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2017年3月3日

松本 日花里 (17歳)
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ストレイテナーが巻き起こす音楽の嵐に巻き込まれてしまったら

Step Into My World TOUR2016より

こんなにも涙が出ないライブは初めてだった。生の音楽で泣かないのは初めてだった。

11月4日金曜日の朝はいつものように冷たい空気と週末の倦怠感に包まれる中、私は重たい授業の用意と今日限りの膨大な期待感と少しの緊張感を目一杯背負って家を出た。今日はあのバンドのライブがあるのだ、今日は中2のときからの夢が叶うのだ、と授業中も未知の世界の容貌を想像してしまう。月曜日から木曜日の疲れなどはどんどんその想像で侵食されて行く。そうこうしているうちに今日最後のチャイムがなった。さあ、いよいよだ。私はいざ行くのだ、毎日前を通っているけど今日だけ特別な大阪NHKホールへと。
会場に到着したのは18:05。周りを見ると仕事終わりの大人がほとんどで、制服を着た高校生は私以外、誰もいなかった。現代のストレス社会で溜まるであろう鬱憤を感じさせない彼らの姿に今日のこのライブがどれほど希なものかを悟った。18:20、予定より10分早く入場が始まる。ライトアップされる大阪城を背にホール自体がある3階へとエスカレーターを使って登る。席に着き前を見るとそこは何も特別なものはない、いつものバンドセットでアンプの電源の赤がキラキラと光っていた。私はホール特有のフワフワしている椅子に落ち着いて座っていた。ライブハウスではなく、高校生もいないからか、会場はとても温和な空気に包まれていた。
19時過ぎ、コミカルなギターの音のSEが流れてきた。ここで私ははっとした。ついに今日、憧れのストレイテナーに会えるのだ、と。そのSEとともにメンバーが手を振りながら出てきた。ひなっちこと日向秀和(Ba.)の底から湧き上がるようなベースの重低音の連弾から始まった1曲目は “Dark City”。曲中にある今回のツアータイトルともなっている歌詞《Step into my world》と高らかに歌うホリエアツシ(Vo.&Gt.)に初めから心を鷲掴みにされた。私はきっとこの時点でストレイテナーの世界に入ってしまった。その後 “泳ぐ鳥” “Super Magical Illusion”と大山純(Gt.)の私たちを大きく巻き込んで行くような流動的なストラトギターとナカヤマシンペイ(Dr.)のタイトなスネアと力強いバズでどんどん前のめりになる。何曲かした後「ホールだからと言って容赦はしません。」というホリエの力強い一言に観客は更なる歓声を上げる。そうは言っても“Novemberist”からの ホリエのファルセットが印象的な“Goodnight, Liar, Bird” そして、“NO〜命の跡に咲いた花〜” という私たちを優しく包み込むようなピアノを織り交ぜた曲を続け、それらがホールに満遍なく広がる様子は感動的だった。それからの “DAY TO DAY” “冬の太陽”では動かせない足に代わって懸命に腕を高く上げるオーディエンスの姿が目に映る。メンバーの背面のビビッドな照明が気持ちを高揚させる。このようなアグレッシブな曲でもホール全体に響き渡るのはさすがストレイテナーとしか言いようがなかった。MCではそれとは裏腹に世間話並みの緩いトークが繰り広げられラジオを聴いているようだった。(実際、MCは長いからと座るように言われた!)このNHKホールでライブをするのはアコースティック編成のとき以来でメンバーも懐かしく思えたようだ。そんな暖かな雰囲気からガラッと変わって大きすぎるほどのミラーボールがステージ上で回転し、ホール一面がダンスフロアとなった “Alternative Dancer” “Yeti”とリズミカルな曲が続く。そして、私が思うに本公演の目玉の1つの曲が披露された。ホリエがそっと曲名を告げ始まった“イノセント”。最初の歌詞《そんな詩は僕には書けない》という無垢な歌詞から始まるこの歌はピアノとギターが織りなす音色が川の流れのように耳に吸い込まれる。『COLD DISC』のリード曲である “シーグラス”のコードが聞こえた時は待ってましたというようにオーディエンスは手拍子をしてシンガロングした。本公演はStep Into My World TOURのセミファイナル公演ということもあって、CD音源よりどの曲もブラッシュアップされており、1つ1つの曲のスケールがさらに大きくなっていた。『COLD DISC』収録曲ではない“From Noon Till Down” “TRAIN”では誰もが体を揺らして踊り、盛り上がりは最高潮に達した。
私には数あるストレイテナーの曲でも最も聞きたかった曲がある。その曲は私がストレイテナーを好きになるきっかけとなった曲で、この曲がストレイテナーの代名詞といっても過言ではないような気がする。この熱狂の中その曲 “Melodic Storm”は披露された。大山の優しくて可憐なアルペジオから始まり他のパートが一気に入るこの入り方がたまらなく好きだ。目の前に鮮明に映し出される風景描写、前に一歩踏み出したくなるような軽快なテンポ、これらの全てが昔から大好きで、私の背中を押してくれた。
《言葉にできない思いが奏でる 拙いメロディに伝うストーリー》
私は胸にこみ上げるストレイテナーと出会ったあの時の初期衝動とともに全力で腕を高く上げ歌った。
本編最後に演奏されたのは“覚星”。柔らかなライティングで照らされる4人はなんとも儚く、美しく、私たちにまっすぐ音楽を届けてくれた。
アンコールではステージからの景色をオーディエンスに見せたいというメンバーの思いから異例とも言える写真撮影が行われた。慣れない4人の姿は微笑ましく、このプレミアムな光景には目を見張った。その後『COLD DISC』から最後に披露されたのは “Curtain Falls” ナカヤマの1,2,3というカウントから始まった。4人の優しい演奏が心に染み渡り、もう公演の終わりが近づいていることをふと考えてしまうと切なく聞こえた。ホリエの 「今日はありがとうございました!ストレイテナーでした!」という終わりを告げる一言の後に奏でられたのはベストアルバムからの選曲 “羊の群れは丘を見る”。ナカヤマの力を振り絞って激しくドラムを叩く姿から今日のライブがメンバーにとってどれほど充実したものかは言うまでもない。そして、ついにライブは幕を閉じた。ホールはオフィス街に位置してるにもかかわらずオフィスの電気は消され外は暗かった。でも、NHKホールは明るい笑みがこぼれていた。
どうしてこんなにも涙が出ないのか。きっとストレイテナーのライブに私の心情など入る余地は無かったからだ。私は壮大なMelodic Storm、音楽の嵐に息をつく間も無く巻き込まれたのだ。その嵐はどこまでも深く深く私を包み、かき乱した。そのダイナミックな空間を私は忘れない。

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