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2017年12月7日

カヲル (27歳)
151
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

‘Cause I’m on the run

2017.11.28 the HIATUS Bend the Lens Tour 2017

the HIATUSの単独ツアー「Bend the Lens Tour 2017」、そのセミファイナルとなった新木場スタジオコースト2日目。今回のツアーはthe HIATUSとしては初めて作品のリリースなしで回るワンマンツアーとなり、セットリストは全くの未知。どんなライブになるのか予想もつかないまま、高鳴る鼓動と収まらぬ妄想を秘め会場へと向かう。

場内ではインダストリアルなダンスミュージックやオルタナティブな楽曲が流れる中、ふとJack’s Mannequinの”Crashin'”が流れた。10年以上前に細美が雑誌で影響を受けたアルバムや最近聴いた作品を5枚挙げるコーナーの中に、WeezerやThird Eye BlindとともにJack’s Mannequinの1st Albumがあったのを今でも覚えている。初期のthe HIATUSにも通ずる流麗で美しいピアノのメロディーは水面を走る光のようで、その懐かしさとともに、今夜がいつものライブとは違うものになる予感を感じた。

開演時間の19時ちょうど、暗転。流れてきたのはJoey Beltramの”The Start It Up”。the HIATUSの入場のSEは過去二度変わっており今は三代目にあたるが、”The Start It Up”はthe HIATUSの結成当時から初期のライブを支えてきた最初のSE曲だ。不穏でトライバルなビートが会場を後戻りできぬカタルシスへと手招きする。期待は大気の中で熱を帯び、目に見えそうなほどに膨らんでいく。

オープニングナンバーは”堕天”。イントロが流れた瞬間、その意外な選曲に不意を突かれた。1st Album『Trash We’d Love』に収録されたこの曲は、2nd Album『ANOMALY』のリリース以降はほとんどライブでは披露されていない曲のはずだった。真っ赤に染まる照明の中、苦しみの中に光を見出すような、ボロボロの翼で羽ばたくような、陰鬱で退廃的な世界が描かれる。地の底から遠くの光へ手を伸ばす”堕天”でライブの幕は切って落とされた。続く序盤は”The Flare”、”Storm Racers”、”Monkeys”と、激情を叩きつけるようなダイナミクスを持った曲が並び、フロアはモッシュとダイブの嵐が巻き起こる。MONOEYESのライブが終始ピースフルな空気なのに対し、the HIATUSのライブには非常にヒリヒリとした緊張感と切迫感がある。四位一体となり突き進むMONOEYESとは対照的に、the HIATUSは卓越したスキルを持った5人の”個”が精神と肉体を削りながら激しくぶつかり合い、化学反応を巻き起こしながら見たことのない強烈なエネルギーを放出しているかのようだ。こちらも久々のプレイとなった”My Own Worst Enemy”では、細美の力強いボーカルは悲痛な響きを伴って、会場にこだまする。

細美「こんばんは、the HIATUSです!」

それまでのダークでナイーブ世界観から一転、キラキラと輝くピアノの旋律とともに”Clone”へ。それまでの鬱屈としていた暗闇を切り裂き、雲間から光が射していくような、瑞々しい救いの歌が鳴らされる。心を締め付けた日々も、困難に晒された夜も、いつだってそばにいた自分自身が、いつか君を救う。苦難の末に訪れた、ある素晴らしい一日。

細美「東京の音楽好きなやつらってスカしてるやつが多いイメージだけど、エイタスのライブに来るやつは全然違うな笑」
細美「知らない人からしたら何やってるかわからない時間があと2時間ぐらい続きますが、おれたちのことを好きなやつは心の底から楽しんでください。」

そして細美はギターを置き、シンセとハンドマイクのゾーンへ。”Let Me Fall”、”Thirst”、”Unhurt”、”Bonfire”と、the HIATUSの歴史の中では新しい曲たちが並ぶ。マイク一つで自由に動き回る細美は身振り手振りを交え、客席を鼓舞していく。

