751 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

「考える」こと、「気付く」ということ

「SKY-HI」の音楽が「なんとなく良い」であり続けてくれること

なんとなくここ数年、SKY-HIの作る曲が、音が、大好きだ。「なんとなく」という言葉に「大好き」は相応しくないのかもしれないけれど。

2014年の暮れ、なんとなく気になっていたラッパーのライブを初めて観た。今思えば既になんとなく好きだったのかもしれないが、観たくて観たくて堪らずに出かけたわけではなくて、他の出演者目当てに偶然観に行ったイベントだった。おそらく30分弱のライブはなんとなく楽しくて心躍るもので、始発電車に乗って帰る途中、ライブで披露されていたものの聴いたことのなかった曲を片っ端から聴いた。睡魔に耐えられず、うとうとと意識を飛ばし繰り返していたために、最寄り駅に着くまでの時間では足りなかったけれど、仕事帰りにそのまま直行して夜通し遊び倒した後の心地よい眠気を感じながら、次へ次へ、iPhoneを操作する手が止まらなかった。その「なんとなく良い」音楽は、そのあと数年をかけて、気付けば自分の生活に欠かせないものになった。

SKY-HIの音楽に惹かれたのはたぶんそんなきっかけで、それから今までの3年と少し、このアーティストの音楽は数え切れないほどの様々な「きっかけ」を作ってくれている。SKY-HIの音楽は、何も考えずに過ごしていればそれで何事もなく過ぎていってしまう世の中のアレコレを、「それっておかしいんじゃないか?」と、立ち止まって考えさせてくれる。自分には関係がないと思っていたことを改めて考えるきっかけをくれる。大人になるにつれて知識も経験値も増えていくのに、世の中のおかしい流れを、それっておかしい、と表現することを意識的に避けていた自分にとって、結構な衝撃の連続だった。
…と、気付いたのはここ最近の話で、なぜSKY-HIの楽曲に惹かれているのか自分でもよく分からなかった。

見なくて済むのなら痛いことやツライものは避けて生きたい。昔は何も感じなかった「魔女の宅急便」でジジが言葉を話さなくなる瞬間や「トトロ」でメイが居なくなってしまうシーンでさえ、悲しくて早送りしてしまいたい。何か新しいことをするときは、余裕なフリを装うもののやはり注意深く、きっとその石橋は壊れてしまうほどに叩きすぎている。失敗だってしたくないし平穏な毎日を過ごしたい、荒波は立てないように。少し考えればそれはまったく平和ではないにも関わらず。それでも毎日はそれなりに楽しかったし、避けてはいたものの心が痛む経験や成長痛のような苦い挫折もしてきたはずだ。

そんな毎日にピリッとした気付きときっかけをくれたSKY-HIの音楽は、いつだってメッセージが一貫していることに気付いた。

“TV Show 紛争に難民 パン齧ってみる午後三時 どうすりゃいい? 教えてガンジー 生きてたって感じないリアリティ 誰が悪い? 関係ないこれは君の祭り 誰かの意思じゃなく自分で 歩いてやれ喧噪を踏んで”
“右、左も慌ただしい 野暮な正義感は空回り こいつは僕の話そしてこれも君の話 ベッドの上に寝転んで「俺は世界の平和を望んでる」 「意識高く持っていたい」 はずなのに口癖は「死にたい」 ”
『逆転ファンファーレ』

この『逆転ファンファーレ』という曲はライブで何度も聴いたが、2016年のROCK IN JAPAN FES.で聴いた瞬間の鳥肌の立ち方は今でも鮮明に覚えている。SUPER FLYERSというフルバンドとダンサー、総勢十数名を従えたSKY-HIのステージは思わずニヤッとしてしまう程キラキラとしていた。真夏の直射日光で自分の体力は擦り減っているのに、こんなにもキラキラとしているのに、発せられるメッセージに耳を傾ければ、なんて痛快なんだろうか。その贅沢な音の飛び交う空間は素直に心と身体が揺さぶられるもので、真夏の野外フェスで味わうその感覚が堪らなかった。

