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2017年10月18日

奥田夏音 (26歳)
150
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醒めない夢、解けない魔法

BIGMAMAがくれる濃密な幸福

照明の消えた会場に流れ出した、交響曲第九番のあのフレーズ。同時にオーディエンスの歓喜の声が大きなうねりを起こして、日本武道館を埋めた。
 

2017年、10月15日。その大きなステージに立ったのは、BIGMAMAだった。
彼らは10年という月日を、実直に、でも時々斜に構えもしながら重ねてきた。その一番上に、この日、大きな玉ねぎを飾り付けた。とても、満足げに。

その場所に立つ喜びを、5人で奏でることの歓びを謳うかのように「No.9」で始まったこの日のライヴは、息つく間もなく、彼らの10年間の足跡をたどりながら、思い出をちりばめながら進んでいった。「the cookie crumbles」、「#DIV/0!」、「かくれんぼ」、さらには「Paper-craft」といった過去の名曲から、「SPECIALS」、 「CRYSTAL CLEAR」、「Sweet Dreams」のような近年の、華やかで愛にあふれた楽曲まで、アンコールまで含めて実に31曲が披露された。彼らが何百回と立ってきたいつものライヴハウスよりも、大勢のオーディエンスが詰めかけるロックフェスのステージよりも、この日のステージは広かった。しかし、この日の彼らのためだけに用意されたその広いステージと、そこから両サイドに、そしてアリーナ席のごく近くに伸ばされた花道とを、金井(Vo./Gt)、柿沼(Gt./Vo.)、東出(Vn./Cho.)は縦横無尽に駆け回り、広い会場だからといって決して持て余すことなく、ファンに対していつも以上に彼らを近くに感じさせるようなステージングを見せた。

BIGMAMAの真骨頂ともいうべきステージに仕上がっていたのは、ライヴを折り返したあたり、「awasekagami」からのアティテュードと、続く「君想う、故に我在り」。「awasekagami」の冒頭、ステージ後ろのスクリーンには、寂寥感と鬱々しさが滲む、同曲のMVにも似た映像が流れる。ステージから伸びた白いレーザーは、霧のように面となって会場を満たし、そこに淡いピンクのほのかな光が混じる。その光に目を、心の奥底へと沈み込むようなメロディーと絡むようなストリングスの音色に耳を奪われたまま、楽曲は「君想う、故に我在り」へと流れ込む。映像と光によって作り上げられた世界は、楽曲がもともと持つ美しさと切なさにとどまらず、陰鬱さと狂気性すらも再現してみせていた。雄大でありながらも繊細な音が重ね合わされたこの楽曲で、視覚と聴覚をジャックすることによってBIGMAMAがオーディエンスに与えた感銘は計り知れない。オールスタンディング、かつ決して長くはない持ち時間であるライヴハウスやフェスのステージではどうしても表現しきれない、BIGMAMAの持つ、胸に迫る美しさと狂おしさとを、たっぷりと時間を尽くして描き切った、圧巻の一幕だった。
 

ステージに立つ5人の表情は晴れやかだった。日本武道館という、全ての音楽人にとっての憧れであるはずのそのステージを、無闇に意識せず、変に気取らず、自分たちの場所としてあくまで自然体で捉えているその姿は、そのまま音になり歌になり、普段と何ら変わりのない、しかし、だからこそ特別な一夜をつくりあげた。
本編ではほとんどMCを挟まず、怒涛のように曲を奏で続けていたが、アンコールのステージで金井は20分近くかけてMCという名の独白をし、心のこもったメンバー紹介を一人分ずつじっくり時間をかけて行った。ここまでの10年を思い、作り上げてきたBIGMAMAという居場所を思い、そして今立っている場所を思い、感極まる彼にメンバーは優しく微笑む。「あれ?俺ら今日解散するの?」などと茶化しながら、ちゃんと金井が続きを話せるように、待っている。友達以上、ときどき家族以上。はちみつのように濃密な幸福感で満たされた2時間の中では、20分というライヴ中のMCとしては規格外の長さの時間さえ、そんな関係性の見える、ゆるやかで幸福なものだった。

独白の中で、彼はことあるごとに口にする信念について再び語った。彼が音楽活動に専念すると両親に告げた時の、父親の言葉だという。「巻き込んだ人を、絶対に不幸にするな。」一生の中で自分が幸せにできる人数は限られているし、当然ファン全員を自らの手で幸せにすることなんてできやしない。それでも、BIGMAMAの音楽でどうにか不幸を遠ざけることなら、不幸にさせないようにならできるんじゃないか。「巻き込んだ人を絶対に不幸にしない音楽を。」彼が掲げるその信念は、ささやかでありながら壮大な願いだ。
最後になって、さらりと、ほとんど曲を演奏しながら、照れくさそうにはにかみながら、来年からユニバーサルミュージックに籍を置くことを発表した。これまでの10年と同じように、しかし今までよりも広い世界に向かって、金井政人率いるBIGMAMAは音を奏で続ける。そうして、醒めない夢を音で見せながら、解けない魔法を歌でかけながら、日常に音もなく忍び寄る大小の不幸を遠ざけていくに違いない。その時もやっぱり彼らは「幸せにするなんて大それたことはできないし、言えないけど。」と言うだろう。しかしその、不幸が彼らの手によって遠ざけられることをこそ、彼らを信じ愛する人たちは「幸せ」と呼ぶのだ。

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