262 件掲載中 月間賞発表 毎月10日

2017年3月23日

さと (19歳)

幸せの音楽

ビッケブランカが作り出す「幸せ」な世界

「幸せになってください!」
渋谷WWWでのワンマンライブ、アンコールを終えた彼が叫んだその言葉は、ミュージシャン、ビッケブランカとしての性格、音楽、歌声全てを象徴しているように聞こえた。
私がビッケブランカの音楽に触れたきっかけは全く運命的でもロマンチックでもなく、誰のおかげでもなかった。Apple Musicを契約してから、少しでも知らないミュージシャンに出会うきっかけを増やそうと、新しくリリースされた曲たちの一覧から気になったものを聞いてみる、ということをよくするようになった。その時ビッケブランカはNew Artistとして紹介されていて、取り上げられているのは“Natural Woman”という一曲だけ。紹介文を読むと男性で、「ピアノ」「ファルセット」が武器らしい。女性のお腹にピアノの絵が描かれたジャケットも、シンプルだけどインパクトがあってかっこいい。そういうミュージシャンあんまり聞かないし、ピアノの入った曲好きだしちょっと聞いてみるか、と思った。その時私は布団の中で寝る前に音楽聴こうかな、というテンションだったのだが、再生してみて驚いた。イントロから予想以上に色鮮やかなピアノとファルセットボイスが流れ込んできて、これはハマる、ちゃんと聴くべき曲だ、と思ってその時はお預けにしたのを覚えている。翌日改めて聴いたその曲はやっぱりこれでもかというほどキャッチーで、すぐに虜にされてしまった。これが一目惚れってやつかと思った。それから少しずつ過去の作品も遡り、ライブにも行ってみたいなあと思っていたところで彼のメジャーデビューが発表された。
ビッケブランカが歌う歌詞はどれも日本語と英語を滑らかに行ったり来たりしていて、ちょっと聴くとかっこいい洋楽みたいだ。ピアノの明るい響きとファルセット、多重コーラスは多幸感があり、どこか切なさもある。いろんなところで和製クイーンと言われているのもみた。でもよく聴いてみると、その内容は女の子への未練や執着だったりする。デビューミニアルバムの名前は「Slave of Love」。直訳すると「愛の奴隷」。表題曲はもう恋愛なんてこりごりだ、もうしない、と言い続け、結局これで終わりだから、と言い訳しながらまた恋愛に向かってしまうという情けない愛の奴隷の曲だ。そんな歌詞があのキラキラしたサウンドに乗せて、ミュージックビデオではミュージカル風にダンスまでついてコミカルに表現されているから面白い。メジャー一発目がそれで、しかもジャケットは真っ赤な背景に真正面の顔写真。すごいインパクトだ。一回捕まった人には鮮烈な印象を残して消えないんじゃないかと思う。
そのミニアルバムのリリースイベントで、初めて彼の歌声を生で聴くことができた。CDで何度も聴いたあの音楽が、ピアノの弾き語りたった一人で目の前で生み出されるのをみてとても感動したし、楽しそうに演奏している姿がこちらまで楽しくさせてくれるライブだった。そして、演奏以外にとても印象に残っているのが、最後に行われたサイン会だ。屋上のスペースで、順番を待つ間場所にはかなり余裕を持って並ぶことができたため、他の人がサインをしてもらう様子は見放題だった。私はかなり列の後ろになってしまったのでずっと観察していたのだが、不思議と、幸せな気持ちにさせられるのだ。見渡せば並んでいる人たちはみんなお揃いのCDを手にそわそわしているし、本人の前に立つとパッと笑顔になって顔を見ながら何か熱心にお話している。当の本人は誰よりも嬉しそうな笑顔でサインと受け答えをして、プレゼントを貰うと子供みたいに喜んで、順番が終わるとニコニコ見送って、また次のファンに笑顔で向き直って…。どこを見ても、あの時の屋上は幸せに包まれていた。ちょうど快晴だったとか、場所が開放的だったとかの理由もあるかもしれないけれど、ビッケブランカを中心にみんなが幸せなんだなあ、すごいなあと思った。握手をしてもらった手も暖かくて、何もかもが暖かい印象で記憶に残ったイベントだった。
