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無観客ライブ配信のその先へ

オーディエンス不在のライブハウスで魅せたTHE BACK HORN

2020年9月6日。
ついに、THE BACK HORNがライブハウスに帰ってきた。

「KYO-MEI MOVIE TOUR SPECIAL」-2020-(ライブハウス編)。
前回の、無観客ライブ配信スタジオ編から約1ヶ月。同じく無観客のライブ配信だが、今回のステージは、主戦場であるライブハウスだった。

いつものライブと同様、SEが流れ、高揚感を煽る。
ただ、その高揚感も、ライブ会場と画面の前では正直全く違う。
なので、このあと果たしてどういうライブが観られるのか、自分がどういう気持ちでそれを観るのか、全く予想がつかなかった。
大きな期待と、ほんの少しだけ不安もあった。

しかし、1曲目の「その先へ」を聴くうちに、不安に思った自分を恥じた。

THE BACK HORNは、いつだってステージの上で、その時・その瞬間の、全力と最高を見せてくれたバンドだ。
そんな彼らが、無観客ライブ配信を行うにあたり、観ているひとに「やっぱり無観客だと物足りないな……」なんて思って欲しくてやる訳ないのだ。
やるからには、きっと無観客ライブ配信でしか表せないものを見せてくれるに違いない。

そう信じている私は、「その先へ」を聴きながら、その“無観客ライブ配信でしか表せないもの”を受け取った気がした。
オーディエンスとの化学反応によって生まれる素晴らしさがあるとしたら、オーディエンス不在(ちゃんと画面越しにオーディエンスを見てくれていたが)の、混じり気なしのTHE
BACK HORNを観られるという素晴らしさもあるのではないか。

こんなに激しいながらも明るくて、澄んで、真っ直ぐに歌いあげられる「その先へ」は、幾度となくTHE BACK HORNのライブを観た私に、まだ知らぬ楽しみがあること・それがこれから始まることを気付かせてくれた。

個人的に、それを最も感じたのは4曲目だった。
THE BACK HORNの楽曲の中で何か一番好きかと聞かれたら、迷わず挙げる曲がある。
2008年にリリースされたアルバム「パルス」に収録されている、「白夜」という曲だ。
ライブで演奏されることは滅多にないレア曲である。
当然、この日も演奏される可能性などないと思っていたし、期待もしないようにしていた。
しかし、この日の4曲目は「白夜」だった。
ここ最近、なにか徳を積んだ覚えもないのに、奇跡が起きた、と思った。

私が一番好きな曲、という大前提がもちろんあると思うのだが、この「白夜」にこそ、先に触れた“まだ知らぬ楽しみ”が詰まっていたのだ。
こういった例えが果たして適切がどうか不安なのだが、まるで一本の短いお芝居を観ているようだった。
表現力、なんていうと安易で偉そうに聞こえてしまいそうだが、そうか、これが声で・音で・バンドで表現するということなのか、と圧倒された。

――THE BACK HORNって、こんなにすごいバンドだったんだ。

山田将司の歌声は淡々としているかと思えば激情的になり、冷静に狂っている(※個人の解釈です)詞の世界を完全に表現していると思った。視線や手の先、予測不能な身体の動きに引き込まれ、目が離せなかった。
最後の最後、絞り出したような声がこれまた、不気味な余韻を残して最高なのである。

山田将司のボーカルがお芝居の演技だとすると、菅波栄純のギター、岡峰光舟のベース、松田晋二のドラムは、山田が立つ舞台そのものであり、背景であり、照明であり、世界だと感じた。

サビのコーラスも、コーラスというよりも悲痛な叫びのような、胸を突かれるような切なさを含んでいて必聴だし、曲を通して黒猫のように不思議で謎めいたギターは、ライブだとより一層魅力的だ。アウトロで不思議が爆発するのもライブならでは。
ベースは原曲にないフレーズが出てきたのが嬉しくて、アーカイブでは延々と見返した。原曲でも緊張感たっぷりのリズム隊なのだが、このライブでは迷路のようにうねるベースが主人公(歌詞中の)を先へ先へと誘導し迷いこませ、ドラムが背後から追い込み退路を断ち切るようなイメージが湧くくらい、わくわくする音と緊張感だった。

約5分の間にこれだけの新たな発見(と妄想)をくれたのだが、もしこの日、私がライブハウスにいたら、この「白夜」には出会えなかったと思う。
どちらが良い悪いではなく、この日、私は間違いなくこの日限りの「白夜」を観て、聴くことができたのだ。

そして「白夜」以外にも、定番曲から最新曲、まさか今日これをやるなんて、という曲まで全15曲。
無観客のライブハウスに立つTHE BACK HORNは、紛れもなくTHE BACK HORNだった。
そして、座っていても、汗をかかなくても、画面越しでも、THE BACK HORNの曲とライブは私を圧倒した。
オーディエンス不在のライブハウスに立つ、混じり気なしのTHE BACK HORNを観るという体験ができて、また新しい魅力を知ることができて、無観客ライブをやってくれた彼らに感謝している。

この日、MCで、山田将司は「無理するのは生きることだけでいい」と言った。
生きるということ自体、決してたやすくはない。
だから、生きているだけで、十分無理しているし、頑張っている。
その言葉に、なんと救われることか。

そう言ってくれるバンドだからこそ、前向きな気持ちでライブ配信を観たいと思う。
ライブ配信を前向きな気持ちで受け取りたいと思う。

前回のライブ配信(スタジオ編)を観て、“ライブハウスでTHE BACK HORNが観たいという余白”を感じ、その感想を音楽文にも掲載いただいた。
今回のライブ配信で、その余白は狭まり、オーディエンスのいるライブハウスへの扉はすぐそこまで近付いている、と感じた。

その扉を開けることができたら。
熱気に満ちたライブハウスという主戦場に帰ってきたTHE BACK HORNに、今度こそ、肚の底から「おかえり」と叫びたい。

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