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ここではない遠くの方へ

米津玄師LIVE TOUR/Fogbound 貴方の居場所はここにある

彼は孤独が似合う人だった。
 

 実際、彼の音楽の根源は「一人でつくる」ことにあったし、彼も「人とモノをつくる才能がない」のだと自分自身について語っていた。その孤独が彼の音楽をつくってきたことは確かで、自分の孤独やマイナスを、こんなにも格好良く歌う人がいるのかと、私自身が惹かれた理由もそこにあった。彼独自の世界観で生まれた曲は切なさや憂いの中に美しさを持ち、それがやけに綺麗に見えたのだ。
 ここで、私の孤独だった学生時代の話なんかが合わさればそれは彼の音楽と合わさって綺麗な話で畳まれるのだろうけれど。それなりに素敵な友達に囲まれてすくすく育ってきた私には、彼の孤独が逆にたまらなく眩しく見えたのだ。米津玄師という孤高の天才が憧れとして存在し始めた時から、彼が見る世界を見てみたくて、彼が向かう先を見ていたくて。私は彼にどうしようもなく惹かれていたらしい。

 思えば、彼との出会いは端的に言うと運命だった。
暇つぶしに入ったCDショップで小さく取り上げられていた彼の1stアルバムは、たまたまそのコーナーを通った私の心を掴んで離さず、その場で長い間立ち止まり聴き入らせた後、所謂、”衝動買い”というものを初めてさせた。元々好きだった、ボーカロイドの世界で絶対的な人気を誇っていたボカロP”ハチ”と、彼、米津玄師が同一人物だと知ったのはその後になる訳だが、それを知ったときには、やはり彼にこうも惹かれてしまうのかと、驚きよりも興奮に近い感情を覚えたものだ。
 

 あれから5年、2018年1月10日、彼は音楽の聖地、日本武道館に立っていた。彼のために集まった、1万人の前で、歌を歌っていた。米津玄師Fogboundツアー、ツアーファイナル公演に、私はいた。
 
 

 彼は、孤独から抜け出すことを望んでいた。
 
 

 「ずっと遠くへ行きたかった。」

武道館のステージで彼は言った。そして、その思いが彼の音楽の根底にあって、彼を生かしていたのだと言った。ずっと一人でつくることを心地よくやってきた彼は、「誰かの力を借りる」ことが必要不可欠であることを知っていた。自分のやり方を変える難しさも知っていた。
ボーカロイドを隠れ蓑にしたくないと、本名でのCD制作を行った1stアルバム「diorama」。ボーカロイドの世界からメジャーの世界へ足を進め、新たな場所での居心地の悪さを表した、移民を意味する2ndアルバム「YANKEE」。ブレーメンの音楽隊をモチーフとし、今いる場所から抜け出して、ブレーメンへと旅をする動物達に彼自身を重ねた3rdアルバム「Bremen」。彼はいつだってここではない、”遠く”を見ていた。
 
 

「思えば遠くへ来たもんだ。」
 

 ライブ中、彼は繰り返しこう言った。
ふと、ツアーをやり始めて間もない頃、ツイキャスの中で、彼が「キャパが足りなくても、小さいところから1歩ずつやっていきたいから」と語っていたことを思い出す。そんな彼が、日本武道館に立っている。一つの物語が完成していく。そう感じた。
 

 《どこまで行くのか決めてなんかないが
ひたすらあなたに会いたいだけ
知らない間に遠くまで来たが
暖かい場所はまだ向こうか》/翡翠の狼
 

 4枚目のアルバム「BOOTLEG」を引っさげて行われた今回のツアーは彼自身最大規模のツアーとなった。彼の中で新たに生まれた音楽の手法「共作」。このアルバムはツアーファイナル、この武道館というステージで完成したのだと、実感した。

 池田エライザがコーラスで参加した「fogbound」で始まったライブは、彼の世界観と独特の雰囲気で一気に会場全体を飲みこみ、霧に包まれたようなステージで1人静かに歌う彼から一瞬たりとも目を離すことができなかった。

 ライブ最後は、世間からも大きく注目を集めたコラボ曲、「灰色と青」。スペシャルゲストとして菅田将暉が登場したところで、客席の盛り上がりは最高潮に達していた。

最後に彼らが熱いハグを交わした。

アルバム「BOOTLEG」が完成した瞬間だった。
 
 

彼は孤独のシンガーだった。「灰色と青」がこの瞬間に完成するまでは。
 

アンコール最後、アンビリーバーズでFogboundツアーは幕を閉じた。
 
 

《だから手を取って僕らと行こうぜ
ここではない遠くの方へ
(中略)
全て受け止めて一緒に笑おうか》/アンビリーバーズ
 

彼はこれからも孤独を愛するだろうか。
きっと、ここではない遠くに向かい続けるのだろう。
そして、どこに向かうかは彼自身にも分からないのだろう。
 
 

一つ、確かなこと。
貴方の居場所は、とっくにここにある。
 

願わくば、これから先ずっと
 

私も、貴方と、おしゃべりがしたい。

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