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2017年10月23日

くりぼ (23歳)
100
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闘牛場はテレビズナイトの夢を見るか?

ORANGE RANGEと見たあの景色

10月14日、金曜日の残業の疲れも抜け切らない午前6時30分。冷たい雨が降りしきる羽田空港の滑走路を、直線距離にして約1500km離れた南の島へスポットアウト。今日の主役である彼らがきっと数え切れないほど辿ったであろう空路をなぞって、沖縄県・那覇空港に降り立った。

ORANGE RANGE presents テレビズナイト 2017ーーORANGE RANGEがデビュー前から主催する、音楽と沖縄カルチャーを融合したライブイベントだ。今年は記念すべき10回目の開催であり、会場は那覇からやや北上した沖縄市コザ運動公園にある闘牛場の野外ステージ。沖縄市で行われる大規模な夏フェス、ピースフルラブ・ロックフェスティバルの会場として一部ではお馴染みの場所であるが、今年限りで新しいアリーナ建設のために解体されることが決定している。テレビズナイトは、この闘牛場にとって最後のイベントになるのだ。

「沖縄県出身、ORANGE RANGEです!」メジャーデビューして間もない頃、出演した全国放送のテレビ番組で、高すぎるくらいのテンションでボーカルHIROKIはそう自己紹介していた。ただでさえボーカル3人という特殊な編成なのに、『沖縄県出身』という肩書きは大きなアイデンティティをお手軽に自己に付与できる。けれど彼らはその肩書きを背負ってもう十数年音楽シーンで生きてきたのだ。今も変わらず沖縄に住み続けながら、全国隅々まで数多くのライブやイベント、メディア出演を行なっている。空港のVIPラウンジを悠々とTシャツ短パンで利用できるマイル富豪っぷりの裏に、沖縄と本州を何度も行き来することの過酷さが顔を覗かせる。

閑話休題、とにかく彼らにとって沖縄は、どんなに大変なスケジュールであろうとも、必ず帰って来たい大切な故郷なのであろう。そしてその沖縄県の中でも彼らの地元中の地元中、沖縄市はコザにある野外ステージ、闘牛場の最後の舞台を託されたとあっては、ファンとしても何が何でも見届けなければという気持ちになるというもので、気付いたときには早々に飛行機のチケットを購入していたのである。

沖縄の天気は、予報では長らく雨だった。彼らは夏バンドのイメージに反して実はものすごく雨バンドであるものだからとにかくハラハラしていたけれど、いざ那覇空港に降り立ったとき、雲間から覗く太陽とまだ夏の色を残した空に胸を撫で下ろす。那覇からバスに乗って約40分、いよいよ会場に足を踏み入れた。

このイベントでは、ライブだけでなく、闘牛場を取り囲む広場で無料エリアとしてラジオの公開収録、バスケットボールやBMX・スケートボードのパフォーマンスなどが行われている。エリアにはDJによる音楽が流れており、彼らの地元のストリート文化と音楽が一体となってまさに祭りのような気分を盛り立てている。さらには闘牛場ということで、本物の闘牛と写真を撮ることができるブースまであるのだ。よく沖縄の文化を紹介する際に「チャンプルー」という言葉が使われる。沖縄方言で「混ぜこぜにしたもの」という意味だが、この場を表現する言葉もまさにその通りで、彼らが楽しいと思うことを全部ぶち込んで混ぜこぜになってテレビズナイトというイベントができているのだろう。彼らの音楽性にも通じるところがあるのだが、それはやはりこの沖縄の地で育って来たからなのだろうなと感じることができた。
ちなみにエリア内にふらっと現れるORANGE RANGEのメンバーも、ステージ上で見る姿とは違っている。どこにでもいそうな普通の青年のように笑って、買い物帰りに偶然出会った友人と話すように周囲の人々と言葉を交わす。その表情はこの場所が真に彼らの地元なのだと物語っていて、遠路はるばるここまで飛んできた甲斐があったというものである。

雨の心配ばかりしていた天気予報はどこへやら、今が夏真っ只中とでも言うかの如く、日焼け止めを塗り忘れた肌を焦がす太陽と狂ったような蝉の鳴き声に、数時間前まで東京で震えていたこともすっかり忘れたころ。ライブの会場となる闘牛場エリアがオープンし、いよいよ5組のアーティストが彩るこの場所の最後の時が始まった。