細美「オン ドラムス!柏倉隆史!」

“Thirst”では柏倉の独特のリズムから生み出される凄まじいドラムが、曲をよりスリルへと駆り立てていく。

細美「オン ベース!ウエノコウジ!!」

“Bonfire”では柏倉と伊澤のバチバチと火花散るようなピアノとドラムのせめぎ合いの最中、強烈な個性を支えるように豊潤なベースで支えるウエノの腕が光る。

細美「8年って結構だよね。再来年で10周年か。なんかそういうのはただの数字で関係ねぇよって思ってたんだけど、この前ACIDMANのSAIに出て、ああいうのも良いなって思えた。(10周年の時は)なんかやろう。武道館はやっちゃったし、さいたまスーパーアリーナ?埋まるわけねぇだろ!でもなんかやろう、やったことのないこと。」
細美「こんな難解な音楽に8年も付き合ってくれてありがとう。でもわかり始めるとジワジワこない?堕天とか、最初聴いた時よくわかんねぇなって思うだろうけど。一度覚えると、もうそれでしかないというか。」
細美「このアルバムはおれたちの8年の歴史の中でも本当に大切な一枚で、『A World パンデモニウム』、言えてないね笑。今はおれがギター持ってるけど、レコードでは柏倉が弾いてます。」
細美「猟犬のように、水も電気もなくなって、かつて野生動物のいなかった都会が荒廃して、そこを野良犬が駆け回っているような、そんな景色を空から見ると、なんだかこういうのも悪くないんじゃねぇかって。そんな風に、いつかお前らが全ての拘束から解き放たれ、野生動物のように駆け回る姿をおれはステージから見てみたい。」

アコースティックギターを抱えた細美が鳴らすのは”Deerhounds”。3rd Album『A World Of Pandemonium』はthe HIATUSの転機となった一枚だった。これまでの細美のネタを広げる作曲から、メンバー全員のセッションによる作曲へ。その結果the HIATUSの音楽は新鮮な光と水を吸ってどこまでも伸びてゆく緑のような、これまでにない有機性と音楽的広がりを得た。その解き放たれた姿は、大きな空の下を自由に駆け回る野生の姿そのものだ。”Bittersweet /Hatching Mayflies”では幽玄的なサウンドスケープがどこまでも広がっていき、”Horse Riding”では跳ねるような細美のギターと伊澤のピアノがマーチのように行進していく。そして沈んでゆく夕陽のように煌めく”Shimmer”と、『A World Of Pandemonium』の楽曲が惜しみなく披露されていく。

細美「今回のツアーはリリースツアーじゃないから何やってもいいんでしょ?マニアックな曲もやっていいんでしょ?ってこのツアーでやってほしいとラジオにリクエストをもらった中で得票数第一位の曲をやります。得票数はなんと…20票!20票で1位になれる世界素晴らしい笑」
細美「小さい頃、もっと空が綺麗に見えてたあの時、夏の気配を感じて「これ夏だ!」ってワクワクするような。あの頃はこの先に冒険が待っていて、剣を手に取りドラゴンと闘うような日々が待っていると思っていたんだけど、待ってなかったね笑 この曲はあの頃の自分に歌ってほしいと思ってこのツアーを回ってるんだけど、あいつはもういなかった、記憶はあるんだけどね。」
細美「もちろんおれはこの世界も好きだよ。超ダメなやつとか見ると、人間っておもしれぇなって思う。でもあの頃、もっと夜空の星がよく見えていたあの頃の自分をなんとか呼べねぇかなって。」
細美「歳をとるとどんどん痛覚が麻痺していくのか、痛みをあまり感じなくなるんだけど、それでも時々ズキンって痛む時があって、子供の頃はその痛みがずっと続いていたんだけど。44歳のおれの中にも超ナイーブな面はあって、それはおれの本質で、皮を一つ一つ向いてくと、きっと(あの頃の自分と)繋がってるんだよ。だからおれはその繋がりを探しながらこの曲を歌うから、お前らも自分の中にあるあの頃の自分との繋がりを探しながら聴いてほしい。」

そうして歌われたのは”Little Odyssey”。ピアノと歌だけの世界。息を飲むような静寂の中、悲しみとも慈しみとも取れる細美のボーカルは優しく、全てを包み込むように響き渡る。

細美「オン ピアノ!伊澤一葉!」

伊澤のピアノも寂しさを埋め合うように、細美の歌に寄り添うように、奏でられていく。

“Sunset Off The Coastline”、”Something Ever After”と、ボーカリストとしての細美の歌が冴える楽曲が続いていく。細美のボーカルは曲ごとに表情を変え、瞼の裏に情景を呼び起こし、脳裏に浮かぶ歌の世界へと聴き手を引き込み、誘っていく。余韻は永遠に続くような気さえしてくる。

the HIATUSにおける細美は紛うことなき”ボーカリスト”だ。the HIATUSの成り立ち、凄腕のミュージシャンが集まった中で、細美は自分の役割をボーカリストとして位置付けた。ELLEGARDENの活動休止直前のインタビューで、細美は「声をもっと遠くへ飛ばす方法を掴めそうだと」、ボーカリストとしての進化の兆しを話していた。そしてその兆しは、他の4人のアンサンブルの中で、時にはギターも置き、ボーカリストとして歌と向き合い続けたことで、the HIATUSというバンドで完全に花開いた。 初期メンバーの堀江に「救いのある声」と評された歌声は、the HIATUSの音楽の持つ痛みと慈しみを、美しさと醜さを、光と影を体現している。
そしてライブはクライマックスへ。”Insomnia”では「Save me(助けて)」の大合唱が起きれば、”Lone Train Running”では今度は「Away now(遠くへ)」の大合唱が起こる。悲壮な”Insomnia”と始まりの”Lone Train Running”は、同じだけの絶望と希望を等しく歌っている。

