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Nothing’s Carved In Stone

「今」を刻む光

「なっしんぐ…なっしんぐすけい?かー…?」

一枚のCDをその手に持ち、友人が首をかしげながら何やら苦戦している。

「だから、この前も教えたじゃん!」

私は笑いながらそのCDを代わりに手に取り、ぐい、と友人に見せながら言う。

「ナッシングスカーブドインストーン。私が、大好きなバンドなんだってば。」

そう、私は約一年前の、今日のような寒い日にNothing’s Carved In Stoneと出会った。友人を見て、当時同じようにバンド名が読めず、タワーレコードの店員さんに教えてもらった自分のことを思い出していた。

2016年12月14日。
私は夜に予約した美容院まで時間があったことと、外があまりに寒かったことを理由に、近くのタワーレコードに入った。お目当てのCDがあったわけではない。商品の陳列棚の隙間を意味もなく歩いたり、気になった曲をひたすら視聴したりして時間を潰していたとき、ふと、とあるアーティストの展開が目に入った。それがNothing’s Carved In Stoneだった。この日は、ナッシングスの通算8枚目となるアルバム『Existence』の発売日だったのだ。
「確か、ひなっち(日向秀和)がいるバンドだ!」
そんなぼんやりとした認識を抱きながら、大きく貼りだされたアーティスト写真と、「In Future」のMVが流れる画面の前に立った。そしてその日の行動のお決まりパターンのように視聴機のヘッドホンを耳につけ、オススメ!と書かれていた「Like a shooting star」を再生した。

2016年12月14日。
この日はなんて事の無い普通の日だった。そのボタンを押すまでは。イントロを聞いた瞬間、自分の体を光線が突き抜けていくような感覚がした。自分が自分から離れて、もの凄い速度でどこか別の場所へ駆け抜けていっているようだった。このドラムは。このギターは。このベースは。この歌声は、何だろう。
音楽はあくまでも自分の「外部」にあるものだと考えていた。しかし再生ボタンを押したその瞬間から、私は確かにナッシングスの音の中に存在した。そして同時に、彼らはもう私の中に存在していた。
『Existence』、存在。運命の出会いだった。美容院は、ばっちり遅刻した。

その日から私は、時間の許す限り『Existence』を聞きこんだ。そしてそれまでにリリースされていたアルバムも次々に購入し、同様に繰り返し聞き続けた。外出するときには歌詞カードを持ち歩いて隙間時間に読んだ。「ナッシングスは演奏が上手い」と耳にしたときには、「その理由まで知りたい!」と感じ、各楽器の雑誌や書籍を読み漁ったりメンバーが機材について話している動画やインタビューを見た。

当時、大学3年生だった私は、翌年から始まる就職活動や就職試験に向けて準備に追われていた。はずだったが、自分が何者であり、何者になりたいのか正直そのときは答えが出ていなかった。出すことが怖かったのかもしれない、とも思う。進路を決めてしまうことは、自分の過去と未来の価値まで決めてしまうようでとても恐ろしかったから。他人に褒められたり認められたりすることは、目に見える結果だから嬉しいし、頑張れる。だけど、自分のことがどうしても好きになれなかった。自分の未来のために全てを決めることがこんなに難しいとは思わなかった。
加えて、私はとても臆病で、過去の行いをクヨクヨと引きずっては後悔してみたり、まだやってきていない未来の出来事を想像しては不眠症を発症して病院通いになったりしていた。
「ちゃんとしないと、置いていかれるよ。」
「皆はもう行動しているのよ。」
言われなくても停滞は実感していた。でも、後ろも前も怖いんだ。

“ちゃんと”ってなんだろう?
“皆”って誰の事?

どうすればいいかはわかっているけれど動けない、変われない自分が情けなかった。

だから、ナッシングスを夢中で追いかける私の姿を、周囲は「現実逃避をしている」と受け取っていたかもしれない。しかしそうではなかった。過去と未来のはざまで身動きの取れなかった自分は、「今」を鳴らし、歌い続ける彼らの輝きにどうしようもなく惹かれていたのだ。
「isolation」で

≪now is everything≫

と高らかに歌い上げ、スタートダッシュをきってから彼らはブレることなく、振り返ることなく、「今」を刻み続けた。
その信念は、楽曲の歌詞にも表れている。ナッシングスの楽曲では、「自由」そして「今」という言葉がとてもよく響いている。

≪Anxiety from Fear of unknown Testimony that your living(表現しようのない 不安に駆られる今 それこそが生きている証)≫「In Future」

その強さと、真っ直ぐさは閃光のように私の目に焼き付いて、ひとときも離れることはなかった。その光をたどれば自分はきっと何か大切なことに気付けると確信していた。そんな期待と、焦燥感の両方を抱えたまま3か月が過ぎた。
2017年3月17日。
人生で初めてのナッシングスのライブの日。冷たさの中にも春の陽気が感じられる日だった。「初めてだし、様子見ということで。」と、この日は2階席で一人ゆったりライブを楽しもうと思っていた。開演時間の30分程前に到着し、席で本を読んでいると、会社帰りなのかスーツにグッズのタオルをかけて席につく人が多くいた。また、夫婦で来られている方や、子供連れの方も目にした。それぞれの暮らしがあって、それぞれの「今」がある人々が、皆ナッシングスを愛しその光のもとに集まって来ていた。様々なアーティストのライブにそれまでも足を運んできたが、そんなことに想いを馳せたのは初めてだった。

そして、開演。会場の熱気がどんどん増していくなかで、私はまだ座っていた。何故か緊張して手がとても冷たくなっていた。
1曲目は「Overflowing」。ヘッドホン越しではない、ボーカル・村松拓の声。ギター・生形真一の、ベース・日向秀和の、ドラム・大喜多崇規の音。鳥肌が立った。

≪1000の声が響く ありふれた景色の中で そこに立つ意味、存在の価値を知る≫「Overflowing」

私は初めてナッシングスと出会った日と同じように、1音目からもう彼らの音の中に存在していた。
そして間髪入れずに2曲目は、その出会いの曲である「Like a shooting star」。タワーレコードでイントロを聞いた瞬間に目に浮かんだ、まさにその光景が広がった。眩い光が何度も点滅し、光源から放たれる音の力にくらくらした。私は気が付いたら椅子から立ち上がり、拳を突き上げていた。そして一筋だけ、涙を流した。

≪You’re like a shooting star Evanescence Fighting this craziness in life The fight goes on(君は流星のように 何よりも儚く 狂気じみた時間の中で戦ってる 今この瞬間も)≫

≪In your hands And in your heart you hold so many scars it Makes you shine(その手の中に 胸の中に 無数の傷を抱えていて 君を輝かせている)≫「Like a shooting star」

同情でもなく、励ましでもなく、かといって突き放すわけではない。ただ、その存在の強さと情熱が何より私にとっては優しかった。2階席はほぼ全員が立ち上がり、開演前とは全く違う熱を帯びた眼差しでステージを見つめていた。

3曲目の「Spirit Inspiration」でボルテージは急激に上昇した。

≪No I won’t Go follow footsteps The stereotype is breaking down(残して来た足跡を辿るのは俺じゃない ステレオタイプは壊れ始めている)≫「Spirit Inspiration」

後悔していた過去。恐れていた未来、そして停滞する「今」。全てが溶け合って、この会場に立っている自分を成しているのだと実感した。思い切り笑顔だったり、涙を流していたり、色んな想いが溢れていて、ライブとはこんなにも熱く楽しいものだったかと驚いた。

「白昼」、「Rendaman」とどんどんライブは進んだ。7曲目の「Our morn」ではすでに汗だくだったように記憶している。目の前にいた、松葉づえをついて参加していた男性が、気が付けば隣の友人の肩を借りて立ち上がっていた。

≪こみ上げてくる いびつでいい 今の君で逝こうぜ はじけそうな心臓で笑う≫「Our morn」

そして、続く10曲目。
四つ打ちのリズムが刻まれるなか、村松拓が会場の空気を上へ上へと導く。「きらめきの花」だ。

≪出会いと別れを 壁に貼りつけて 作った鏡で自分を見つめ直した≫
≪いつか僕も過去を拭って 生まれ変われる様に とめどない愛情 創造 止まることない僕らの願い≫「きらめきの花」

私はこの「きらめきの花」が、ライブに来る前から大好きだった。曲に登場する「自分」と、私自身の想いや願いが強烈に重なったからだ。ライブではサビの部分で、手を大きく左右に振って音楽に乗ることをこの日に知った。そして曲中、観客は勿論、メンバーが4人とも本当に優しい表情になることも知った。「きらめきの花」が持つ、絶対的な肯定感と、花のような儚くも美しい情熱が自然とそうさせるのだと思った。この光景は一生忘れないと誓った。

休む間もなく、音の波は次々と会場を飲み込んだ。「Diachronic」、「(as if it’s)A Warning」、「Prisoner Music」。

≪いつだって僕も側にいて 本当の声を聞かせたくて 毎日の様に思い巡り ここで自由を叫ぶんだ≫「Milestone」

14曲目の「Milestone」は、ナッシングスの輪郭をよりリアルで濃いものとさせる曲だ。ギター・生形真一が書いたという詞が、真摯でなまなましい熱をはらんでいるからだろうと思う。
ナッシングスは、決して風のようにふわふわとしたバンドではない。一歩一歩、爪で傷を刻むように歩んで来た。詞だけでなく、音にもライブパフォーマンスにもそれははっきりと表れている。自分たちが今すべきこと、そしてこれから歩んでいく道から彼らは目を逸らさない。それは私の理想の姿であり、彼らの音楽と共に歩んでいくことは自分にとって誇りなのだ。「Milestone」を聞きながら、ライブ中にも関わらず冷静な頭でそんなことを考えていた。

≪一秒でも 一秒でも長く 意地を張ってないで また笑おうとしてよ 灯す未来に 時を刻んだら 始まるGo Tomorrow≫「In Future」

15曲目になる「In Future」では、腕を天高くあげ、メンバーの熱量に応戦するかのように体を揺らした。2階席から見える、会場全体の一体感や熱量は凄まじかった。「ああ、このライブは、『人間』がつくっているんだ」と何度も思い知らされた。当然のことなのに、個々の「今」がぶつかり合い融和していく様は形容し難いほど心を震わせた。過去と未来にはさまれもがいていた私は、このときにはもう答えを見つける事が出来ていた。
「今」はすぐに「過去」になる。そして「未来」はやがて「今」になる。
だから、泥臭くても傷だらけになっても、「今」を全力で生きたい。「今」進みたい「未来」を刻んでいきたい。そう、意地を張ってないで思いきり泣いたり笑ったりしてみようと思った。そしていつか、Nothing’s Carved In Stoneのように眩い光で誰かを導けるように。

もう、涙で顔は大変なことになっていたけれど、そんなことはどうでも良かった。この場所にいられて、ナッシングスという存在に出会えて本当に嬉しい。そして、自分という存在にも再び出会うことができて、本当に嬉しい。そんな満ち足りた気持ちでいっぱいだった。アンコールまですべて終了しても、しばらく席から立ち上がることが出来なかった。
ナッシングスと初めて出会った日から約1年。
最近友人によく「強くなったね!」「優しく笑うようになったよね。」と言われる。「今」を刻んで刻んで、夢中で走ってきたこの1年。私は来年から教師になることが決まっている。不安がないわけでは、ない。だけど、過去に引きずられたり、未来に怯えたりする必要はないと、あの日ナッシングスが教えてくれたから怖くはない。私も誰かにとって、私にとっての彼らのような存在になりたい。10周年を迎え、アルバムのリリースそしてツアーも決定しているNothing’s Carved In Stone。その軌跡を辿り続けたい。その先でまた新しい自分とも出会えるだろう。

あの日出会った流星は、今も私の上に降り注いでいる。

≪I know this for a fact Your burning will To change the world with In your hands A shooting star(僕は知っている 何よりも鮮烈に 君がその手で世界を変えてしまうことを 流星のように)≫「Like a shooting star」

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