トップバッターは徳島県出身、四星球。ORANGE RANGEとは過去にも対バンをしたことがあり、その時からとても仲良くなったことが伺えて、今回のイベントに出演が発表されたのも宜なるかなといったところ。四星球にとって初めての沖縄らしく、前々日から訪れて現地ではしゃいでいる様子が微笑ましかった。
さてそんな徳島が誇るコミックバンドの彼らは、段ボールを素材としたお手製の自家用ジェットに乗って登場した。呆気にとられる会場をよそに、立て続けに『運動会やりたい』を披露、観客を赤組と白組に分けて戦わせ、一気にその世界へと引きずり込む。ORANGE RANGEと同い年、同じ頃にバンドを結成した同期である四星球が結成当時から歌い続けている名曲『クラーク博士と僕』を演奏したかと思えば、曲中で段ボールに写真を貼り付けたORANGE RANGEのボーカルHIROKI・RYO2人と並んで『ロコローション』の替え歌を始めた『お告げ』、闘牛場にちなんで闘牛に乗るかと思っていたら豆乳に乗って宇宙人が登場した『Mr.Cosmo』などなど、独自の世界観でとにかく大騒ぎ。けれど最後の曲、『妖怪泣き笑い』の曲中に、シンガー北島がこう語る。
「俺たちがCD出したばかりで1番金がなかった頃、日本で1番金を持っているバンドがORANGE RANGEでした。だけどその時は自分たちと違いすぎて、嫉妬する気も起こりませんでした。今回こうやってテレビズナイトに呼んでもらって、前日の準備やリハーサルを見ていたら、初めてORANGE RANGEに嫉妬しました!やっと、ORANGE RANGEに嫉妬できるレベルになれました!」
その言葉は、お互いに信じる道を突き進んで続けてきたからこそ、こうして出会えて今は共に切磋琢磨する関係性になれた2組の15年間が詰まっているようで、思わず目の前の景色が滲んで見えた。けれど次の瞬間には何故か巨大なYAMATOのバルーン人形が登場し、観客皆で胴上げすることになっていた。ひたすら皆を笑わせるエンターテイメントで楽しいのに、少し目頭が熱くなる。日本の南端の島で、日本一泣けるコミックバンドの真髄を見た。

続いてはSCANDAL。ORANGE RANGEの曲が青春ど真ん中だとメンバーが語っていたが、この場に集まった中にも同じ思いの人々は数多くいることだろう。彼女たちとは、NAOTOが2012年に『太陽スキャンダラス』という曲をプロデュースしたことで縁が生まれ、今回の出演と相成った。私はこの日初めてSCANDALのライブを見たのだが、恥ずかしながらそれまではあまり知識がなく、アニメのタイアップ曲を歌っていた印象が強かった。しかしそんな認識はあっという間に更新されたのである。ギラギラと攻め立てるようなサウンドに芯の通った歌声、ものすごく格好いいロックバンドがそこにいた。
無我夢中でYEAHと叫んだ『EVERYBODY SAY YEAH!』、前述のアニメタイアップで知っていたから自然と口ずさみたくなってしまう『少女S』に『瞬間センチメンタル』、色々なバンドのタオルが入り乱れて鮮やかに回った『DOLL』。私のようなあまり知識のなかった人間にも、これがSCANDALなのだと主張するように、その場にいる全員を巻き込むような演奏は続く。そして最後に満を持して、『太陽スキャンダラス』をドロップし、沸き起こる大合唱。ORANGE RANGEとSCANDALが化学反応を起こしてバチッと噛み合ったようなこの曲で、会場が一体となって、彼女たちを中心に熱量が広がっていく。ガールズバンドというとどうしても、純粋に音楽のみで評価されにくいきらいがあるのではないかと思う。けれどそんな雑念をすべて吹き飛ばすパワフルさを持った彼女たちの演奏は、夕暮れが近づき沈みかけていた沖縄の太陽の輝きを再び取り戻させるような錯覚さえ起こしたのであった。

