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2017年10月27日

だーいし。 (23歳)
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新しい始まりへ

サカナクション SAKANAQUARIUM2017 6.1ch SOUND AROUND

〈次も その次も その次もまだ目的地じゃない〉
サカナクションSAKANAQUARIUM2017 10THANNIVERSARY ARENA SESSION 6.1ch SOUND AROUNDは希望、として野心に満ちたフレーズを歌う”新宝島”で幕を開けた。
サカナクションは常に、新しいことを取り入れていって毎回驚かされる。”夜の踊り子”の動くCDジャケットは本当に新しかったし、”ミュージック”でのラップトップからバンドスタイルに切り替わる演奏は凄く格好良かった。NF Records launchツアーでのIris Curtainを使った壮大な演出も、ショーを観ているようで大興奮した。今までもサカナクションには常に新しい景色を見せてもらっていたが、今回は今までのハードルをあっさりと超えてしまうくらい凄まじいものだった。
大量のスピーカーから鳴らされる音は、さながら映画館に来ているような大迫力の音で普通のライブとは明らかに違っていた。低音は地響きのようで足元から感じとれ、高音はものすごくクリアーに聴こえてCDよりも綺麗な音になっていた。オープニング映像はサラウンドの特徴が良く活かされていてスクリーンの映像に合わせ音が左から右へ流れていったり、前から後ろに迫ってきたり、縦横無尽に動き回る。広々とした会場を自由自在に駆け巡る音はまさに水槽の中で音が生き物として泳いでいるようだった。そして観客は音が動いていくのを体感するたびに大きな歓声を上げて沸き上がる。オープニング映像だけで会場のボルテージはグングンと上がっていたが、始まりを告げた”新宝島”ですでに最高潮へと達した。
この日のライブには一貫してひとつの物語があった。それはサカナクション の〈新たな始まり〉の物語だ。新たな始まりを感じたのは、中盤で演奏された”壁”でのシーンだった。イントロ部分のアルペジオをサラウンドシステムを駆使して音が会場を旋回しているように聴かせ、先ほどまでキラーチューンのオンパレードで踊り狂っていた観客を静かに、そして確実にステージに惹きこんでいく。
長いアルペジオが終わり、〈僕が覚悟を決めたのは 庭の花が咲く頃〉のフレーズで始まっていく”壁”は自殺願望の曲だ。若さゆえに大抵の人間が襲われる鬱屈とした感情を吐露するかのように演奏していく。巨大なモニターには逆さまに映された電車の車窓からの風景が淡々と映し出されていた。そして曲が終わりに近付いていくとその映像は切れて、一輪の花の写真が映し出された。まるで誰かを弔っているかのような花の写真。そしてその写真には火がつけられてゆっくりと燃やされていく。ひとつの人生、物語が終わる演出は恐ろしいほどに生々しかった。生死感という大きなテーマを前にすると音楽は、心臓をえぐるような痛みを生み出し、その深みをましてしまうのかと感じた。
物語が”壁”で1度終わり、新たな始まりを感じたのは、その後に流れた”ユリイカ”だ。モニターには東京で撮った日常の映像がモノクロで流れている。”ユリイカ”は文字通り発見の曲。そして東京の曲でもある。万人に受けないものは淘汰され、また新しい何かが出来て、人々が飛び付いては離れていく。北海道から出てきたサカナクションにとって東京は特別な場所である。故郷の景色と東京の景色はきっと大きく違う。活動の拠点を東京に移し、東京に馴染み、俯瞰した先で発見したものは今のサカナクションに大きな影響を与えている。それは新しい始まりを予兆させる。”壁”が故郷の歌ならば、”ユリイカ”は東京の歌だろう。”壁”で燃えていった花は今までのサカナクションで、”ユリイカ”で見た東京の日常は、今のサカナクションが見ている日常だ。今までを一旦過去として清算して、新しい始まりへと向かうサカナクションの意思表示のように見えた。
アンコールで演奏された”目が明く藍色”にも新しい始まりを感じさせられた。〈制服はもう捨てた 僕は行く 行くんだ〉というフレーズは切なくもあり、力強い。この先に未来があることを確かに感じた。
そしてこの日は新曲も披露された。まだ誰も聴いたことがないはずなのに、キャッチなメロディーは凄く自然に体へと馴染む。サカナクションが新しいフェーズに入ったことを告げるような1曲だった。今まではマイノリティーとマジョリティーの狭間に立っていたサカナクションだったが、マイノリティーに振り切った新曲はポップソングの新たなランドマークに成りそうなほどに完成度の高いものだった。
サカナクションの新たな始まりを感じさせた今回のArena Session 6.1ch Sound Around。前作のアルバム『sakanaction』から約5年が経った。山口一郎は来年の春に新しいアルバムか出せそうだとMCで伝えていた。サカナクションはあの時よりも更にディープになっている。今まで歌えなかった愛の歌”蓮の花”や、アコースティックタッチな”グッドバイ”、今改めて東京について歌う”ユリイカ”。進化というよりも、以前よりも彼ららしさを確立していく様子は深化という方がしっくりくる。次の始まりは一体どんな景色なのだろうか。前作の名盤も、今回のライブも、きっと次の始まりでさえも彼らにとってはまだ目的地ではない。

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