昨年リリースされた『Silly Game』やSKY-HIのYoutubeプライベートアカウントから発表された『キョウボウザイ』という曲も、その曲を単体で聴けば「いきなりなんなんだこのラッパー」となったのかもしれないし、実際にそう思った人だっているかもしれない。だが、その何年も前に発表されていた作品や、彼のそれまでの発言を辿れば、決してそうではないことが分かるはずだ。
私自身も世の中のアレコレに興味が無かったわけではないし、周りの大人の会話に付いていける程度には関心も持っていた。でもそれは「周りに付いていく為に無理やり付けた知識」であって、「自分の意見を持つこと」とイコールではなかった。日本の、世界の、毎日報道される悲しい出来事、それに比べたら多くはないけれど、心が温かくなるような出来事ですら自分の身の回りに起こっていることとは結び付けられず、他人事だと思っていた。悲しいツライ場面は見たくないし考えたくもない。ほんの半年ほど前までは確かにそう思っていた。
これまでもメッセージ性の強い曲は他のアーティストでも聴いていたし、何故ここへきてSKY-HIの楽曲で意識が変わったのかと自分でも思う。それは言葉にすると結局上手く表現できないのだが、突然変わったわけではなくて、彼の曲を聴き始めて、ライブに何度も足を運んでからのこの何年かでじわりじわりと、ゆっくりと時間をかけて様々な「きっかけ」をSKY-HIから受け取っていたからなのだと思う。痛快で時にキリキリと胸が痛くなることもあるメッセージ、それを読み解くためのSNSや雑誌のインタビューでの言葉、そのうえ聴き流していても楽しんで聴けるスキルフルなラップ、そしてライブで体感する音、全て含めて「なんとなく良い」と感じ続けられる曲だったからだ。

だが、SKY-HIの発するメッセージに共感しているのかと言われれば、全てがそうだとは正直言えない。彼がずっとブレずに発している「死にたいと」思う気持ちを「生きたい」にひっくり返す、というメッセージには共感した記憶はあまりない。そもそも死にたいと思ったことは今までの人生を振り返ってみてもなかったのだから、そりゃそうなのかもしれない。しかしそこから自分が感じ取るのは共感ではなくて「気付くこと」へのきっかけだ。

昨年8月にSKY-HIが発表した『0570-064-556(Logic”1-800-273-8255”remix)』の中の
 

“聞いて欲しいけど言いたくない 自分でもわからない 実際何がしたい 正しいことなんか聞きたくない どうせ誰も俺じゃない 実際何がしたい
消えてしまいたい 消えてしまいたい 何もかもを捨てて 夢も未来も 消えてしまいたい 消えてしまいたいその前にさ 時間をくれないか”
『0570-064-556(Logic”1-800-273-8255”remix)』
 

この悲痛な叫びのような詞は、今の私には到底理解なんて出来ないのだろう。”どうせ誰も俺じゃない”そうだ、分かりっこないのだ。共感したい、分かりたいと思っても分からない。だが、きっとこのメッセージに共感する人はたくさんいる、そこに気づかせてくれるのだ。消えてしまいたいという思いを抱く人がいることに気付くその「きっかけ」だ。そして明日は我が身である。今はこうでも次の瞬間何が起こるかなんて誰にも分からない。

その気付きを経て聴いた昨年10月リリースの『Marble』は純粋に「良い曲すぎる」うえに、リリースされてから何度かライブで聴くたびにアップデートが重ねられているように感じて、詞を読み込む度に、静かな空間でイヤホン越しに優しい音色に耳を傾ける度に、気付くことが増えていく。

”どんな色にしようか? お好きに選びな坊や 混ざるようで混ざらないマーブル模様が綺麗だ 自分と違う色の輝きが羨ましい? 混ざりゃとても綺麗 汚し合うなんて馬鹿馬鹿しい はみ出したり 間違えたり 繰り返して僕ら触れ合えたみたい あっちこっち一人ぼっちにならないように そうさ色んな色で出来た STORY ”
『Marble』

どんなメッセージであろうと、「なんとなく良い」と思い続けられる音楽を、ハイスペック且つハイペースで届け続けてくれる音楽を、そしてそれを聴いて感じ取る思いは、数年をかけてゆっくり自分で噛み砕いて変化していった。けれど、数年前ライブで初めて観たあの日よりずっと前からきっと、SKY-HIが届けたいメッセージの本質は一貫しているのだろう。

今だって心が痛む経験も失敗もそりゃ出来ればしたくないし余裕綽々上手く生きたい。でもそんな上手い話、易々とあるわけないのだ。ぐにゃぐにゃと目を背けたいことを避けて道を歩くことも多いけれど、それでいいのかと自問自答する瞬間に、いや、そんな大それた話ではない。メッセージがどうだとか考えなくて良い時であっても、ただ好きだと思う居心地の良い音が、自分の傍らにあるのはなんとなく幸せな瞬間だ。

SKY-HIの楽曲とライブに惹かれ始めた頃は、何の意味もない意地に阻まれて声を大にして周りに言えなかった「SKY-HIってめちゃくちゃ良い」という思いは、今なら言える。この文中に一体何回「なんとなく」とわざとらしく入れ続けたのかは数えていないけれど、「なんとなく良い」ってなんて素敵な感情なのだろうかと思う。「日高光啓」という1人のアーティストの履く二足以上の草鞋具合とパブリックイメージによって伝わらないこともあるのかもしれないけれど、この人の音楽、なんとなく、めちゃくちゃ良いんですずっと。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい