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メリークリスマス

バンプの音楽は、優しく灯る

 渋谷の街路樹は綺麗にイルミネーションされていて、自分の背中より倍も大きいクリスマスツリーが飾られていた。そこから電車で30分の地元の町では、駅前の銅像が可愛いサンタコスをしていて、自宅までの道のりでいくつの浮かれた家を見たかわからない。正確には、数えながら途中でやめた。数えてみると意外と少なそうに思えたから。想像よりも多いと、なんだか悲しくなりそうだったから。

 聴く人を選ばず、誰にでも優しくて、誰もが心の奥に持つ黒い感情、小さなモヤモヤ、そしてほんの少しの偽善的な良心を音に乗せる。彼らの生み出す曲は、大切な”何か”を知っていて、それが自分の中の大切な”何か”と合致したとき、初めてその曲に出会える。こうして、何度も何度もくどいほどの遠回りをして、私はバンプオブチキンとその楽曲に出会ってきた。
今から3年前、高校1年生のクリスマスが、私と「Merry Christmas」の出会いだった。

 高校生になってから、私の生活は一変していた。一言で言うと部活が大変だった。始発の電車は日常茶飯事で、休みなんて無くて当たり前だった。スカートは膝下で、髪の毛は短かった。先輩は怖かったし、横の繋がりも上手くいかなかった。体育祭の打ち上げは行けなかった。休日に友達とも遊べなかった。制服デートはできなかった。好きな音楽も聴けなかった。そんな暇もなかった。
すれ違う女子高生を見るたびに、心がどんどん曲がっていくのをリアルに感じた。それを環境のせいにしていることも、自分が悪いわけではないこともわかっていた。それでも私は、自分が選んだ世界で望まなかった痛みに耐えるすべが見つからず、いつもそれを何かのせいにして逃げていた。

 そんな日常でもクリスマスは当たり前にやってきた。町中がクリスマスに染まり、そして私も、例外ではなかった。

 クリスマス当日か、イブの日か、もしくはもう少し前だった気もする。バンプの「Merry Christmas」を部活に行く途中に聴いたのは。

「いつもよりひとりが寂しいのは いつもより幸せになりたいから」(Merry Christmas)

彼らはひとりぼっちのクリスマスをこう歌った。
バンプの曲は、聞き手が置かれた状況やその時の感情でぐるぐると様変わりするが、例えて言うなら、この時この曲は雨だった。柔らかい刺を持って、乾いた心を優しく濡らす。きっとこの時の私は、大人のふりをした子どもで、ひねくれているように見えて心はまだ純粋で、まるでクリスマスイブの夜にサンタさんがプレゼントを持ってきてくれることを期待して眠りに落ちるようなガキだった。サンタクロースはいない、クリスマスも変わらず部活、26日になればクリスマスコーナーには鏡餅が並べられると言い聞かせながら、心では”寂しくないクリスマス”を望み期待していた。楽しいクリスマスじゃなくていいから、”寂しくないクリスマス”を、と。

 私はこの曲に、大切な人を感じた。
私はひとりぼっちではない。大事な家族や友達、一生ものにしたい趣味だってある。今も、そしてこの時もそれは同じだった。私はそれを知っていて、全てを両腕に抱えながら、その重みも尊さも、何一つ感じていなかった。
たった一人で孤独に投げ出されたように感じたこの冬も、私はバンプの温かさに包まれて、家に帰れば家族の温もりも感じていた。それを教えてくれたのは、バンプであり、彼らの「Merry Christmas」だった。

 この「Merry Christmas」に関して、もうひとつだけ言いたいことがある。
私はこの曲のMVがこの上なく好きだった。
バンプのメンバー4人が路上で演奏し、その彼らの目の前で色々な人たちのクリスマスが描かれているMVだ。
4人の目の前を横切っていく人たちは、誰一人彼らに見向きもしない。しかし途中に、怪しげな目で4人を見る警察官が現れたり、藤原の目の前に置かれたギターケースを誤って蹴ってしまった男性が申し訳なさそうに謝るシーンがあったり、みんなの目に彼らが映っていないわけではない。ただ彼らは映像の中で、ただ気に留められない存在なだけだ。
そんな彼ら4人を、私たちは見ている。誰もが幸せを願うクリスマスに、誰にも気に留められない彼らの音楽を、私たちは聴いている。それは逆でもあり、町中の幸せから弾き出されたような私に、彼らの音楽は優しく寄り添ってくれていた。
最後には画面の外に向け藤原が手招きをして、クリスマスツリーの前へ連れていってくれる。私が気づけないキラキラ光る宝石を、彼らはいつも知っているのだ。

 今年もとうとう24日になった。
 高校を卒業し大学生になり、日常は比較的穏やかだ。今の私からしたら、この曲は”灯り”。寂しさに埋もれそうになる聖夜に、大切な人、大切なもの、私が私でいられる理由を優しく照らしてくれる。
 サンタさんを待つ子ども、手を繋ぐカップル、寄り添う夫婦、大声で笑う大学生も、こんなに寒いのに折りまくったスカートで生足を晒す女子高生も、私は誰のことも知らない。歩いてきた道も違う。これからの行き先も違う。
それでも願うことはきっと同じ。

 幸せなクリスマスを。

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