相変わらず暑いけれど少し心地よい風が吹いてくる時間帯、3番手はいよいよ沖縄音楽シーンの重鎮、BEGINである。
1曲目はデビュー曲の『恋しくて』。歌い終わった後にMCで、「当時は沖縄出身だと日本語も話せないと思われていたから、きちんと話せますよという気持ちで作りました」と語ったボーカルの比嘉氏。今でこそORANGE RANGEも含め、MONGOL800やHYなど、多くの沖縄出身アーティストが内地でも名を馳せているけれど、BEGINはその時代のずっとずっと以前、まだ沖縄出身者に対する偏見が平気で横行していたような、そんな世界で歌い続けてきたのだろう。のんびりとした沖縄訛りの話の裏に、彼らが積み重ねたうちなーんちゅにとっての偉大な歩みが透けて見えた。
中盤、ブラジルの民族音楽と日本の歌謡曲を融合させたマルシャメドレーでは、座っていた観客も思わず立ち上がり、体を揺らしたりステップを踏んだり、思い思いに空気を楽しむ。メドレー後半の『オジー自慢のオリオンビール』では、流れていないはずのウチナーの血が騒ぎ出し、思わずカチャーシーを踊ってしまった。
そんな楽しい時間を過ごした後、締めの1曲はもちろん『島人ぬ宝』。
私は生まれも育ちも沖縄ではないし、この島のことは教科書やメディアを通してでしか知らない。それでも、この地でこの歌を聞くと何故こんなにも心が揺さぶられて涙が出るのだろうか。“沖縄の神様”、YAMATOがBEGINのことをそう呼んでいたけれど、きっとまさにその通りで、この音が、歌声が、沖縄という存在の全てを伝えてくれるような気さえするから、私たちも故郷の歌を聴いて泣きたくなるような、そんな思いになるのだろう。

すっかり日も沈んだ頃、大トリへとバトンを繋ぐのは、04 Limited Sazabys。昨年大阪で行われたイベントでの初対バンの時から、高校時代にORANGE RANGEに大きな影響を受けたと語っていた。ギターのHIROKAZは、初めて弾いた曲が『ロコローション』だという。そんなORANGE RANGEにとっては後輩に当たるバンドも、今や各地のフェスで会場を沸かせるキーパーソンだ。
沖縄の地でもその勢いは留まるところを知らず、開幕から『Warp』『climb』『Chicken race』、さらには『monolith』と、大トリの前に体力を使い果たさせようとする凶悪なまでのキャッチーな曲のラインナップ。次の日には神戸でのイベントを控えていたはずで、毎日大忙しの彼らであるが、今この瞬間に全てを出し尽くしても良いというほどに、ステージ上で暴れ回るように音を奏で続け、『fiction』や『escape』ではそれに呼応するようにあちこちでモッシュが起こる。
闘牛場最後の夜に、音の流星群が降り注ぐかのような『midnight cruising』、この心地よい空間が永遠に続くようにと願った『hello』、そして新たな自分に生まれ変わりたいと歌う『Squall』と、後半は感情に訴えかけてくるような曲が畳み掛ける。そしてラストナンバーは珠玉のキラーチューン『swim』だった。
「沖縄の未来に光が射しますように!」、とGENが叫ぶ。自身も出身地の愛知でフェスを開催している04 Limited Sazabysだからこそ、アーティストが地元で主催するイベントに出演するということの意味を、主催者がこの場所に対して抱いている思いを、きっと何より深く知っている。本当はこの日、とある学祭の出演オファーを受けていたらしいが、そちらではなくこのテレビズナイトを選んだとMCで話していた。そんな彼らが作り出す轟音に、大興奮の観客が巻き起こす波が一体となった光景を見ていたら、根拠はないけれど、ああきっと沖縄の未来は明るいのだと、本当にそう思えるような時間だった。

会場に張り巡らされたハイビスカスの形をしたイルミネーションが光る。ステージ上に焚かれたスモークは、会場の熱気に伴って濃くなっていくかのようだ。暑くて熱い1日の、最後の一幕がやってきた。
陽気なお囃子のSEに乗って現れたのは、この地で生まれて出会って三十数年、幼馴染5人組にして日本を席巻したモンスターバンド、そして本日のテレビズナイトの主催ーーORANGE RANGEである。
割れんばかりの大歓声もそのままに突入した開幕曲は『以心電信』。恐らくこの会場にいる全ての人間が口ずさめると言っても過言ではない、彼らの代名詞だ。YAMATO、HIROKI、RYOのフロント3人はそれぞれステージ上を駆け回り、1人残らず自分たちの空間に掻っ攫うように場を沸かす。ギターのNAOTOとベースのYOHもーー彼らはあまり表情が変わらないので分かりにくいのだがーー楽しくて仕方ないといったように体を揺らしながら演奏する。僅か4分ほどのこの曲で、ここはもう、現在沖縄でいちばん活気付いている空間になってしまったに違いない。
その勢いのまま披露されたのは、この夏沖縄限定で発売され、後に全国のファンの熱望に答えて配信でリリースされた新曲『チラチラリズム』。往年の彼ららしさを前面に押し出し、守りに入らず攻めの姿勢で進んでいくという意思を感じさせるこの曲は、今後も彼らの活動において重要なファクターになるのではないだろうか。しかしそんな堅苦しい考えは置いておいて、この場ではとにかく叫んで踊って頭を空っぽにして楽しめる、そんな一面も持っている曲だ。だからだろうか、新曲ではあるのだが、フロアの一体感が凄まじいことになっていた。

