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おとなになってしまったあなたへ

Hey! Say! JUMP「Your Song」───等身大の幻想が救済してくれるもの

いつから、私は夢を抱かなくなったのだろう。

Hey! Say! JUMPの新譜、Your Songを聞きながらそんなことを考えていた。
小5の秋、中学受験の勉強に勤しんでいた私は父親に「将来の展望となぜ中学受験をしたいのか、どういう理由でどの学校を目指すのかきちんと自分の考えをまとめて一週間後に説明しろ」と言われた。そのとき、「計画性と具体性と実現性のない夢はただの妄想だ。妄想を語るような恥ずかしい人間にはなるな、先の質問に対して将来の夢みたいなくだらないことを語るのはもってのほかだからな」と釘を刺されたことはずっと忘れられない。当時の心情は今ほとんど覚えていないけれど、この日を境に私は学校などで将来の夢を聞かれると「わかりません」「まだ決まっていません」と答えるようになった。19歳の今も、夢なんて、ない。もう何が夢かさえずっとずっと、わかっていない。
プランのない夢は持ってはいけないもの、それは妄想だと言われて育った私は、実現が難しそうな夢を抱く人に対して羨望の眼差しを向けると同時に心のどこかで不信感や軽蔑に近い感情を抱いているのかもしれない。彼が言ったことは正論ではあるけれど小学生の私の面前で将来の夢という概念を全否定した父親のような人間には絶対になりたくない、だから私は親にはならないとずっと思っているけれど親にならずとも私の中にはきっともう無意識下ながらに父親の思想が少なからず滲んでいるのかと思うと悲しくなる。話が逸れた。
〈どんな未来が待っていても構わず僕らは夢を語ろう〉
涙が出た。夢を持たない方が堅実で、堅実であることこそが正しいのだとずっと思っていた。良く言えばそれは現実を見ているのかもしれないけれど悪く言えばそれはある種の防衛で、逃げだ。そんな私の生き方でさえ、Your Songは否定しない。これは、〈逃げることが上手くなったり 言い訳が癖になったり〉している“あなた”への歌だ。夢を持つことは素晴らしいことだ、と子どもの頃は思っていてもそれぞれの人生で挫折を味わい社会に揉まれて〈溢れるため息に慣れ〉、〈言葉にならない 言い訳〉を飲み込む毎日の中でいつしかそれを忘れてしまった、忘れざるを得なかった“あなた”に贈るひとつの物語だ。

澱んだ色をした心に鮮やかな絵の具を塗ってくれるような応援歌は数多いけれど、Your Songはそうではなくて、明るい気持ちになれない“あなた”のありのままをまるっと肯定してくれるような曲だ。自分の心というキャンバスに暗い色が落とされくすんでしまったとき、無理にその上から明るい色を塗り広げずとも“グレーなときがあったって良いじゃないか”と誰かに声をかけてもらえるだけで私たち人間は少し前を向けるのではないだろうか。〈上手くいかないや〉と、アイドルが歌う楽曲としては珍しいほどネガティブな歌い出しから始まり、時には間違うことがあってもまた歩き出せば良いとそっと背中を押してくれるYour Songは、どこまでも等身大の応援歌だ。
一方、本作のMVとショートフィルム(Your Songの初回限定盤2に付属しているユーザーコードを読み取ると視聴できるオリジナルドラマ)に登場するような幼馴染の仲間がいることも、いたとしてもあんなに美しい約束をしていることも、登場人物たちのように夢を叶えた人ばかりだということも、現実世界では有り得ないというと言い過ぎかもしれないけれど起こりにくい。ストーリーは歌詞と同様に等身大でありながらも、どこか綺麗事に感じる人もいるかもしれない。でもこのMVやショートフィルムを見ていて涙が溢れるのはきっと、私がどこかに置いてきてしまった“無邪気に夢を語る子どもの瞳のような煌めき”をぎゅっとガラス玉に閉じ込めたような彼らの姿が心を震わせるからだと思う。彼らを演じる“中の人”は20代後半〜30代の既に酸いも甘いも味わっている大人であり、Your Songの映像作品はフィクションである以上それはやはり幻想なのだと思うけれど幻想にしか救えないものだってあるはずだ。
私はYour Songという、Hey! Say! JUMPという等身大の幻想を見て聴いたことで、もう少し「夢」という概念に対して寛容になっても良いのかもしれないと思わせてもらえた。積年の呪いを解かれたような気持ちだ。世の中は〈確かなものばかり〉ではないし、〈どんな未来が待って〉いるかなんて誰にもわからないのだから。
 

(文中〈〉内は、Hey! Say! JUMP「Your Song」より引用)

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