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人を見た目で判断するな

WANIMAという田舎者の星

人を見た目で判断することは時として、私たちを素晴らしい出会いから遠ざける―。

2015年4月。
生まれ育った町を離れ、東京で一人暮らしを始めた。憧れの東京。胸は高鳴っていた。右を見ても左を見ても、知らないヒト、知らないモノ、知らないコトばかり。刺激的で、ワクワクに満ち溢れた毎日を想像していた。
けれど、実際はそう上手くいくはずもなかった。何をするにつけても、「一人」であることが重くのしかかるから。頼れる人がそばにいない状況では、一日一日を乗り切るだけで精いっぱいで、ワクワクなんて感じる暇もなかった。孤独を実感するきっかけはそこら中に転がっていて、母親に手を引かれて歩く幼子と目が合った瞬間、「ああ、私は、一人なんだ」と思った。

家族や故郷のあたたかさを知ったのは、一人になってからだ。
「大切なものに気づくのはいつだってそれを失ったあと」
使い古された言葉を口の中で転がして、私は情けない笑みを浮かべる。憧れだったはずの東京は、いつしか憎むべき街に変わっていた。

そんな私が、「田舎者の星」と出会ったのは、上京から3か月ほど経ったころのことだ。
その日も私は、せわしない一日をどうにかやり過ごし、ベッドに倒れこんで新しい音楽の発掘に勤しんでいた。とはいっても、私には審美眼があるわけでもないので、ネット上に散らばった「今年バズる!」とか、「今期大注目!」とかの謳い文句に誘われるがままだったけど。そうしてゆらゆらと流されるように辿り着いたのが、「1106」という曲だった。

正直、期待はしていなかった。なんせ、ボーカルの見た目があまりにも厳つい。
長く伸ばした明るい髪、口元にきらりと光るピアス、脚に刻まれたカラフルなタトゥー。
絶対に友達になれないタイプだ。友達どころか、街ですれ違うことさえためらわれる風貌。彼らの音楽は肌に合わない、と勝手に決めつけながら、「まあ、一応ね…」くらいの気持ちで再生ボタンを押した。

耳に飛び込んできたのは、技巧派とは対極をいく、あまりにも素朴で真っすぐな音。少しハスキーな優しい歌声が紡ぐ、あたたかい言葉。力強いメロディに寄り添う、美しいコーラス。

雷に打たれたような衝撃が走った。
人を見た目で判断するな、とはこのことだ。

気づけばあっという間に4分がたっていた。
私はもう一度再生ボタンを押した。今度は、歌詞を一文字ずつ確かめながら。

――想うように歌えばいいと 思い通りにならない日を そう教えてくれたね、教えてくれた…ねぇ?

やられた、と思った。
この3人は、ずるい。こんなの、好きにならないわけがない。あんな見た目で、こんなにも優しい歌を歌うから。

次の日、私はCDショップのレジに「Can Not Behaved!!」を差し出していた。
このバンドをずっと追いかけよう、と決意をして。

WANIMAの歌は、「私には、帰る場所がある」ということを、いつも思い出させてくれる。
きっとそれは、彼ら自身が、夢と片道切符だけを握りしめて田舎を飛び出してきたから。生まれ育った町のあたたかさを、身をもって知っているから。
WANIMAは、私たち田舎者の星だ。

なかなか芽が出ない時期を乗り越え、ようやく日の目を見たと思ったら、恐るべきスピードでスターダムにのし上がったWANIMA。そんな彼らを「昔の方がよかった」「大衆向けの音楽になった」と評する人もいるだろう。
だけど、それがなんだっていうんだ。
根っこの部分が変わっていなければそれでいいじゃないか。
「田舎から出てきたちょっとやんちゃな兄ちゃんたちが、真っすぐな気持ちを歌う」
それだけで、WANIMAは十分にWANIMAなんだ。
それだけで、私みたいな田舎者は助けられるんだ。
誰が何と言おうと、WANIMAは私の心の故郷で、帰る場所だ。

――「何かあったらいつでも待ってる帰っておいで」

KENTAの声と母親の声が重なり、私の背中を押す。
ここで生きることに疲れたら、私を故郷に連れて行ってくれる電車に飛び乗ってしまえばいい。待ってくれている人がいるから。
そう考えれば、少し気が楽になる。
そして、ウォークマンを片手に今日も私は、雑多な街へ一歩を踏み出す。

――新しい靴に履き替えて 誰も知らない心頷く方へ

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