続いては狂気溢れる寿司への思いをテクノポップダンスチューンに仕立て上げた『SUSHI食べたいfeat.ソイソース』。ここではゲストとして地元コザで活動するキッズダンサーが登場し、この日だけの特別なお祭り気分に華を添える。続く『男子ing session』ではキッズダンサーと交代で、メンバーと同世代のダンサー、毎年テレビズナイトに出演しているお馴染みのチームが興奮を引き継いで、圧倒的なパフォーマンスを魅せた。ステージを見ているこちらもめちゃくちゃな振り付けで踊り狂ってしまう。四肢の隅々までアドレナリンで満たされている気になって、もう体力は尽きかけているはずなのに、全く疲れを感じなかった。
星が降るようなギターの音に疾走感のあるラップが乗った『*〜アスタリスク〜』は、夜の野外で聞くと、響き渡る音が満点の星空となって我々を包み込むような感覚になってしまう。ダンスフロアのようだった客席も、皆が思い思いに空を見上げて、いくらか落ち着きを取り戻したようだ。
そんな夜空の中でNAOTOが聞き覚えのあるコードを鳴らせば、HIROKIが目を閉じて伸びやかに歌い出し、薄紅色の照明がメンバーを照らす。名実共に彼らの代表曲、『花』が始まった。何度もライブで演奏されているこの曲も、沖縄という空間ではいつもと違った顔を覗かせる。「花びらのように散りゆく中で 夢みたいに君に出会えたキセキ」、そんな歌詞を聞いていると、今日何度も何度も実感したはずの、この沖縄市という場所が彼らにとってかけがえのない場所なのだということを改めて感じさせられた。そしてそこで5人が出会って、音楽を始めて、15年間続けてくれて。そんな奇跡のおかげで、私は今こんなに幸せなのだと噛み締める。どうかこれからも、奇跡のような彼らの歩みが途切れないようにと1人祈った。

それぞれの思いを胸に刻むべく静まり返った空気を切り裂くように、ベースのYOHが口を開く。
「僕らが育ったコザというこの場所は、近くに米軍の嘉手納基地もあって、独特の雰囲気がある場所で。この場を一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです」
普段口数の少ない彼がぽつりぽつりと少しずつ、それでも確かに届けようと紡ぐ言葉を受けて、披露されたのは最新曲『アオイトリ』。中毒性のある変拍子と少しダークな歌詞は、30代になって少し大人になった今現在の彼らのモードが表れている。けれど皆を置いていくようなことは決して無く、初めて聞くはずなのに不思議と体が自然に動いて、5人が作り出す音の世界にどこまでも付いていってしまうのだった。

あっという間にORANGE RANGEの持ち時間もあと少し。『イケナイ太陽』のイントロが奏でられると、まだまだこの夜が終わらないというように大歓声が上がる。「俺たちのライブといえば太陽が必要でしょう!」とRYOが叫ぶまでもなく、もうとっくに地平線の彼方に沈んだ太陽も思わず顔を見せたくなるような大合唱だ。
ORANGE RANGEの曲やライブはよく“青春”だと言われる。それは、彼らが最も流行に乗っていた時代に学生時代を過ごした人々が多く、曲を聞くとその頃のことを思い出すからなのだと思う。『イケナイ太陽』は学園ドラマの主題歌でもあったから、余計にその思いが増幅されやすい。けれど私は、ORANGE RANGEの楽しさは、“青春時代の思い出”だけではなくて、大人になってしまった現在でも、彼らが作り出す“今”にあると思うのだ。
2010年に自身が立ち上げたインディーズレーベルに移籍してから、めっきりメディアに姿を現わす機会が減ったものだから、よく「ORANGE RANGEって今何してるの?」と聞かれてしまう。けれど私がいつも声を大にして伝えたいのは、あの頃みたいな目立つ存在では無いけれど、“今”のORANGE RANGEがいちばん楽しいのだということである。次は何をしてやろうかと企む悪戯好きの少年のように、ワクワクすることを次々に起こしてくれるからだ。ライブを見ている時だって、懐かしい時代を思い出すのではなく、彼らが曲を演奏すれば、その瞬間がいつだって私の青春になる。この場にいる多くの人々も、多くの人々に囲まれて今日が最後の“青春”かもしれないこの闘牛場も、テレビズナイトを通してそんな思いで彼らのことを見つめてくれていたらいいなあと考えながら、大合唱の輪に加わった。

