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2017年10月25日

奥田夏音 (26歳)
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変わりゆく世界と、変わらない歌

ユビキタスが踏み出した小さな一歩

大阪のギターロックバンド、ユビキタスが10月21日、結成5周年を迎えた。当日は福岡でライヴを行なっていた彼らだが、この日から会場限定のシングルが発売開始となった。タイトルは「変わりゆく世界」。前作から9ヶ月しか経っていないが、今までのどんな期間よりも濃く、どんな期間よりも苦しかったであろうその9ヶ月が、今作にはしっかりと反映されている。
 

今作のリリースを前にしたある時、ヤスキ(Vo./Gt.)は「歌いたいことが定まったような気がする」と晴れやかに言った。今自身が歌いたい歌を素直に歌うこと、誰かのために書いたようなものではなく、ただ自分の心から溢れる感情や言葉を歌に乗せること。そんな原点回帰のような、雨上がりの澄んだ空気のような、シンプルで爽やかな衝動の上に成り立った今作は、誰に媚びるでもなく、誰に捧げられるでもなく、ただ彼の心のうちが吐露されたような1枚だ。

《どれ位の言葉を並べて/どれ位の想い詰め込んで/君はそんなことも知らないでしょ?/それでもいいの好きになったなら》(M01. ベル)

《大事にするとか/大事にしてほしいとか/聞きたくないや》(M02. 変わりゆく世界)

歌い出しはどちらも、ちくりと胸を刺す。ストレートに耳に飛び込んでくる言葉と、余計なことを考える前にすとんと腑に落ちてしまう感覚。これまでもその感覚的な言葉遣いや言葉選びのセンスは、ヤスキの得意とするところであり持ち味だったが、今作のこの2曲に関してはよりその精度が上がっている。
この2曲の歌い出しのフレーズは、ともすれば周囲を敵に回してもおかしくない。聞こえる歌詞を思い思いに解釈し好きだとか嫌いだとか好き勝手言うファンや、あなたたちのために歌いますなどといけしゃあしゃあと吐くバンドマンを、辛辣に斬って捨てるような言葉だ。しかし、そこに負の声色はない。苛立ちや吐き捨てるような冷たさはない。だから、すっと胸に落ちてきてしまうのだ。なんの躊躇もなく納得するか、反発心を抱くか、そしてそれを是とするか非とするかは聴く者に委ねられる。しかし言えるのは、ヤスキはそれを誰かに対して歌っているのではなく、ただ自分の中に落とし込むようにして歌っているということだ。「あなたがどう思おうと、君がどう歌おうと、自分は自分の思うように勝手にやっていくから。だから勝手に好いてくれたらいい。」そんな風に聞こえる。それは一見ぶっきらぼうなようでもあるが、好きなようにしたらええやんと笑う、等身大の彼が見える。
1、2曲目がそんな風に、2人となったユビキタスの再スタートを飾る、新鮮でじわりと心が動くような衝動を秘めた楽曲であるのに対し、後半の2曲はこれまでの彼らの魅力をもう一度見つめ直したような作品になっている。色彩豊かな秋にぴったりの「彩りのワルツ」は胸躍るようなメロディーにヤスキの言葉選びが光る。《終わらないように彩りのワルツ/君の綺麗な瞬間を/僕に見せてよ》というフレーズは、どこか1stミニアルバムの頃のようなの華やかさとポップネスをのぞかせながら、これまでよりもぐっと大人っぽい落ち着きも併せ持ち、3年の確かな歩みを感じさせる。そしてラストのささやかな幸せを淡々と歌う「美しい日々」は、軽やかに韻を踏んだ歌詞と、微笑みが見えるほど優しい歌声が心を捉え、自身のというよりは、誰かの幸せを微笑ましく眺めているようなあたたかさが胸を満たす1曲だ。
たった4曲ながら聴きごたえのある1枚に仕上がっているのは、4曲のどこを取っても今の彼らを映し出す鏡になっているからだろう。4月にメンバーの脱退があり、必然的に失速を余儀なくされたユビキタスだったが、それでも決して歩みは止めなかった。サポートドラマーを立て、決まっていたライヴは1本もキャンセルすることなく、2人のユビキタスとしてなんとか軌道修正を図った。止まってやるものかという意地に近い気迫すらも見せて、ギリギリのラインをどうにかこうにか這うように進んでいるというような数ヶ月だった。
 

やっと手が届いた5周年の日、このシングルを持って彼らはようやくちゃんとした1歩を踏み出した。彼らにとって、今年は世界がめまぐるしく表情を変えたように見えた1年だっただろう。1歩を踏み出せたのはきっと、今まで変わらないと思い込んでいた土台がぐらりと揺らいでしまったその不安定さにようやく馴染んできたから。とうに過ぎた季節をやっと見送って、刻一刻と変わりゆく世界と向き合って、その中で変わらない何かを探し出して抱きしめて、彼らは今日も歌い奏でる。そうして紡いでいく言葉が、放たれていく音が、彼らのゆく世界を彩り、支えていくのだ。

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