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景色と人が、重なる時

今日のナンバーはback numberで『風の強い日』

“ケーキ屋の前を通りながら
あなたと行った場所を思い返してみる
雨上がり風の強い日”

私にback numberを勧めてきてくれたのは、その時私が片想いをしていた人だった。新年会の二次会で、私は好きな人と話せることに浮かれていた。その日祖母の誕生日だったことをすっかり忘れていて。翌朝、祖母が亡くなったと知らせが来た。

眠るようにして天国に旅立った。雨上がり、息を吸うと肺が痛くなるような冬の寒い日。
「ばあちゃん、誕生日おめでとう。」
その言葉を口にしないまま、最後のお別れをした。後悔が波の様に押し寄せた。

私は祖母が本当に大好きだった。
本当に大好きだったはずなのに。

“ずっと一緒にいられるなんて思ってないけど
本当に終わりが来るとも思ってもいなかったんだよ”
 

back numberのファーストフルアルバム【あとのまつり】に『風の強い日』と言う曲がある。アルバムを手に取りこの歌と出逢ったのは、葬儀が終わった数日後だっただろうか。私はこの曲のメロディーが好きで、車の中でよく流していた。

そしてこの歌から思い描くのは、歌い手の苦しい気持ちや悲しい気持ちや切ない気持ち、ケーキ屋(後にモデルが漬け物屋だと知った時の衝撃ったら!)、桜の木のある風景。私は、サビ部分と最後の言葉から、好きな人を忘れられない、忘れたくない、忘れようとしない、不器用で真っ直ぐな人なんだな、そんな感覚で聴いていた。この頃は清水依与吏と言う人物を、back numberと言うバンドそのものをあまり意識していなかったように思う。
 

それが、春先のある日、ふと祖母に連れられて行った桜の広場とケーキ屋が思い浮かんだ。風が強く、どこからか桜の花びらが飛んできた。桜の木とケーキ屋の横を通りながら、海へと続く坂道を歩いたこと、線路沿いの家までの道をおんぶしてもらったこと。そこにはばあちゃんの背中があって、ばあちゃんの大きくてあったかい手があって、ばあちゃんの笑った顔があって。歌詞をなぞり、曲から思い浮かべていた風景が私の記憶に塗り替えられた。

“公園の角の桜の木が綺麗だねってあなたに言いたくなる
ああそうかもう会えないんだった”

車の中で、一人泣いた。

火葬の時には殆ど流れなかった涙が、とめどもなく溢れた。

あの時もっとこうしていればとか、何でやらなかったのかなとか、言わなきゃ良かったとか、伝えることが出来たはずなのにとか。
振り返れば自分の思いにも、すべきことにも気がつけるのに、私は毎度毎度振り返らないと気づけない奴で。寧ろいなくなって初めてその姿を探して。この歌を聴く度に、あの日と同じ、押し寄せる波の様な後悔を感じていて。
 

同時に、音楽の中で景色と心情を語っている人のことが気になった。「ねぇ、私も、大好きな人に桜が綺麗だねって言いたくなったんだ。」と、つい話しかけたくなるような人。声しか知らない人。自分の世界と想いを音楽で表すことが出来る人。

どんな思い出があって、どんな想いで歌詞を紡いで、どんな風に曲を作って、どんなことを考えながら歌っているのだろう。

歌詞カードを見て、名前を確認した。急に、清水依与吏と言う人から発せられる言葉とback numberと言うバンドから生み出される音を意識して、急に親近感が湧いた。いや、親近感が湧いて、意識し出したのか。どちらにせよ、『風の強い日』は[車の中で流す曲]の括りから抜け出して[特別な歌]になった。
 

言葉の一つ一つから思い起こされる記憶があって、フレーズの所々に共感する感情があって、心が震える。あの頃が、大好きだった人が、目の前に浮かんでくる。

「いやいや、この歌はどう聴いても恋愛の歌だから!」と人は言う。私もそう思う。この歌詞は私に宛てたメッセージでも、私の祖母を綴ったものでもない。
だけど私は重ねてしまったのだ。体験時期も相手も状況も違うのに、歌の主人公と私の、それぞれに見えた景色を。そこで感じた想いも、言いたい言葉も。
 

今では桜の木も線路も海の中に消えてしまって、それを免れたケーキ屋も別の場所に移った。また一つ思い出すものが減っていく。思い出せるものが変わっていく。だけど、私の中で『風の強い日』は祖母を思い出させてくれる大切な存在になった。

あれから何年か経って、back numberっていいバンドなんだよと教えてくれた人も、今年結婚するらしい。時間が経ったんだなぁって実感する。
以前と比べて、祖母を思い浮かべることも、毎日の様に泣くことも、狂った様に曲を流すことも少なくなった。これから変わる心もあるのかも知れない。それでもいい。それでも、今は、逢いたい気持ちも、言いたい言葉も、後悔の念にも変わりはない。変わりゆく中で、変わらないものもあると教えてくれたのはこの歌で。まだもう少しそこにいてもいいのかなと思えたのもこの歌で。

“それでもいつか歩き出して
また同じように誰かを好きになるのかな
もう少しここにいるよ”
 

back numberの曲は痺れるロックなものから妄想炸裂なものまで様々だ。どの曲が好きだとか、どの曲が彼等らしいでは留まらない。想いを込めた一曲一曲に考えさせられることがあって、私の人生の一部となって、切り離せない存在だ!って言ったら大袈裟になるかな。
でも、過去に想いを巡らせることも、今の足元に目を配ることも、将来に希望と理想を抱くことも沢山あって。その中で私に景色を見させてくれて、一番泣いた曲。聴き続けたことで、救われた歌。

今日は祖母の誕生日、
そして明日は祖母の命日。

私は一人イヤホンを耳にし、この歌を聴く。
一緒に歩いた景色を思い浮かべながら。
一緒に眺めた大好きだった人を想いながら。

景色と人が、私の中で重なる時。
ばあちゃん、誕生日おめでとう。
ばあちゃん、ずっと、大好きだ。

今日のナンバーは
back numberで『風の強い日』

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