ここで話は冒頭のワンマンライブに戻る。「Slave of Love」を引っさげてのツアー、私が参加した東京公演の渋谷WWWは、なかなか全員が入りきらないほどの満員だった。私はバンドを引き連れてのワンマンをみるのが初めてで、あまり激しいライブに慣れているわけでもない。身長も低いし、普段は飛び跳ねたり叫んだりしなさそうなおとなしい人間だから、飲み込まれてしまうかもしれないと少し不安だった。しかし、そんな不安はライブが始まると一瞬でどこかに消えてしまった。ライオンキングの「サークル・オブ・ライフ」に乗せて先に登場したバンドメンバーに続いて、曲の一番いいところで堂々と現れたビッケブランカにパンパンの会場が沸く。それをステージ上から見渡して、ちょっとびっくりしたような顔をしていたのが印象的だった。そしていきなりのコールアンドレスポンスからパフォーマンスが始まると、もうそこは彼の支配する世界に変わっていた。まさにキング。クイーンの称号も似合いそうだ。さっきまで友達同士おしゃべりしていた女性たちも、無表情でスマホを見ていた女の子も、手持ち無沙汰な様子だった男性も、みんなステージの上と一対一だった。彼が手を振れば自然とついていく。ピアノや声だけでなく表情、ダンス、全身を使ったパフォーマンスにオーディエンスは身を任せて、こっちも全身で応える。きっとあの会場にはビッケブランカのライブに何回も来ている人から、ひょっとしたらライブハウス自体が初めての人までいただろう。でもそんなこと関係なかった。空気を読むことは求められていなかった。ただ楽しいと思ったらそれをぶつけたらいいのだ。そんなライブに慣れた人なら当たり前だと思われるかもしれないけれど、私には衝撃だった。細かいライブの内容は、いろんなところでレポを読むことができるので触れないことにする。ただただ、最後まで私はずっと笑顔で、気の向くままに叫んで手を振って、みんなと一緒に歌った。私の前にいた女の子は頭を振りながら踊っていた。普通に考えたら、二時間もの間ずっと笑ってるなんてちょっと信じられない。これこそ幸せじゃないか、と思った。
彼はインタビューで、自分の音楽が聴いた人に少しでもプラスに、ポジティブに作用しないと意味がない、と話していた。逆に言えば、そのために音楽をやっているのだと。ミュージシャンは沢山いるけれど、世の中にマイナスに影響する音楽を作ることをモットーに制作や演奏をする人なんてきっといない。もしいたとしたらよほどコアな人にしか聴かれないだろうし、世の中に広がることはまずないだろう。実際私の好きなミュージシャン達はみんな、それぞれの世界観でリスナーを感動させたり、寄り添って前を向かせてくれる。そう考えると、ビッケブランカの音楽論は当たり前というか、あえて言うほどのことかなあ、とも思える。でも、ライブを見たらその意味がよくわかった。彼の音楽、パフォーマンスは、「幸せ」が形を持ったらこんな感じだろうな、と思ってしまうような、純粋でストレートな幸せなのだ。
ライブ本編が終わって一度リセットされた会場に、アンコールを受けて再び響いたミドルバラードの“Wake up sweetheart”。歌いきって音が響いている中で彼が駄目押しのように叫んだ、
「幸せになってください!」
世の中に溢れていそうなこの言葉が、あんなに説得力を持って響くことがあるだろうか。この人についていけば、そばにいれば、絶対に幸せだ。メジャーデビューを果たして、これからもっともっとたくさんの人が彼の音楽に捕らわれて、「Slave of Vickeblanka」になってしまうのだろう。私はこれからもきっと、ビッケブランカのとびきりキャッチーでどうしようもない恋愛の音楽を楽しみ、時には彼の周りに集まって、どんどん大きくなるその輪の中で踊ったり叫んだりしに行くことになる。
幸せになるために。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
音楽について書きたい、読みたい