けているなと、あとになって(あるいは進行形で)感じてしまうことはある。

それが「悪いこと」だとは言えないと思うし、「そんなことまで気にしていたら何も発信できなくなるよ」と言ってくれる人がいるかもしれない。たしかに(音楽に限らない)プロフェッショナルの「芸術作品」を観ても、往々にして、それが何かしらの影響を受けていると感じられるものだ。完全にオリジナルであることなど、恐らく人間には果たせないのだろう。

***

よく「自分の言葉で伝えなさい」と訓戒を垂れる人がいるけど、言葉を生み出す「心」というものだって、他者の存在によって成り立っているものだ。いつか聞かせてもらったこと、かつて読ませてもらったもの、誰かと交わした抱擁、そうしたものに育まれ、いま存在するのが「その人の心」なのではないか。

べつの人間が、まったく同じ人生を歩むということは有り得ないだろうから、それぞれが持つ心は、恐らく唯一無二なのだろうとは思う。それでも僕が言いたいのは、絞り出すように放つ「言葉」さえも、無意識に誰かの力を借りた上での産物なのだ、そういうことである。

僕たちは、ひとりでは何もできない、当たり前のことを言うようだけど。

***

ヨルシカは楽曲「パレード」のなかで、こんなことを歌う。
<<身体の奥 喉の中で 言葉が出来る瞬間を僕は知りたいから>>

意図するところは違うのかもしれないけど、僕も同じようなことを「知りたい」と思うことがある。いつの間に自分が、いまの自分になって、こういう形の心をもって、このように言葉を発しているのか。僕の言葉は、誰に授けられた種から、時を経て芽生えたものなのか。意外な人が、意外なものが、僕の人格形成に関わっているのかもしれないと、ぼんやり思うことがある。

<<君の書く詩を ただ真似る日々を>>、やはり僕は過ごしているのだろうか。

***

ヨルシカというアーティストを僕に教えてくれたのは、少し年の離れた女性(母校の後輩)である。もう彼女は立派な社会人なので、時たま会って話をするたびに「ああ、〇〇の分野に関する知識では、もう完全に追いこされてしまったな」と痛感することになる。「教えてあげられること」が刻々と減っていくことを、いくぶん寂しく、また嬉しく思うことになる。

それでも何だかんだ言って、僕のほうが年かさなので、何か意見を言う時には、どうしても慎重になる。いい歳になった人間には、自分の口にすることが相手に強く影響しうるのを、意識する義務があると思うからだ。そして、そういった一般論を超えて、僕は彼女の未来を大事に思っているからだ。

***

<<ずっと前からわかっていたけど>>
<<歳取れば君の顔も忘れてしまうからさ>>

僕が年を重ねるのと並行的に、彼女もまた、ほんの少しずつ「老い」に向かってはいるはずだ。それでも順番通りに事が進めば、やはり僕のほうが先に現世から巣立つことになるわけだし、そうなる前に、彼女の顔を識別できなくなってしまうことも、ないとは限らない。だから一刻が千金である。

時間を節約したいということではない、とりとめもなく続く会話を、その、とりとめのなさこそを、抱きしめていきたいということだ。

そう、僕は彼女と言葉を交わす時、静かなる「パレード」に加わっているように感じることがあるのだ。重ねられていく言葉、時たま訪れる沈黙、そして笑い。そうやって生み出されているものが、いつしか彼女の後輩に届くこともあるのかなと、夢想してみることがある。何かしらの「善きもの」を、もし僕が手渡せているのだとしたら、やがては自分がパレードを終えることになるのも、決して悲しいことではない。

***

彼女に「またね」と言ったあとの帰り道に、いつも僕は「受け取ったもの」の重みを確かめてみる。それは宝石であったり、びっくり箱であったり、波打ちぎわに届くようなガラスの欠片であったりする。何かを差し出してくれたぶん、彼女の心は軽くなっただろうか、僕は何かを口にしたぶん、身軽になったかもしれないけど。そういうようなことを考える。

<<忘れないで もうちょっとだけでいい>>

そんなことを自分に言い聞かせる帰り道は、盛夏であっても涼しく、初春でも温かい。そして願うのだ、純度百パーセントのオリジナルのものではなくても、僕という人間が生きていることを証明するような、そんな言葉を次こそは渡したいと。なにも僕は、立派なことを口にしたいわけではない、実際的に役立つことだけを差し出したいわけではない。ほんの少しでも「オリジナル」に近づきたいと願っているだけだ、彼女の前にあっては。それがオリジナルのものであるならば、すぐには役立たないものであっても構わないとさえ、思うことがある。

<<忘れないように>>
<<君のいない今の温度を>>

誰かと語らったあとの帰り道、パレードの余韻が残る道を、ひとりで歩む時間が、わりと僕は好きだ。その道中の、体感温度が好きだ。

※<<>>内はヨルシカ「パレード」の歌詞より引用

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい