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2017年3月21日

富井直 (22歳)

夜の「ハイウェイ」

くるりと歩く

  僕が旅に出る理由はだいたい百個くらいあって
  ひとつめはここじゃどうも息も詰まりそうになった
  ふたつめは今宵の月が僕を誘っていること
  みっつめは車の免許取ってもいいかななんて思っていること

 電車代を節約するために一駅分歩く夜、わたしはくるりの「ハイウェイ」を聞く。「ハイウェイ」は、不完全さが魅力だ。旅に出る理由は「だいたい」百個「くらい」。車の免許取っても「いいかななんて」。冒頭から、絶妙に整合性のない歌詞が並ぶ。
 わたしは「ハイウェイ」にどうしても惹かれる。くるりは、「ハイウェイ」を流れるように演奏するが、その歌詞は簡単には流れない。
引用した冒頭の部分では、旅にでる理由がみっつ書かれている。みっつの中でも、前のふたつは、表現がとても詩的だ。「息も詰まりそうになった」「今宵の月が僕を誘っていること」というのは抽象的でつかみどころがないのだ。どうしてそうなったのか、なにがそうさせたのか、が書かれていない。それに対して「車の免許取ってもいいかななんて思っていること」には、強烈な具体性がある。この強烈な「みっつめ」が、「ひとつめ」と「ふたつめ」を生かしていると思う。ふわふわと流れていたふたつを、「みっつめ」がぐんと引っ張る。ここで、流れが乱される。

  俺は車にウーハーを(飛び出せハイウェイ)
  つけて遠くフューチャー鳴らす(久しぶりだぜ)
  何かでっかい事してやろう 
  きっとでっかい事してやろう

 わたしも何かでっかい事をしてやりたい。
 夜に歩いていると、昼間には抑えていた思春期が出てきてしまう。わたしは、思春期特有の「なんでもできる感」をまだ丁寧に持ち歩いている。自分は特別なのではないか、今はまだだけれど、いつかどこかの偉い人がわたしを見出してくれるのではないか。まだそんなことを信じている自分がいる。
 しかし現実のわたしはあまりにも「いい子ちゃん」だ。明確な反抗期は一切なかった。家では親の顔色を窺って、外では親が恥ずかしくないような自分を作った。学校では、生徒会に入って毎朝校門であいさつをした。部活では人一倍クラリネットを練習した。勉強も上手くできた。夏休みの宿題は七月中に終わらせた。体育以外の成績は優秀。通知表には「真面目で友人にも優しい」と書かれた。でも、そんなふうに周囲の求める自分を演じすぎて、本当はなにがしたいのか分からない。わたしは典型的ないい子ちゃんになってしまった。
 だから何かでっかい事をしてやりたいのかもしれない。人にどう見られるかを気にするのはもうやめて、完璧じゃなくても笑って許してもらえるようになりたい。何かでっかい事をして、最高に反抗してやりたい。

  飛び出せジョニー気にしないで
  身ぐるみ全部剥がされちゃいな
  やさしさも甘いキスも後から全部ついてくる
  全部後回しにしちゃいな
  勇気なんていらないぜ
  僕には旅に出る理由なんて何ひとつない

 最初に「僕が旅に出る理由はだいたい百個くらいあって」と歌っていたのに、ここでは「僕には旅に出る理由なんて何ひとつない」となる。本当は、理由なんて必要なかったのだ。それなのに、だいたい百個くらいの理由を集めなきゃいけないような気がしていた。
 わたしは、なんでも考えすぎてしまうきらいがある。そのせいで、抱えなくてもいいような慢性的な不安を抱えてしまう。生きる意味や命の価値、幸せの基準などについて一人で考える。だいたい、こんなことを考えるのは暇である証拠だ。毎日忙しかったら、こんな不毛なことを考える時間などない。「いろいろあるけど、おいしいご飯を食べたらハッピー」と、全てを解決できる人になりたい。しかし反面、考えることでわたしは自分自身を保てているのではないかとも思う。考えなくなったら、自分ではなくなるとも思う。考えることに価値を見出しているあたりが、我ながらださいなあ。もっと、合理的に生きたい。
 本当にしたいことは、理由を並べなくてもできる。本当にすきなものに、それをすきな理由なんてない。全部後回しにしちゃって、本当にしたいことをしたい。

  手を離してみようぜ
  つめたい花がこぼれ落ちそうさ

 でも、今はなんにもしたくない。夜の空気で無敵になれるほど、わたしは若くない。一日なんとか生きてきたのだから、夜くらい曖昧でいさせてほしい。
 わたしが歩いている永代通りを西に進めば、皇居の大手門に着く。

注:本文中の歌詞は、岸田繁、「ハイウェイ」、「くるりの20回転」より引用した。

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