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ICERIUMが溶けるまで

進化を続けるmol-74

冬は苦手だ。寒さに我慢できない、動けない。
だが冬に関する曲は好きだ。これまでも数多くのアーティストが冬に関する名曲を生み出してきた。mol-74もその中の一組である。
そのmol-74が、この冬の寒さにピッタリなライブを行った。
その名も『ICERIUM』。

ICERIUMは冬をイメージしたコンセプトライブだと聞いていた。mol-74には『越冬のマーチ』というアルバムがあり、その中身は名の通り冬をモチーフにした曲ばかりで、この中から多くの曲がセットリストに入るだろうと予測した。
そもそも『越冬のマーチ』は個人的に冬のアルバムとして名盤であり、このアルバムのおかげで私は今だにmol-74に対して冬バンドのイメージを持っている。(とはいえ別のアルバムで春の曲や夏の曲もあるので、季節バンドと言った方が適切かもしれない)

ICERIUMは『越冬のマーチ』の一番最初に収録されている『La』をSEとしてメンバーが登場し、始まった。
一曲目はその『La』に続いて同じく収録されている『グレイッシュ』。
ここでmol-74のステージ上での立ち位置について書いておきたい。mol-74は上手からギター、ギター(鍵盤)ボーカル、一歩下がった位置にベース、そして一番下手に横向きにドラムが配置されている。横向きのドラムはスリーピースバンドでは最近意外とよく見る配置だが、フォーピースでこの配置はなかなか珍しい気がした。
今回私は下手の前方で見ていたのだが、ボーカルの武市さんが鍵盤を弾きながら歌う時は私のいる位置が真正面に位置する。つまり真正面から目が合うことになるのだ。歌っている本人と目が合うのは緊張するものだが、表情をよく見られる利点もある。彼の表情も相まって、この切ない世界にすぐに引き込まれた。

その静かな世界を破るように重く響くバスドラムのリズムから始まる『ヘールシャム』。かくして今度は私のみならず会場全体が冬の世界に包み込まれることになる。

本編中にほんの少しだけ挟まれたMCで「聴き入っちゃって調子悪くなっちゃう人がいるかもしれない」と本人が心配していた通り、あまり集中して聞きすぎると飲み込まれてしまうような圧倒力がある世界だ。

三曲目は1月にリリースされるアルバムに入る新曲『▷(Saisei)』。11月に加入したばかりの髙橋さんのベースが冴え渡り、ボウイング奏法を取り入れたギターやアコギと心地よく絡む。髙橋さんが正式加入してからの東京のワンマンは初だったが、サポートでのライブの時よりかなり積極的に表現しに向かっているように伺えた。昔からmol-74にいたかのような馴染み方だ。

五曲目の『▷▷(夜行)』でステージ上に配置されていた電球たちが光り始めた。暗めの照明によく映える、星空のような光。
今回のライブ全体を通して見ても、曲の雰囲気もあってか照明は薄暗いものが多かった。そしてメンバーも黒い服装(恐らく意識して揃えている)なので、タイミングによっては完全に闇に溶け込んだり、シルエットになる。mol-74は過去のライブでも、会場にアロマを焚いてみたりするなど会場演出にこだわる面があるので、今回もそれを意識していたのだろう。暗闇や穏やかな照明、小さな電球の光の元で奏でられる曲たちはゆっくりと着実に会場中で飽和していた。

今回最も印象的だったのは、ライブ後半に演奏された『hazel』だった。武市さんの鍵盤と歌声のみで奏でられる序盤では、切なげに目を細めたり胸に手を当てたりと感情のこもった姿が見られた。そこにサンプリングパッドのリズムが重なり、淡々としながらも美しい世界を作っていた。

これだけ壮大な静かな世界を作り上げてしまって、締めるのが大変ではと思ったが、そんな心配は杞憂であった。実は私は開演前に今回のセットリストは暖かい、要は春っぽい曲を持ってきて締めるのではと思っていたのだが、半分当たりだったように思う。
本編を締めくくったのは『アンチドート』。ゆったりとしながらも優しく暖かい曲だ。それでいて心の真髄をついてくる。
 

〈甘い甘い夢を見ていたあの日々が愛おしいなら 君の中にある確かな温もりだけが答えを知ってる〉
『アンチドート』
 

暗い冷たい世界に沈んだ手を引くような歌声。
ほぼMCなしで彼らはICERIUMをやりきった。

アンコールで出てきたメンバーは、本編中はしゃぎきれなかった分を取り戻すようによく喋った。「本編の緊迫感がある分アンコールでどういうテンションで話したらいいのか分からない」と言っていたが、結果的に本編の世界が全部夢だったかのように明るいMCだった。物販紹介や加入したばかりの髙橋さんの話をしたり、実に楽しそうに話すので安心感すら覚える。

「目覚めの一発やって帰ります」と話して披露されたのがmol-74の曲の中ではかなりアップテンポな『%』。
高速ハンドクラップの一体感には、やっているこっちも驚かされたものだが、それを見て嬉しそうなメンバーの表情も印象的だった。
私が知った当初のmol-74はかなりバラード系で攻めてくるバンドという印象があった。(やや速い曲もあったのだが、割合としてバラードが多かった。)流行りのリズミカルなバンドとはフィールドが違う、ゆったりした中にもしっかり主張してくるところが魅力だった。
なので『%』のようなキャッチーな曲が現れた時は個人的にはやや不安なところがあった。だがライブで見てみるとこれもやはり杞憂で、こういう曲が入ることでmol-74は新しい強さを手に入れた。どんな曲でも自分たちの武器として扱える。

今回のICERIUMは前述の、私の当初のmol-74の印象であるゆったり系の形を多くとっていたが、そこに新曲をうまく取り入れていた。mol-74の過去と未来を伺えるものだったように思う。
私は季節バンドと表現したが、今回演奏された曲以外にもmol-74には様々な曲、表情がある。

冬が明ければ春が来るのだ。今度は春の世界で会いたい。

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