細美「オン ギター!マサ!」

“Lone Train Running”のmasasucksのギターソロはどこまでもエモーショナルに疾走し、それは歌のメッセージを代弁する切実な決意のようだ。そして”紺碧の夜に”では祝福のサークルが巻き起こり、客席には笑顔が溢れる。嘆くような、混沌とした、陰のある曲の多いthe HIATUSのライブに訪れる幸福の瞬間。絶望があるから希望を感じられる。
本編ラストは”Sunburn”。楽しい時間はいつか終わる。その切なさは夏の陽炎のようにゆらゆらと揺れ、けれど思い出を心に残し、次の旅へまた走り出していく。

細美「the HIATUSの音楽は暗い、嘆いてる。部屋で一人で嘆くような、話しかけんなゴルァっていうような曲が多い。でも人生いいこともあれば悪いこともあるじゃん。山あり谷ありで、山の時はハッピーな音楽を聴いてればいいけど、谷底でどん底で、息も吸えないって感じたその時は、おれたちのライブに来い。」
細美「ライブハウス好きだけど、来年はちょっとライブハウスを出ていこうかなと、いろんなところへお前らを連れていきたいと思います。」

アンコール1曲目、masasucksが弾くギターに「それやっちゃう?いいよ」と細美。その様子を見たウエノはスタッフにベースの交換の合図を出し、セットチェンジを図る。おそらく予定ではなかったアンコール1曲目は”Silver Birch”。この曲はThe Afterglow Tourでもう一度蘇ったように思う。仲間の歌。ピュアなあの頃の自分は、今もここにいる。そしてオーラス”ベテルギウスの灯”へ。The Afterglow Tourでファンとメンバーから堀江に捧げられたこの曲は、the HIATUSの今も続く歩みを映しているようだった。

masasucks「オン ボーカル!細美武士!!!」

masasucksが仲間を誇るように高らかに叫ぶ。
動かない客先と鳴り止まないダブルアンコールの手拍子が鳴り響く中、約2時間の熱演は終了した。

8年間。気づけばそれなりの季節が過ぎ去っていた。『Trash We’d Love』はELLEGARDENとは違う曲作りの形から始まり、そして『ANOMALY』では苦悩した。しかし『A World Of Pandemonium』で、5人のセッションから生まれた曲たちはthe HIATUSに新たな可能性を与え、『The Afterglow Tour』ではオーケストラを交えた17人の音楽団として芽生えた種に水をやり、花を咲かせた。そして堀江とのしばしの別れ。『Keeper Of The Flame』では、全員のセッションとともにプログラミングを用いた細美と柏倉の作曲も加わり、そして長いツアーという旅を経て、5人は”バンド”となった。『Hands Of Gravity』ではMONOEYESとの両立によりバランスを取ることから解放され、細美と柏倉に伊澤も加えた3人のネタから生まれた曲たちは、5人の鉄壁の信頼関係が反映された素直で真っ直ぐな曲たちだった。

the HIATUSはその作品ごとに、制作スタイルが変わり、それに応じて音楽性が変わってきたバンドだ。当初細美は自分を貫くだけではない方法で最高の音楽を作ることを志向した。それはELLEGARDENの止まってしまった細美が出した、別の答えだった。しかしthe HIATUSを続ける中で、仲間を信頼し、仲間に信頼され、自分自身にもう一度還っていった。もう苦悶の表情で苦しそうに歌う細美はいない。例え音楽は嘆いていても、心は上を向いている。ステージの上にあるのは誇りと笑顔だ。このツアーはそんなthe HIATUSというバンドの8年の歩みを見せるようなものだった。全てのアルバムから満遍なく行われたセットリストは、違和感なく、むしろ完璧な流れでthe HIATUSというバンドの歴史を証明していた。

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過ぎ去る日々のように
君は俺に信じさせたがる
過ぎ去る日々のように
許せばいいって君は言う
過ぎ去る日々のように
君は俺を君の世界に連れてってくれる
過ぎ去る日々のように
夜明けまでゾクゾクさせてくれ
だから何度も聞かないでくれ
だから何度もさ 何度も聞かないでくれ
俺は駆け抜けてるんだ
過ぎ去る日々のような速さで
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the HIATUSは常に変化を続けてきた。しかし根底にあるものは変わらない。光があるところに影が生まれるように、影を描くことは光が在ることと同じだ。飽くなき音楽への探究心と、可能性への挑戦。新たに実った音楽の果実を仲間と分け合う日々が、この先にも待っている。来年も再来年もその先も、旅は続いていく。そして過ぎ去っていく日々が、降りしきる雪のように、心に積み重なって、また痕を残していく。こんな夜のように、いつか訪れるその日まで。

ただ駆け抜けてるんだ。
過ぎ去る日々のような速さで。

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