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一筋の光が大きく花咲くとき

NICO Touches the Wallsの進む道、そして私の進む道

11月25日。
NICO Touches the Wallsのファンならば誰もが知っている「イイニコの日」。毎年メンバーが趣向を凝らして普段とはひと味違ったライブを行うファン垂涎の日だ。2017年のイイニコの日(1125/2017)に参加した私は、この日を境にある曲の虜となった。

“Ginger lily”と名付けられたその曲は、1125/2017で初披露されたその時点ではリリース前の楽曲だった。ステージでタイトルが明かされることはなかったが、事前に発表されていた次のEPへの収録曲リストに並ぶ”Ginger lily”、その楽曲であることはあの場にいたファン全員が感じとっていた。

私ももちろんその1人で、イントロが始まった瞬間にそれを感じとった。歌詞を聴く前からタイトルが確信できるあの不思議な感覚と、ステージ上から空気を介して観客一人一人に届くNICOの熱。それは滅多にライブ中に泣くことがない私に涙を溢れさせるには、十分すぎる理由だった。

そして10日後の12月5日。私は発売日より1日早くNICOの新作である『OYSTER -EP-』を手にした。
「やっとまたGinger lilyを聴くことができる。」
「早く聴きたい!」
そう思えば思うほど、心臓が高鳴り、大切な宝物を紐解くかのように指がこわばってしまう。

一度CDを置き、1杯のコーヒーで心を落ち着かせる。大丈夫、NICOが見せてくれる世界はいつだって私の新しい扉だ。

これほどまでに緊張しながら開封したCDがあっただろうか。再生ボタンを押した私は、全曲が新曲であるその作品を隅から隅まで堪能した。その新しい音楽は私の緊張をほぐしながらも、期待を超えていく驚きも与えてくれた。そして最後の収録曲がかかった。”Ginger lily”だ。

スピーカーから聴こえるその曲は、ライブで感じた空気をそのまま運んできてくれた。自分のいる空間が少し拡がる感覚、その感覚と一緒に訪れる一瞬の突風、そしてその空間を満たすように散りばめられた細かな光。

あぁ、これだ。

歌詞カードを見つめながら、ひとつひとつの言葉を噛み締め、目と耳の両方からその世界を咀嚼する。苦しい。この曲を書いた光村龍哉(Vo&G)のこれまでに感じた焦燥、葛藤、悩みが目の前に見える。そこにはもちろん古村大介(G)坂倉心悟(B)対馬祥太郎(Dr)の姿も一緒だ。走馬灯のようにたくさんのシーンが次々と頭の中を駆け巡る。まるで自分の頭が光村にジャックされてしまったようだ。

そして一気に広い場所へと飛び出して行く。その場所には迷いなどなく、明るい光が満ちている。

私はその光に酔いしれ、何度も何度もその曲を聴く。そして何度目に再生したときだっただろうか。これまでとは違うイメージが一瞬だけ浮かんだ。

「夜の果て…」

2008年2月に発売された”夜の果て”。NICOにとってのメジャー1stシングルだ。頭をよぎったそのタイトルに必死で思考を巡らせる。

なんでだ?なんでよぎったんだ?
似てる?歌詞が?いや、似てないよ。
曲が似てる?同じジャンルかもしれないけど、曲自体は全く違う。
じゃあ何?何が私に”夜の果て”を思い出させた?

自問自答を繰り返し、ふと気付く。同じ光だ。

《こんな暗い闇の向こうで招く光は/誰が握っている?(”夜の果て”)》
NICOは”夜の果て”でそう歌っている。その言葉のとおり、目の前に広がっているのは光ではなく闇なのだ。この曲で見える光は小さくか細い。でもこの闇の向こうのわずかな光が、”Ginger lily”から感じる大きな光と同じだ。私はそう思った。

まるではるか遠くに見えるトンネルの出口のような、わずかな一筋の光を目指し歩んできたNICO。その光の正体が何なのか、その光の待つ場所はどこなのか、分からないままひたすらにもがきながら進んだ道。敷かれたレールも、与えられた方角も、ねじ曲げて己の道を進んだ。ロックはもちろん、ポップもファンクもブルースも、あらゆるジャンルを器用にこなすが故にヘンテコなバンドと言われたという不器用な彼ら。全てが間違っていたと思うこともあった。それでも常に視線の先にあったその光は、10年後の今、花開いたのだ。

「俺たちの音楽を聴いてくれ」「認めてくれ」「どうして分かってもらえない」ぐちゃぐちゃな想いを抱えもがきながら、果ての光を目指して4人の青年が進み続けた闇の中。《いつか迎えに来てよ 夜の果てへ/僕のもとへ(”夜の果て”)》そう願っていた”夜の果て”から10年後、自らの力で夜の果てにたどり着いたNICOのもとにジンジャーが咲いた。”Ginger lily”を聴いたときに感じた突風は、自らの足で夜の闇というトンネルから抜け出たその瞬間に吹いた風だ。そう思った。

今はもう目指していた光は見えなくなった。肌で感じている。だって今はその光の中にいるのだから。”Ginger lily”には一度も光という言葉は登場しないのに、どうしようもなく光を感じるのはきっとそれが理由だ。そしてその光は、ジンジャーの花は、「誰に何を言われても、やっぱりどうしようもないほどに音楽が好きなんだ」というそのただ一つの想いだった。

10年かけてたどり着いた答えが「好き」だというのは、不器用なNICOらしいじゃないか。そうか、私はこんなにも不器用なバンドが大好きなものを苦しいほどに大好きだと歌うこの曲に魅了されたんだ。私も、泣きたいほどに彼らの音楽が好きなのだ。

天邪鬼なNICOのことだ、きっとこの光の中に素直に留まることはしないのだろう。飛び出して行くのか、空へ飛ぼうとするのか、もしかしたら暗い地中に潜ろうとするのかもしれない。それでも彼らはブレない。自分たちの想いを再確認し、新しいスタートを歌った”Ginger lily”。新しいスタート=通過点だ。NICOは信じる道をまっすぐに進むことをやめない。

曲に込めたNICOの真意は分からない。”夜の果て”と”Ginger lily”の繋がりなど、私の深読みにすぎないだろう。でもそれでいい。”Ginger lily”は私に彼らの軌跡を想像させ、どんな音楽をしようとも彼らの芯にあるものが10年前から変わらない想いであることを教えてくれた。真意は分からなくとも、私が感じたことが私にとっての答えだ。彼らは、答えをいつも聴き手に委ねてくれる。
NICOは、”Ginger lily”は、そうやってまた新しい扉を私の目の前に置いていった。

この扉を開けた先は、私の世界だ。
NICOが咲かせてくれたジンジャーを胸に、私が私の想いを歌い、進んでいく。

《さあジンジャー 滲まない想いを歌ってみるから(”Ginger lily”)》
 

進んだその先で、新しい音楽で遊んでいるNICO Touches the Wallsにまた出会えるはずだ。

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