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PUNPEE『MODERN TIMES』

冒険を忘れた偉大なるPUNPEEたちへ。

もし、君がこのアルバムを聴いて、なにかわかった気になっているとしたら、残念ながら、その態度は『MODERN TIMES』にはふさわしくない。たしかに気持ちはわかる。私もそうだった。
『MODERN TIMES』のCDを購入して、パソコンで再生する。あのPUNPEEの1stアルバムだ。最高に決まっている。期待通りの音楽と、2057年の未来のPUNPEEが語る言葉に勇気づけられ、あっという間に君はHeroだ。実に気分がいい。この感想を誰かにつぶやき、共感しあうのもいいだろう。
そして、満足した君や私はふりだしに戻る。VRの世界の中の満員電車に揺られながら、はやく目的地に着くことを祈る。もちろん、その電車に反逆のアートは描かれていない。

私たちは『MODERN TIMES』でさえ、いとも簡単に消費してしまう。映画『モダン・タイムス』(1936年)の冒頭、大量の羊と重なるように、地下鉄から出てくる人々と同じ。私たちは家畜のままで、芸術はただのエサ、一時の満腹感を得るだけの慰めものに成り下がる。このままでいいのだろうか?いいわけがないが、このシステムは中々手強い。黙っていようが、いまいが、何も変わらないかもしれない。しかし、それでもなお、このアルバムはそんな現状に対しての僅かな抵抗として、ある仕掛けを用意している。君はこのアルバムの隠しトラックを聴いただろうか?

このアルバムには隠しトラックが存在する。1曲目“2057”を巻き戻すと、メーターは0秒からマイナスにまで突入して、そこには「よくぞ見つけてくれた」という語りから始まる、約40秒ほどの真のオープニングが姿を現す。私は戦慄してしまった。なぜなら、この真のオープニングは、私がこのアルバムを「何も聴いていなかった」ことを暴くものなのだから。
 

【これは全く驚くべきことです
我々の暮らしてる世界は
人工的な仮眠状態にあります
貧困な階層が増えています
人種の尊重も人権も存在しない
抑圧された社会を彼らは作りあげ
我々は知らずに共犯者になっている
彼らの目的はみんなの意識を無くすことです
無我の状態へ誘いこみ
ちがう人間になったと思いこませるのです
欲に目のくらんだ人間にします
しかも彼らはいつも隠れて
正体を見せません
彼らは中産階級を骨抜きにしており
貧しい人々が増えています
我々は牛であり
奴隷として飼育されているのです】
 

映画『ゼイリブ』の海賊放送より抜粋ーー
 

1988年、N.W.A.が『Straight Outta Compton』を発表した年と言えば、だいたいどんな時代かわかるだろうか?そんな時代に映画『ゼイリブ』は公開された。この映画の主人公は、労働者で自分の部屋もまともにないような貧しい暮らしをしているが、ある日、不思議なサングラスを手に入れて、世界の本当の姿を知ることになる。そのサングラスをかけて街を歩くと、いつもの風景が一辺する。何気ない広告や看板には「OBEY(服従せよ)」「CONSUME(消費せよ)」の文字が並び、雑誌のページをめくれば 「STAY ASLEEP(眠っていろ)」「NO IMAGINATION(想像力を働かすな)」、紙幣には「THIS IS YOUR GOD(これは神だ)」などと書かれている。そして、誰かを蹴落としながら、裕福な暮らしをしている高いスーツ姿の男や、ドレスを着た女の正体は、みんな醜い顔をしたエイリアンなのである。地球はこのエイリアンたちが発信している特殊な電波により、一種の催眠状態に陥っていて、その電波を遮るサングラスをかけないかぎり、このからくりには気付けないというわけだ。

つまり、アルバム『MODERN TIMES』の「隠しトラック」は『ゼイリブ』でゆうところのサングラスだ。そのサングラスをかけてから、2057年のPUNPEEの声やトラックに耳を傾けてみてほしい。なんて穏やかな未来なんだ、あの日私たちが夢見た素晴らしい未来の実現だ!「飽きるのは簡単だ。楽しむこと。」ああ、そうかそうか!たしかにそうだな!と君や私は大満足。しかし、このセリフもサングラスをかければ、そこから聴こえてくるのは「STAY ASLEEP(眠っていろ)」だ。「彼ら」の目的はそこにある。もっともらしい答えを与え、わかった気にさせて、考えるのをやめさせることだ。せっかく2017年のPUNPEEはラップしているのに!
 

【 皆がただの歯車になり狂わぬように
果てない“?”を頭の上に 】
 

『MODERN TIMES』は現代に生きる私たちを冒険に駆り出す最高のポップミュージックだ。ポップミュージックは羊のエサのことではない。壁をこわして、扉を蹴破り、おもいきり、わけのわからない場所に身を委ねることだ。出会ってすぐに結婚をして、死体の山を築きながら、車を走らせハネムーンに出かけることだ。社会が押し付ける正しさや幸せに背を向けながら、2人で手を繋いで歩いていくことだ。

にも関わらず、悔しいが「彼ら」が見せてくる2057年は魅力的で、私たちはそれに甘んじてしまう。たしかに「飽きるのは簡単」で、大事なのは「楽しむ」こと。耳障りの良さとは裏腹に、これがすごく難しい。楽しむことは「わかった!」と理解することではない。興奮と衝撃にくらくらしながら、もしくはまったく未知のものに頭を抱えながら、思索を続ける過程にこそある。だから、ブックレットに記されているとおり、このアルバムには7つのイースターエッグが隠されている(「彼ら」にバレないように)。隠しトラックもその1つだ。私たちはこのアルバムに向き合うとき、頭の上に“?”を掲げながら、楽しむことになる。そして、それこそが「彼ら」との闘いに勝つ方法だ。
未来の自分はアドヴァイスなんかしてこないし、私たちはあがき進んでいくしかない。それでも、もし、このアルバムになんらかの時空の歪みが生じているとしたら、未来のPUNPEEが語った最後のメッセージは「大事なのはこれからだぜ」だったのかもしれない。

このアルバムの隠しトラックはCDプレーヤーなどで、CDを巻き戻すことでしか聴けない。私はこの隠しトラックの存在をツイッターで知ったものの、自宅のパソコンでは再生出来なかったため、わざわざ購入したCDを持って、近所のTSUTAYAに行き、そこの試聴機で聴くことになった。この時代になんて不便!と思うが、音楽を「能動的に楽しむ」というキッカケを、こういうところでも演出しているのだ。
スポティファイやアップルミュージックなどの音楽ストリーミングサービスでは、この隠しトラックは聴くことは出来ないし、CDを購入した人の中にも存在を知らない人も大勢いるだろう。もしかしたら、この隠しトラックは語り継がれない歴史になるかもしれない。そうなれば「彼ら」の思うツボだ。私たちはこのアルバムを消費して、隠しトラックのような未来に突き進むことになるだろう。

『MODERN TIMES』は冒険を忘れた、しかし、たしかに世界を変える力を秘めている偉大なるPUNPEEたちへ宛てられた手紙だ。その手紙の表紙には赤い文字で「CONFIDENTIAL(機密)」とあり、その中には世界のすべてが書かれている。
ある日、見た目も中身もまぁ覇気がない、男か女かもわからない、君や私によく似たPUNPEEは、大量のゴミの中から、この手紙を見つけ出す。差出人はそいつのことを信じて「全部お前に任すからな」と言い続けてくれている。きっと40年後の未来でも。

I leave it entirely in your hands.

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