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「ドキドキ」が男女のうたを越えていく瞬間。

HoneyWorks全国ツアー2017「ジュリエッタ」 名古屋公演から

せっかくだから、普段ロキノン読んでる読者さんがご存じないであろうアーティストも紹介したい。
HoneyWorks、略してハニワである。

HoneyWorksとは、ソングライターのshitoとGom、そしてイラストレーターのヤマコの3人からなるクリエイターユニットだ(バンド、とは言わないらしい)。
ニコニコ動画へVocaloidを用いた楽曲にイラストをつけて投稿し、あれよあれよという間に超人気ボカロPにまで成長した。
最近はハニワの楽曲をモチーフにラノベが出版され、二本立てのアニメ映画が公開され、渋谷の109にポップアップ・ショップが登場し、今ちょうど深夜枠でテレビアニメもやっている。アニメキャストには、超人気声優がずらりと並んだ。
あまりにもボカロの界隈を逸脱する人気を得てしまったので、もはやニコニコ動画のカルチャーとしては、ほとんど語られない逆転現象まで起きているみたいだ。

えー、ボカロっすか? と思うかもしれないけれど、彼らの曲は驚くほどにストレートな、青春キラキラギターロックになっている。
例えばあなたがBUMP OF CHICKENとか、Base Ball Bearとか、GOING UNDER GROUNDが好きならば、絶対にフックがあるはずだ。(特にバンプが好きならば、「ホーリーフラッグ」というバンプリスペクト的楽曲があるので更にオススメしたい)
そして歌詞も、ほぼすべてが物語調となっていて、とても聴きやすい。
初恋や、もどかしい青春の輝き。困難に立ち向かう勇気、夢を追う苦しみ、激しくて胸が詰まるようなドキドキ……。
最近の日本のロックバンドではそれほど見かけなくなった――歌詞でめっちゃ青春しちゃってる曲が聴きたいならば、実はハニワが超おすすめなのだ。
さて、そんな彼らの、初となる全国ツアー「ジュリエッタ」が11~12月にかけて行われている。
僕がバンプでもクラムボンでも経験していない「ライブ遠征」というやつを、先日の同ツアー名古屋公演(Zepp Nagoya)で体感してきた。
そのライブで感じた、ある忘れられないインスピレーションについて、話したい。
HoneyWorksのライブは通算3回目だったが、毎回驚かされるのは、参加しているファンの年齢層の低さだ。
一番下ではおそらく女子中学生。平均年齢も恐らく18前後だろう。もうすぐ三十路でぼっち参戦している自分が、少々目立ってしまうくらいだった。
僕の後ろに並んでいた妙齢の貴婦人はお子さんを二人連れていて、うっかりヒールで来てしまい娘たちから叱られている。
……けれどライブが始まれば、年齢の差はほとんど関係がない。10代でも40代でも同じタイミングで声を上げ、MCに笑い、そして歌にときめく。それでも、「今日初めてミュージシャンのライブに来た、ってひとー!」とステージから聞かれれば、ほぼ半数が元気よく手を挙げた。
普段まったく知らないライブの光景が、そこにはあった。

そして、もう一つ、印象的なことがあった。

そもそもHoneyWorksのメンバーには、正式に決められたヴォーカリストがいない。ライブでは、毎回「歌い手」と呼ばれるニコニコ動画出身のシンガーたちがゲストとして招かれる。(Vocaloidは登場しない)
この日のヴォーカリストは、甘く可愛らしい歌声を放つsana。少年的な歌声から力強いヴォーカルまで幅広く披露するCHiCO。非常に巧みで、ワイルドかつパワフルな歌声が持ち味の天月。そして、HoneyWorksの正式メンバーの一人であるGomだった。
ヴォーカリストは数曲パフォーマンスするごとに入れ替わり、ふたりの主人公が同時に現れる曲では、ツインヴォーカルでも披露されていた。

そこで、ふと、ある仕掛けに気が付いた。

曲の内容と、それを唄うヴォーカリストのジェンダーが必ずしも一致していないのだ。

HoneyWorksの歌の主人公は、基本的にリスナーと同じ高校生の女の子や男の子だ。届かない恋や、誰かへの強い想い。その意志の強さ、心の気高さを、抜群のメロディと美しいギターロックで奏でてゆく。
ライブでは、さらにそこに一ひねりがあった。
男女の掛け合いが描かれた曲(例えば「大嫌いなはずだった。」)を、ここでは女性ふたりが巧みに演じ分けて歌う。
女性のCHiCOはステージに一人残り、恋人を残して旅立つ男の子の激情を圧倒的なヴォーカルでフロアに放つ。
男性のGomは、自身で書き上げた――女性声優に提供したラヴ・バラードを素晴らしい歌唱で披露する。
もちろん「男性アイドル2人のデビューシングル」という設定の楽曲を、男性ヴォーカル二人が甘く歌い上げたりもするけれど……。

男性が女性の歌を、女性が男性の歌を歌うこと自体は、確かにそれほど珍しい光景ではないだろう。
けれど、HoneyWorksがライブで行っている「唄い分け」は、それとは少し違う印象を受けた。
まるで、「そんなこと関係ないよね?」と、フロアに向けて意思表示をしているかのようだったのだ。
10代のころ。男性と女性は、今よりも心の隔たりが小さかったように思う。
男の子がフィクションの女の子に感情移入したり、女の子がフィクションの男の子になりきって気持ちを昇華させたり……。
思春期、そういう瞬間は沢山あったはずだ。
恋は苦しくて、立ちふさがる壁にも果敢に挑み、それでもまた会える嬉しい気持ちが世界を塗り替えていって……。
HoneyWorksの楽曲は、そんな思春期の「気持ち」を、優しくも力強く肯定する。
「それでいいんだ」!「苦しくていいんだ」!「駆けだしていくんだ」……!
それぞれの「ドキドキ」を抱える主人公たちが、勇気を振り絞り、迷いながらも自分を信じて、決して誰かに流されることなく――大きな一歩を踏み出したり、さよならと手を振る自分を受け入れたりする。
その気持ちに、男女の壁は、一切ない。
男と女がこれほどにも違う生き物だなんて、思い始めてしまうのは、一体いつ頃からなのだろうか――。

男の子の激情を、女の子の揺れる想いを、女性が、そして男性が互いの性に関わらずに歌い上げ、フロアで声を上げる10代のガールズ&ボーイズたちを魅了する……。
HoneyWorksは、まるで、こう伝えたいかのようだ。
「その想いに、男女の差はあるのかい?」
特に声高に触れられることはなく、けれどさも当たり前かのように披露される、ジェンダーの枠を超えた楽曲とヴォーカリストたちの共演。
そこには、いつしか私たちが築き上げてしまった大きな壁を、ユーモアとメッセージで消すための強い意志がある。
HoneyWorksのライブには、確かに、歌い手の男女の性差が溶かされているような魅力があったのだ。
心は男性、身体は女性として生まれたことを公表しているシンガー、莉犬(りいぬ)が今回のツアー後半から参加することも、何となく無関係ではないような気がする。
男性でも、女性でも、「ドキドキ」するその感情に性差はない。
わたしたちは、同じだ。
勇気と意思をもって、自分の心に正直である限り、きっと変わらない同志であり続けられる。

人生初ライブをHoneyWorksで経験できた幸福な女の子や男の子たちは、きっとこの「ジェンダーの境のない」風景を、これからも、さも当たり前のように思い返せるのだろう。

それは、間違いなく、ひとつの希望の景色なのだと思う。

※あと、「ドキドキ」には年齢差もないぞ!

□付録
HoneyWorksをこれから聴くなら、「歌い手」sanaがリリースしているミニアルバム『好きなひと。』が値段も手ごろ&ベスト的内容なのでオススメです。
オリジナルアルバムなら『好きになるその瞬間を。』。1曲聴くなら「告白予行練習」「僕が名前を呼ぶ日」「病名恋ワズライ」「プライド革命」「ヤキモチの答え」あたりを検索してみてください。

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