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2017年10月11日

Motsuki909 (29歳)
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フォークの先にある未来

渡會将士の音楽と、人生の分岐点を超えていく

ライブのスケジュールを発表すれば、あっという間にソールドアウト。音源を製作すれば、全国流通でもないのに品薄もしくは品切れを引き起こす。渡會将士(わたらいまさし)という名前に聞き馴染みのある人は、あまり多くないかもしれない。1人のソロアーティストであるが、単なるSSWと言える存在でもない。今般リリースされたミニアルバム『After Fork in the Road』を聴いて、改めて彼の底知れなさと、少しばかりの寂しさを感じた。

渡會は、現在活動休止中であるFoZZtoneというバンドでデビューを果たした。ギターロックバンドであり、鮮やかな情景描写が浮かぶ言葉を武器に、ライブハウスを中心に人気を博していた。また、当時インディーズでありながら、録画および録音OKなライブを行ったり、提供された10曲の内8曲をリスナーが曲順と共に指定できるオーダーメイドアルバムをリリースしたり、対バン相手として学生バンドを迎えたり、数々の新しい試みにもチャレンジしていた。そのアイデアの中心には、常に渡會がいた。しかし、新しい風を起こし続けるには体力が要るもので、2015年の3月に充電期間としての活動休止を発表した。多くのバンドが解散や活動休止をアナウンスしていく中で、どこか他人事のように感じていたのに、いざ自分の1番好きなバンドが同じ状況になると、目の前が真っ白になる思いだった。2004年のデビュー盤から、雑誌『H』で取り上げられていた頃から、彼らのファンであった自分には、受け容れ難い衝撃だった。

活動休止も1つの分岐点だったのかもしれない。既にソロ音源を発表していた渡會にしてみれば、ソロでしか出来ない事、もっと言えばメジャーのフィールドに立ったバンドでは出来ない事が、頭の中にアイデアとして溢れ返っていたのかもしれない。今作『After Fork in the Road』は、実に6枚目(共作や同内容の他タイトルが含まれている為、正確には6枚以上)のソロ音源である。タイトルの意味は「人生の分岐後」を示している。元々は、枝分かれしているフォークの根元にいる状態を比喩した「Fork in the road」=「人生の分岐点」という慣用句が由来。これにアレンジを加えて「分岐後」としている。人間誰しも生きていれば、いくつかの分岐点を通過している。大袈裟に言えば、毎日毎時毎分毎秒、何らかの分岐点を超えている。それらを思い返して安堵したり、後悔したり、大小様々なドラマを通過している。

渡會曰くこのアルバムは、そんな分岐点を超えた翌朝に、健やかな笑顔で「行ってきます」を言う為に作られている。M-2『Good Routine』にある《ハッピーへ向かうルーティンを 一心に僕らステップして》の一節は、まさにそんな朝にぴったりなフレーズだと言える。毎朝ちゃんとヘアースタイルを整えて出掛ける「君」に《良い占いを 青信号一回分の幸運を》と告げるM-6『Weather Report』では、渡會のクールでニヒルでキザで男前な一面が垣間見える。同曲の終盤、微妙に崩れかけた男女2人の関係を、東京の天気に重ねて《次第に回復へ向かうそうです》の一言で柔らかく表現するあたりにも、渡會らしさが滲み出ている。

一方で、本当に記憶に残りやすい(残ってしまいやすい)分岐点とは、後悔のそれに近かったりもする。M-3『Cut My Hair』には、少しばかりそんな匂いがしている。それでも、自己暗示を掛けるかのように、一縷の望みを繋ぐように、《ある日ふっと笑えてるだろう》と歌っている。また、表題曲であるM-1に流れているのは、どこか空元気にも似た雰囲気。いつも傍にいたはずの誰かと離れ、当て所なく探し続けている様子を描写している。ラストのフレーズ《今夜も月は出てるんだぜ》を繰り返しているのは、「同じ月を見ていてほしい」という願望が言外にある為な気がしてならない。決して、明るく歌い上げる曲ばかりではなく、むしろ朝よりも深夜や夜明け前に聴きたくなる曲も多い。きっと、朝であっても夜であっても、聴き終えた最後には「そんな事もあったよね」と笑えていれば良い、という想いが込められているのだろう。

話の角度は変わるが、何度も歌詞を眺めながら聴いていると、こんな邪推が頭をよぎった。特にM-1に色濃く感じられるのだが、歌詞に映し出されている相手とはFoZZtoneのメンバーないし、バンドそのものではないのか、という事だ。同様に、M-3やM-5『Old School』にも、そう解釈できるフレーズが存在している。僅かな疑心と幾ばくかの期待。当然の事ながら、いつかは活動休止が解けて、バンドは再び走り出す。その日に向けて、渡會の心は準備が整いつつあるのではないか。FoZZtoneが新たなステージに進む日はそう遠くないのではないか。今、渡會が立っている場所は、活動休止という分岐後だ。そこから何を想い何を考えているのか、少しでも歌詞から透けて見えるものはないかと思うあまり、そんな風な事を考えてしまった。

そんな確証の無い邪推は脇に置いて、明日の朝も『After Fork in the Road』をBGMに、健やかな1日を始めたいと思う。いくつかの後ろ向きな感情を「そんな事もあったよね」と笑い飛ばして。そして、この音源に触れる人にも何か良い事があればいいな、とも思う。そう、例えば青信号一回分ぐらいの良い事が。

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