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2017年11月27日

糸川ゆかり (34歳)
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「BABEL」から見るBUCK-TICKデビュー30周年の存在感

ファースト・リスニングにおける「違和感」からの考察

どんなに大好きなアーティストで、新曲を心待ちにしていたとしても、初めてその曲を聴く瞬間というのは多少の違和感を伴う。耳馴染みがない、という点での話だ。いつ馴染むかのタイミングは、その作品世界と自分との距離で異なるであろう。ほんの一瞬のあと、3度目から、何度か聴くうちに分かってきた、好き、もうこの曲なしでは……!あるいはCDではイマイチだったけれど、ライブだとカッコイイ!という曲だってある。馴染む過程、好きになる度合いはその曲によるが、ファースト・リスニングの「違和感」というのは私にとっていつも当たり前としてあるものだった。

それはこれから語るBUCK-TICKについても同じで、新曲が発売されるごとに感じていた。のであるが、今年デビュー30周年を迎える彼らはその節目の年に私の固定観念を覆すシングル「BABEL」をリリースした。初めて聴いたのはニコニコ生放送での彼らの特別番組内であったが、イントロが流れ出した時からもうその作品世界に入り込んでいた。0.001秒くらい「違和感」を感じたのではと後から考えてみても、答えはNOなのである。
さらりと初めてのものを受け入れるほど人間として成長したのであろうかと己に問いつつ、似たような曲があっただろうか?と再び考えた。しかし、答えはやはりNOなのだ。

私の受け入れ態勢がたまたま抜群に良かっただけなのか、この「BABEL」という曲に何か仕掛けがあるのかよく分からぬまま、ツアー「THE DAY IN QUESTION 2017」(以下:DIQ)の神戸公演に参加する日がやって来た。ライブに関してはそれだけで何十ページと必要になるので控えさせていただくが、過去30年間の曲どれが飛び出すか分からないDIQライブで、「BABEL」は調和と存在感を有していた。

その二つを言及するにあたり重要なのは、彼らはアルバムの制作ごとに全く異なるテーマやジャンルを持ってくる、ということである。スタンダードのロックできたかと思えば、ダンサブルに、またダダイスム、シュールレアリスムといった20世紀初頭の芸術運動を要素に取り入れるなど、異彩を放った作品を多く出している。
彼らの音楽は一見すると突拍子もなく、仮にアルバム単位でまとまりはあったとして、曲単位にばらしてシャッフルするとアンバランスになるのではと不安に思える。しかし彼らの手にかかれば、どんな素材の曲であろうと完全なる「BUCK-TICK」という音楽になる。ゆえに、どのように組み合わせても結構しっくりとはまり、DIQのようなライブが成立する。
ただ、自分たちのカラーに染め上げるという行為は、簡単なことのようで実はとても難しい。例えば、個々に得意分野はあるにせよ、メンバー全員が全てのテーマ、ジャンルに精通しているとは考え難い。そうするとある程度の情報収集が求められ、それを自分の中に取り込み、分解し、再構築する必要が出てくる。しかしそうやってそれぞれに試行錯誤することによって、自分たちがどういう世界を作りたいのかが見えてくる。そしてテーマに縛られすぎない、オリジナルが生まれるのであろう。もちろん推測でしかないが、そうやってメンバー全員で作っている一体感が、曲同士の調和を作り出しているのではないだろうか。
「BABEL」に感じた調和は詰まるところ今述べたとおりなのであるが、いつもと少しだけ違うのは過去の曲すべてを結びつけるような強さを感じたことである。今までのスケールで聴いていてはいけないような絶対的な存在感とともに、ライブ全体を包括しているように思えた。

ライブ後しばらくして「BABEL」が発売された。まずブックレットを手に取り、歌詞に目を通した。シンプルに短く仕上がっているのに奥行きがあり、使われている言葉から「人物像」がしっかりと伝わってくる。限られた字数の中で、よくぞこんなにも濃度の高い詞世界をみせてくださったと思う。
ここでは素晴らしい歌詞のフォルムのみ触れるとするが、この淘汰された歌詞こそが絶対的な存在感の一因ではないだろうか。登場する人物がどういう性格でどういった状況に置かれているかなど、密に描かれたイメージが音世界と交わり、ゆるぎない存在へと相成ったように思う。

その音世界はとても分厚い。「濃い+厚い」楽曲が堅固であるのは当然なのかもしれないが、不思議なのは全体の印象が重すぎないということだ。
ボーカルは基本的に低音ボイスだが、ローからファルセットまで細かく使い分けがなされていて、ここで一つのリズムができている。そして歌い方から、主人公の王様はきっとこういう息づかいよねと想像できる。
また、風変わりなキー配列は独特のメロディラインを生み、ベースのグルーヴと合わさって、絶妙のスピードでこの世界をどんどん展開させているように思える。これらのリズムというかテンポ、ノリみたいなものが、本当は動けないほど暗くて重い世界を軽やかに見せている気がする。そして破綻しないのはドラムの存在が大きいのではないだろうか。
さらに、中盤より少し後のストリングス(ハープ?)によってもたらされる一瞬の間がおそらく「のっぺり」しないポイントで、バイオリンの音色は気が触れ壊れゆく様を助長しているように感じる。

ここまでつらつらと述べてきたが、違和感を感じずにその世界にすこんと入った明確な答えはまだ見つかっていない。メンバーが30周年をどこまで意識したのかは分からないが、それぞれが自分の強みを存分に発揮し、これぞBUCK-TICK!という要素を多分に詰めたからこそあまりにもバクチクすぎて、新曲を聴いているという意識を落っことしてしまったのかもしれない。
しかしながら、こういうタイプの曲が今までなかったというのも意外な話である。聴けば聴くほど発見のある曲で、私はいくつトリックを見破れたのであろうか。
過去の楽曲との相性の良さはライブで確認済みであるが、この「BABEL」を含めたNewアルバムがどんな色彩になるのか非常に楽しみだ。今の次元で聴いてはいけないことは分かっている。彼らはもう次のステージに立っているのだから。

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