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踊ってばかりの国で、音楽の少しまじめな話をしたい

俺たちは、何を聴いて、音楽を良いと思うのか

こんにちは、皆さん音楽聴いてますか?俺は毎日聴いてます。

ところで皆さんは「音楽の良さ」ってなんだと思いますか?何をもって音楽を良いと思いますか?「この曲いいな」と思うとき、あなたは音楽の何を聴いていますか?

たとえば、最新のヒットチャートを見ると、そこにある曲の多くが簡単に口ずさめてしまうようなキャッチーなメロディが採用されていて、その歌詞も一度聴いたら忘れられないインパクトを私たちに与える。これは、音楽として素朴に良いことのように思える。
しかし、それらの要素を音楽の良さと断定することは危険だ。もちろん、「音楽の良さ」が、「いかに売れているか」によってのみ決まると考えるならば、それは間違いではないけれど。

売り上げの良し悪しという評価軸を外して考えてみると、ヒットチャートに載っている音楽の良さだけでは決して捉えきれないような音楽が沢山ある。中には、知らずに聴いてもそれが音楽と認識できないような音楽さえある。しかしそんな音楽でさえも、それを鳴らす音楽家と、その愛好家がいるからして、この世の中に存在するのだ。

だったら、音楽の良さを判定する絶対的な基準のようなものは存在しないのだろうか?

岡村靖幸のことばを引用すれば、”音楽って いい/悪いじゃなくて。好き/嫌いでしかない”。俺はまさしくその通りだと思っていて、結局のところそこにあるのは各人の好みでしかないと思う。今週のヒットチャート1位の曲に感動して泣く人には何の嘘偽りもないし、誰も知らないようなインディーズバンドが大好きだと言ってもそれは正しい。そこには正しさしかない。音楽には常に正しさだけがある、と思っている。だから俺は全ての音楽を作る人を尊敬しているし、全ての音楽を作る人を心から応援している。そこにはあらゆる性別も人種も思想も関係ないと思っている。そんな寛容さがあるから、俺は音楽を飽きずに毎日聴いている。

とはいっても、ある程度の範囲において音楽の良さは定義できるとも思う。古代ギリシャと古代中国においてほぼ同時期に純正五度の和音に依拠した音律が形成されたのは偶然ではなく、純正五度の和音が人間にとって最も心地よい和音であるという客観的事実に基づいた必然だ。和音の美しさは決して主観ではない。

俺がそんな遺伝子レベルで刻み込まれた音楽の良さに最も接近していると思う音もののひとつが、音楽家・下津光史によって紡がれる、踊ってばかりの国の音楽だ。

――君の声と、とても優しいこの場所を時が経っても忘れたくはないのよ
『踊ってばかりの国/光の中に』中歌詞より引用

極限まで削ぎ落とされた音数は、まさにその洗練され尽くされて音楽の原初に立ち返るようなメロディを引き立てることに終始しているし、そのメロディ自身もはっぴいえんどによって再定義された音楽における日本語詞と旋律の重要性をそのまま抽出し持ち出している純粋さを有している。
あえて彼らをジャンルにくくるならば、それはフィッシュマンズ以降のジャパニーズ・ロックであることに間違いないが、そのような前提知識を抜きに聴いても、この音楽が純粋に良さだけを追求したものだとわかる。

現代にあふれかえる音楽は極めて雑多で、音圧がすごくて、歌詞は強い言葉が並んでいて、何がよくて何が悪いのかをよくわからなくしてしまう。対してこの曲はものすごいシンプルだ。いまのヒットチャートが特盛の牛丼だとしたらこのバンドの曲は湯豆腐みたいなものだ。

ところで、俺は日本の音楽ばかり聴く。そこにはちゃんと訳があって(もちろん邦楽ばかり聴いて育ってきたというのはあるが)、俺が日本で生活してきたからだ。それはありふれたナショナリズムではなくて、

――光の中薄く揺れる 君の足音を数えてる 雀の群れが旅立つ 生きてるうちに会いましょうね
――耳鳴りの合図待ってる夜と朝を繋ぐ作業で コンクリートの中生きてくテレビで海を眺めながら

この曲には日本で育ってきた人間にしか感じとれない微妙な情緒、感情の機微があると思う。歌詞にも、演奏にも。これは言語化が非常に難しいが、とにかくそこには何かがある。つまり、ある曲の良さが100あるとして、その内丸々100良さを理解できるのその国の人間だけなんじゃないか。と常々思っている。

 例えば、The Beatlesの『Don’t Let Me Down』を聴いたとして、この曲は俺にもめちゃくちゃ良いというのがわかるが、たぶん英国で育ち英国の文化を無意識に取り込み続けた人間には俺には感じとれない良さがめちゃくちゃあるんだろう。
だから俺は積極的に邦楽ばかり聴く。すこしでも多く音楽家の意図した音楽の良さを感じ取れる。かもしれないから。
だいぶ話がずれてしまったが、俺が言いたいのは、踊ってばかりの国の音楽は日本的な情緒に溢れている気がするということ。そこには邦楽の文脈を的確に捉えた音楽への敬愛を感じるし、それをリスナーに咀嚼して分かりやすく提示するメッセージもある、ということ。それは、客観的にみても明らかな「音楽の良さ」だと思う。

普段から色々な音楽を聴いているひとは時折、音楽の何が良いのかがよくわからなくなってくることがあると思う。そういう時は究極に洗練されたこのバンドを聴けば、日本産のロックを聴くことの意味、ひいては音楽を聴く意味がよくわかってくると思います。

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