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置き去りにされた青春は救える

Base Ball Bearから振り返る「教室」というあの頃のすべて

去年4月、Base Ball Bearが三人体制初のアルバム『光源』を発売した。
青春の当事者として音楽を伝えてきたロックバンドが、紆余曲折を経て大人になり、新たなフェーズに突入した彼らだからこそ表現できる「あの頃」を想うアルバム。彼らはこれを「二周目の青春」と表した。

なにもかも自分の手の平の中にあった気がした全能感。年を重ね、少しずつそれは気のせいだとわかったときの失望感。両方を味わったことで、改めてあの頃の私は未来のことなんてなにもわからず、なんとなく漂うように目の前にある毎日しか見えていなかったのだと感じる。そして今Base Ball Bearの音楽を通して振り返ることで、記憶の中の小さな青春の破片が心で疼くようになった。

小学生の頃、卒業間際にクラスメイトから告白をされたことがある。恋愛感情として異性から告白された経験が初めてで、私は驚いて混乱した。自分にとって思ってもみなかった人からの告白であった。

彼はクラスの中で他のクラスメイトと少し違う扱いがされている人だった。いわゆる「いじめ」という形だったと私は認識している。特に理由もなく、そのいじめは続いていたと思う。彼が触ったものは皆んなが毛嫌う。彼が話しかけようとすると皆んなが無視する。私はそんな状況が耐えられなかった。この教室の中で起こっている理不尽な状況が本当に馬鹿馬鹿しいと思っていたのだ。
私は彼に対して普通のクラスメイトと同じ態度をとり続けた。「彼が可哀想だ」という同情や正義感ではなく、ただ単にクラスメイトや教室の空気に呆れていたからだと思う。掃除の時間には誰も運ぼうとしない彼の机を、クラスメイトに呆れながら運んだ。席替えで彼の隣だと分かり嫌がっていた友人には、その席を自分の席と交換した。しかし私は呆れていながらも「いじめは止めるべきだ」と堂々と教室中に公言することはできなかった。そんな発言ができる地位の人間ではないとわかっていたからこそ、このやり過ごすしかない変な空気が嫌で仕方なかった。

そんな「特別扱い」されていたクラスメイトからの告白だった。しかし断る理由もなかったが受け入れる理由もなかったので、私は「ずっと何年も想っている人がいる」という嘘をついて告白を断った。
中学に入学すると、彼へのいじめも自然と消滅した。そして標的はまた違う女の子へと変わっていった。私は小学生の頃と同じような態度を中学でもとり続けた。そんな中で、彼からもう一度告白された。今度はなんだか可笑しくなってきて、笑いながらも同じような理由で断った。

ただのクラスメイトだと思っていた人がなぜ二度も私なんかを好きになるのか、あの頃の自分は全く理解ができなかった。しかし年を重ねる中で、二周目の青春を提示したBase Ball Bearの楽曲があの頃を少しずつ紐解いている気がした。
アルバム『光源』の一曲目「すべては君のせいで」の歌い出しでは、こう書かれている。
 

ある日突然 幽霊にされた
僕を置き去りに今日も教室は進む

落とした定期 蹴られて遠のく
追いかけた先 かがんだ君と目が合って

うつむいた僕の名前を呼ぶから
生きてる気がした
 

この楽曲は小出祐介自身の学生時代と、希望を感じさせるフィクション描写を加えたものであるとのちに語られている。落とした定期が拾われ、名前が呼ばれる。このパートで動いた景色はこれだけだが、なにかが始まるドラマチックな言葉の装飾で彩られている。私はこの曲の歌詞を初めて見たときから、自分の中に既視感があった。それはまさに、教室で起きていることがすべてだったあの頃のようだった。そして、あの頃は感じ取れなかった相手の感情がそこには描かれていた。
 

すべては君のせいで 毎日が眩しくて困ります
すべては君のせいで ああ、心が♯していきます
すべては君のせいで なぜか頑張ろうとか思ってます
すべては君のせいで Baby 頭抱えるばかり
 

私は決してクラスの人気者のような存在ではなかった。特別可愛い容姿なわけでも全くない。それでも、幽霊のようにされていた彼にとっては、名前を呼ばれただけでも生きてる気がした気持ちを感じられる相手だったのかもしれない。「毎日が眩しい」と感じる相手だったのかもしれない。そう思うと、二度もしてくれた告白を、なぜあんな断り方してしまったのだろうと後悔する。

全能感という魔法で誤魔化し、きつく握ったその手をひらけば特別なものなんて本当は何も持っていなかった私でも、誰かの毎日をあの頃のすべてだった教室から救うことができていたのかもしれない。そして「救われた」という晴れやかな気持ちがどこかで恋愛感情に誤って変換されてしまった可能性も考えると、青春を彩る破片はやっかいだ。
 

この曲を聴くとふとあの頃の教室を思い出す。
正直、もう彼の顔ははっきりと思い出せない。
だけど今更、胸が熱くなる。

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