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彼の人生記を読む

back numberの歌詞から読み取る軌跡

back numberの楽曲は、清水依与吏の「人生記」である、と私は思う。

人生記とは、読んで字の如く、書き手自身の人生について書き記した読み物のことだ。類義語は回顧録、日記、自伝など。

私が音楽を聴くときに重要視するのは「歌詞」だ。
清水依与吏の紡ぐ歌詞に共感するという人は多い。彼は真っ直ぐに、心の深いところに存在する言葉たちを優しく、時に激しくメロディに乗せて歌い上げる。
彼の書く詞に相対したとき、私は一本の短編小説、ないしはエッセイを読んでいるような感覚を覚える。
清水依与吏は作曲家であり作詞家であるのと同時に、「小説家」のようなものでもあるのではないか、と思うのだ。
小説を書くためには作者自身が様々なことを体験し、それを自分の中に落とし込み、想像力を膨らませ、形として外に出す必要がある。その作品に立ち現れるのは書き手自身の新鮮な感性だ。
曲中の主人公たちは言わば、清水依与吏自身の経験や感情そのものである。彼が今を生きる上で、見て聞いて感じたものがそこにはある。彼の描く主人公たちはどこまでも人間らしい。感情移入がしやすいのだ。

だから、私にとってback numberの曲を聴くことは、好きな作家の小説を読むことと似ている。楽曲に立ち現れる作者の価値観、あるいは人生観とでも言うべきものを、そばでそっと見つめさせてもらっている感覚に近い。
一人の等身大な人間の心象風景を垣間見られる。とても稀有な体験である。
具体的な例を挙げてみよう。
まず、新曲である「瞬き」の中で印象的なフレーズ《幸せ》について。
これまでの楽曲の中でいくつかピックアップしてみる。

《あなたが目の前にいて抱きしめる事が出来るのなら/もうこれ以上の幸せはないの》
――stay with me

《最初から/あなたの幸せしか願っていないから》
――幸せ

《寒いねって言ったら/寒いねって聞こえる/あれは幸せだったのね》
――思い出せなくなるその日まで

《君がここにいるなら/幸福な人生だろう》
――日曜日

これらはどれも《星が降る夜と眩しい朝が/繰り返すようなもの》ではない。ただただ、曲中の主人公たちが胸に抱く等身大な《幸せ》だ。それこそ、《大切な人に降りかかった雨に傘を差せる事》のような。
back numberの曲に《幸せ》は度々登場する。見失ってしまわないように繰り返し、様々な視点や表現で、まるで慈しむかのように。

清水依与吏の幸福論は揺らいでいない。歌詞から感じ取られるその不変が、とても美しいと思う。思わず泣きたくなるくらいに。
次に、「瞬き」の中からもうワンフレーズ、《答え》について。
《答えなんて無くていいよ》というのは歌詞の一節だ。《幸せ》と同じくらい何度も、《答え》は他の楽曲にも登場する。

《答えは無いとゆうのが答えです/そんな問題ばっかりでどうすればいいのか》
――信者よ盲目であれ

《答えなんて無いと/諦めた向こう側には/勝ち負けのない生温い/世界が待ってる》
――アイアムノットイナフ

《答え行きの船なんてどこにもなくて/でも逃げないで踊ってるのさ》
――青い春

《きっと誰もが悩んでいるのだろう/答えのない問いかけに/今も》
――僕が今できることを

世の中には答えの無い問いが溢れかえっている。悩んで考えた末に行き当たるのは《答えなんて無い》という身も蓋もない言葉。そんな真理に抗いたいから、自分を模索し続ける。これまでの楽曲にはそういう印象を受ける。

しかし、「瞬き」で彼は、

《答えなんて無くていいよ/会いたい人と必要なものを少し守れたら》

と言い切るのである。

ある意味でこの歌詞は、過去、苦悩の只中に居た頃の自分への《答え》なのだろう。
歌詞から読み取られるその変化が、心の底から愛おしいと思う。
曲を聴く度に明瞭になる彼の輪郭を、決して見逃したくないと思う。
先日発売された、「音楽と人」に掲載されているインタビューを読んだ。
All Our Yesterdays Tour 2017、さいたまスーパーアリーナ公演。本調子でなかった彼は、非常にもどかしそうに苦しそうに歌を歌い、言葉を紡いだ。「幸せ」の途中。《最初から/あなたの幸せしか》のところで険しい表情でドンッ、とひとつ胸を叩いていた姿が目に焼き付いている。
あのときのことを彼は、「悔しくて、苦しかった」と語る。

ツアーを終え、back numberというバンドは、次の期間に向けてピリオドを打ったのではないか、とインタビュアーは言った。実際にその通りで、ベストアルバムを出し、ツアーを乗り越え、back numberは大きく変化したのだと思う。それと同時に、清水依与吏は「3人でバンドを始めた時に戻ってきたような感覚がある」のだと言う。

明確に変化していくものもあれば、ふと、原点に戻っていると感じることもある。それはまさに、人生そのものなのではないだろうか。
「back number」には、バンド名の由来である「型遅れ(の人)」という意味と、本来の「雑誌の古い号」という意味がある。
私はback numberの楽曲を通して、清水依与吏という一人の人間の人生記を読んでいる。そこに綴られていくのは彼の「今」の思いだ。それらは次第に、彼自身の「バックナンバー」になる。

私はきっと、明日も明後日もその先も、彼の過去の記録を追い続けるのだろう。繰り返し、繰り返し。私も共に、今を生きながら。

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