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そんな夜にもう負けるなよ

卒業証書/THE BOYS&GIRLS

ギリギリ、日常生活にカセットテープがある時代に生まれた。幼い頃、我が家のオンボロレトロカ―の車内ではいつもKiroroが鳴っていて、中でも「ちょきん」という曲は今でもふと思いだしてしまうことがあるほど耳に残っている。音の鳴りだけで覚えていた当時の私が“ちょきん”とふたりで髪を切る歌ではなく、“貯金”の歌だと知るのは十年以上も後の話である。その間に音楽ビジネスの中心はカセット、MD、そしてCDさえも通り越してダウンロードやストリーミングへ移行しつつあった。

THE BOYS&GIRLS(通称:ボイガル)の新曲「卒業証書」をラジオで耳にしたのは、つい数日前のことである。電気を消した真っ暗な自分の部屋、電気あんかを足で器用に引き寄せ、布団をかぶってradikoを起動した。思ったよりも随分早く、その音は電波に乗って聴こえてきた。
ワタナベシンゴの声を聴いただけで涙が出る。HPに載っていた歌詞を思い出す。手書きの紹介文。どんな人に聴いてほしいって書いていたっけ。あ、でも私は学生じゃないからこの曲からはちょっと遠いところにいるのかなぁ、なんて思ったりしたっけ。そういえば、私が初めてボイガルのライブを見たのはちょうど卒業式シーズン、去年の春のことだった。私は人生最後になるであろう、卒業証書を郵送で受け取った。送料は着払いだった。彼らの曲を聴くと、あのときのライブの熱量がそのまま蘇ってくる。再生ボタンを押した瞬間、汗まみれで“君”のために全身全霊で歌うワタナベシンゴがステージから降りてきて、“君”にグータッチを求めてくる。それに応えようと“君”は手を伸ばし、心がガツンと触れ合う感触を確かめる。ふとステージに目を向けると、残った(いや、正式にはステージ上にいることが当たり前のはずなのだけれど、そう感じてしまうのは…ワタナベシンゴの気迫のせいだろう)3人が同じように心で歌っている。コーラスしているとかそういうことではない。紛れもなくTHE BOYS&GIRLSというバンドは4人で歌っているのだ。“君”の歌を。命を削っていた。でも寿命は縮まなかった。

どん底だとか、吐き気がするとか、何が若さなのか考えたりとか、逃げようとしたりとか、青春真っ只中、掃除の時間の校内放送で毎日繰り返し同じ曲ばかりを聴いていた私は、そんなこと考えてもなかった。いや、もしかしたら一ミリくらいは考えていたかもしれないけれど、そんな記憶が見当たらない。じゃあ今はどうかというと、割とそんなことばっかり考えている。2018年の幕開け。私は軽い気持ちで元日から仕事を引き受けてしまった。それがまぁ笑えないくらいのハズレくじだった。これから2018年という年をまだ364日も生きなければならないのに、最初の最初でやる気が失せた。そんなわけで元日からほとんど口を開かず、バッドエンドの本ばかり読んで、SNSのアカウントも削除し、ことごとく人との関わりを絶った。出勤のため駅へ向かうたびにそこへ停まっている長距離バスに乗ってふらっとどこかへ行ってしまおうか…と考える気力さえなく、2年ぶりに意気込んで買ったほぼ日手帳も白紙のままだった。
そんな奴が日本のどこかに存在していることを知っていても、知らなくてもボイガルは同じように歌うだろう。白銀の世界が広がる北海道の大地を自分たちの魂で照らしているだろう。平日の夜、威勢よく乾杯をする社会人の中には入れないけれど、同じく平日の夜、下手したらその居酒屋より小さいかもしれないライブハウスで心をぶつけ合い、拳を上げて乾杯をすることなら私にだってできる。彼らがそれを、連日連夜、日本のどこかで証明してくれている。そしてそれに救われている人間がいる。

ラジオで初めて「卒業証書」を聴いてから数日後、今度はジャケット写真が公開された。その公開手法は、コンビニのネットプリントでジャケット写真のプリントを行い、21時にそのジャケ写を撮影したものを一斉にツイートするというものだった。私はそういう類のことが大好きだった。見ず知らずの人が同じ人を好きになり、同じ目的に向かってひとつのことをバラバラの土地でやり遂げる。なんて神秘的なんだ!と思う。
スマホ片手にコンビニへ。指定された番号を指で押し、60円を投入する。そのプリンターはいつも会社で使っているものよりも、なんかもっとすごいものに思えた。つまらないものを何百部もタダで量産するよりよっぽどこっちのほうがいいと思った。
出てきたのは、花だった。赤と青の花が並んでいた。私はそれを綺麗に四つ折りにして、ほとんど白紙のままの手帳に挟んだ。

2月2日 ・配信リリース THE BOYS&GIRLS 「卒業証書」
全国の中学生、高校生、学校関係者はその日を待つに及ばない。詳しくは彼らのHPにて。私はもう校内放送を聴けない。でも貴方なら。

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