ドラムロールが始まり5人が客席に背を向ければ、とうとう最後の曲、『キリキリマイ』の開始の合図だ。彼らが初めてこの闘牛場の舞台に立ったのは、2002年7月6日のピースフルラブ・ロックフェスティバル。メジャーデビューの約1年前だ。その時から演奏されていたこの曲は、15年の時を経てなお色褪せることなく我々の耳に焼きついて離れない。ドラム台の周りに集まり背を向けた5人が、サビで爆発するように全員フロントに並び、五者五様に暴れ回るパフォーマンスも当時から変わらない。けれど手玉に取られるように観客が興奮してしまうのは、歳を重ねただけの成長がそこにあるからだろう。3人のボーカルが畳み掛けるようにラップを刻むミクスチャーロック、ORANGE RANGEの原点とも言えるこの曲で、彼らの出番に幕を引くのは、ずるいくらいに魅力的だった。

轟音の余韻が周囲に未だ漂う中、あっさりとステージを後にしてしまった彼らをもう一度呼ぶ声が全方位から聞こえてくる。再びステージに姿を現した時、「俺たちって終わり方下手だよね!」と笑うHIROKIの言葉は、広い夜空に響き渡ったアンコールの大声援に対する照れ隠しのようにも聞こえた。
さて、闘牛場で奏でられる正真正銘最後の曲は、『上海ハニー』。ORANGE RANGEの名を一躍知らしめた出世作であり、彼らの夏バンドとしての地位を確立した、ライブにおける不動のエース級の楽曲だ。この曲ではサビでリズムに合わせて手を左右に振るのが定番なのだが、隅から隅まで、会場中で振られるその手は、この島が浮かぶ美しい海の寄せては返す波を彷彿とさせるようで。この壮大な景色の中心にいるのは私の大好きなバンドなのだと思うと、楽しくて仕方がないのに、彼らをずっと好きでいて良かったと、うっかり涙がこぼれそうになった。
けれど、そんな感傷もこの場には相応しくないというように、この闘牛場最後の夜を笑顔で終えられるように、まだまだお祭り騒ぎは畳み掛ける。この曲がライブの締めくくりに歌われがちな理由はもう1つあって、長いアウトロで出演者と観客が一体となって、沖縄民謡では定番の振り付けであるカチャーシーを踊るのだ。それはもちろんこの日もそうで、ステージ上には四星球、SCANDAL、BEGIN 、04 Limited Sazabysのメンバーが大集結。イベントの司会者やダンサーたちも登場して、全員が、楽しいという気持ちが脊髄反射で身体を動かすように、訳も分からないほど踊りまくる。
闘牛場に反響するイーヤーサーサーの合いの手は、この空間にいるアーティストや観客、スタッフだけでなく、今までこの場所で過ごした数えきれない人々の思いも乗せているのだと言ったら、大袈裟だろうか。けれど今日この瞬間くらい、そんな思いも許して欲しい。自惚れかもしれないけれど、きっとそう思っていたのは私だけではないだろうから。

最後の音が鳴り終わって、ステージ上に誰もいなくなっても、会場にいる人々の顔はいつまでもキラキラと輝いていた。それは今日という1日が夢のように楽しくて幸せで、言葉に表せられないほど沢山の感情を抱えているのだということを物語っていた。たった1日のイベントが、これだけの人々の人生において、忘れられない1日になってしまったことだろう。それはもちろん、私だって同じだ。テレビズナイトの主催者にーー私が十数年間大好きなバンドに、もう何度目かも分からない「ありがとう」を叫んだ。

こうして、今まで幾多の人々に夢を見させた場所が、長い長い歴史にこの日をもって幕を閉じる。おやすみ闘牛場、良い夢を。願わくばこの日の光景も、瞼の裏にその1つとして刻まれますように。

我々はと言えば、いつまでもあの光景に浸っている訳にもいかず、沖縄での週末を終えてまた都会の喧騒の中で日常生活が続いていく。けれどあの夢のような1日はいつまでだって忘れない。眠りにつくあの場所の歴史を背負った彼らが、また新たな夢のような光景を見せてくれるその日まで、季節外れに日焼けした肌と、テレビズナイトの思い出と共に、今日も目覚めて生きていくのだ。

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