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2017年10月17日

一路。 (20歳)
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Base Ball Bearにみた僕の中の魔王

呪いと呪い

 僕の中には魔王が住んでいる。
 Base Ball Bearの『魔王』を聴いたときそう感じた。みんなから光を浴びて自分より輝いている人を憎み、努力して自分より良い結果を掴んだ人を心の隅で恨み、表と裏で見せる顔が全く違う存在。皆さんの中にもいるのではないだろうか。
 魔王が僕の中に住み始めたのは中学生の時だ。
 僕は中学生の頃、学校が大嫌いだった。
 嫌がらせや無視が原因だと思う。誰からも無視される自分は、幽霊みたいだった。幽霊のはずなのに嫌がらせは毎日存在した。その地獄に僕は耐え続けた。
 僕はずっと奇跡を待っていた。こんな日々をちゃぶ台返しにひっくり返せるような奇跡が起こることを願い続け、祈り続け、呪い続けた。だが起きなかった。代わりに自分の椅子は違うところに置かれ、上履きはどこかへ無くなっていた。いつからか『お前らと同じ人間になりたくない。お前らと違う人間になって、いつか見返してやる。』そう思い始めた。
『お前らと違う人間になる。』
その思いが自分の目標であり、光であり、希望だった。だから、学校に通うことを止めなかった。この思いと同時に、
 僕の中に魔王は存在していたのだろう。
 魔王が住み始めてからは卒業式の日が待ち遠しくて仕方なかった。ここから出てからが本当の始まりだと自分は信じていたからだ。結局、魔王を放置したまま僕は中学を卒業した。

 高校生活は自分にとって最高の時間だった。男子校ということもあり、僕には馴染みやすい環境だった。心から尊敬する先輩、人生の友達、様々な素晴らしい人に出会った。自分の中に蓋をして自分の中の魔王を忘れることすらできた。そのくらい毎日が輝いていた。
 しかし魔王との再開は急にやって来た。
 家のオーディオから流れてきたBase Ball Bearの『魔王』によって自分の中の魔王が溢れ出した。あの頃の自分の奥のその奥の感情が今になってほじくりかえされるなんて思ってもみなかった。

“願うだけじゃ叶わないってこと そんなの知ってる
想うだけじゃ繋がれないってこと それもわかってる

光射すあの丘に 旗を立てた彼のように
なりたい でも なれない
それじゃ、僕じゃないから

見ないことにされてた 僕の世界が 君のことをずっと待ってる
聞かないことにされてた この声が
例え枯れてしまおうが ここで歌いつづけるよ”

 ちゃぶ台返しの奇跡を願うだけじゃ、起こるはずなんかない。
あの時わかっていたはずだった。
誰か助けてと想うだけじゃ、誰も助けてくれない。
それも絶対わかっていた。
『お前らと同じ人間になりたくない。』と自分に言い聞かせていても光を浴びるあいつみたいになりたいと思っている自分がいることも気付いていた。絶対なれないことも。
 聞こえてくる自分の奥のその奥の気持ちに一番だけで十分な程、自分の心は激しく打たれた。自分の抱え込んでいた感情に初めて中学校の事を思い出して泣いた。
 自分の中にはずっと魔王が住んでいたんだ。
 そう思い知らされた瞬間だった。
 さらに『魔王』はどんな光り方でも自分らしく輝きたい。と歌うと曲は壮大な広がりを見せて、最後のサビに入る。捻くれていた中学生から今の自分を全て肯定してくれるようだった。そのままの自分でいい。自分らしく自分が輝けばいい。そう思い知らされた気がした。
そして『僕の呪いが君の傷を癒すお呪いになりますように』という歌詞でサビは幕を閉じる。痛いほどに憎んでいた相手に対する感情をプラスのものに昇華する。簡単なことではない。しかし、僕は中学の時、誰かと繋がりたかっただけだ。そう気付いた自分の中の魔王は既に呪うことをやめていた。
 勇者を呪い続け、周りを脅かす強い魔王だと思っていた僕の魔王は、暗い場所で誰かを待つ弱々しい魔王だった。

 大学生になった今でも、
 僕の中に魔王は住んでいる。
 しかし、中学生の時の魔王と違い、呪いをお呪いに昇華し自分を支えてくれる魔王だ。
 僕はこの弱い魔王を誇らしく思う。
 今年の2月に自分の1番の友達に最初で最後になるだろうビデオレターを自分が代表となってサークルのメンバー全員で作って誕生日にサプライズで送った。その時のエンドロールの曲に『魔王』を選んだ。僕の友達に対する思いをすべて詰め込んだつもりだ。
『僕の呪いが君の傷を癒すお呪いになりますように。』
 自分の気持ちでそう思えたのはこのビデオレターが初めてだ。
 みんなで集まって夜にこのビデオレターを見た時、
 僕の魔王は静かに笑っていた気がする。

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