1087 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

サンボマスターが憎かった

それでも、私の青春はこの人たちがくれた。

前向きな歌詞が嫌いだった。バンドが嫌いだった。
笑うのも泣くのも苦手で口下手で引っ込み思案で友達も少なく、嫌われるのが怖くて自分の意見を押し殺しては夜な夜な手首を切っていた女子高生時代。
テレビでエールのような曲が流れる度にチャンネルを変えた。ステージで楽器を持ってキラキラしている人たちが映るたびに画面から目を逸らした。
 夢とか希望とか、人の苦労を知らずに何を言ってるんだ。お前らは結局成功しているじゃないか。何百人、何千人が自分たちの声と思いを聞いてくれているじゃないか。
そう嘲笑いながら虚しくて惨めでまた手首を切る毎日だった。
 

 サンボマスターと出会ったのは高校3年生の夏。夏休みが明けたらすぐにやって来る体育祭のテーマソングとして『青春狂騒曲』が休み中もずっと校内に流れていた。
 その頃の私といえば、全てを捧げていた部活を引退したと同時に当時大好きだった彼氏に浮気され家族とも不仲で受験勉強する気力も湧かず、何となくメンバーに入ってしまったチアリーディングの練習のために生きた屍のように通学していた。
 毎朝渋々起床し渋々登校し引きつった笑顔で踊り1人で帰り翌朝が来ることに震え「私の青春って最悪だな」と泣きながら眠りについた。
 

 その日もサンボマスターは歌っていた。練習が終わり更衣室で着替えながら初めてちゃんとスピーカーから流れてくる歌詞を聴いた。

    このまま何も残らずにあなたと分かち合うだけ
    そしてあなたは今が全てだと気がついて
    悲しみは頬を伝って涙の河になるだけ
    そして僕等は淡い海になって溶け合うのよ

 お洒落な言い回しだと思った。トラックも好みだった。
どこか懐かしいような音色とコード進行、確かなテクニック、パワフルだけどどこか温かい歌声。素直に素敵だと思った。
 それでも、前向きな歌詞が、優しい心が、年甲斐も無く汗水流して叫んでいる彼らが、私は憎かった。憎くて羨ましくて堪らなかった。自己嫌悪で押し潰されそうになってそそくさと更衣室を出たけれど、彼らの声が頭から離れなかった。それがまた私を苛立たせた。
 

 あまりに憎すぎて歌詞を覚えてしまった。すると言葉選びがとても綺麗なことに気づいて他の曲も聴いていた。どうしてこんな歌詞が書けるのか気になりサンボマスターというバンドについて調べた。ロックバンドについて全く知らなかったのに3人の使ってる楽器や機材についても詳しくなりロックも聴くようになった。
 登下校中にイヤホンで『光のロック』を聴き、風呂場で『夜汽車でやってきたアイツ』を口ずさみ、眠れない夜は『新しく光れ』を、目覚めたくなかった朝は『朝』を聴いて自分を奮い立たせた。
 
 

 体育祭が終わり後夜祭で『青春狂騒曲』を全員で歌った。
私は歌わなかった。
みんなが跳ねながら、ぶつかりながら、叫びながら歌っている中に私は入れなかった。
1人で先に教室に戻り外から聞こえてくる歓声と歌声を聴きながら、高校生活が終わってしまうというとてつもない喪失感と後悔の念が押し寄せていた。
 
 

 それでも、こんな駄目で捻くれた私にサンボマスターは歌ってくれた。勿論、私だけに向けて歌ってくれた訳ではないし彼らだって心外かもしれない。
それでもよかった。憎くて羨ましくて大嫌いで大好きなバンドは、私の中で安定剤のようになっていた。

 帰り道、『青春狂騒曲』を聴きながら考えていた。
サンボマスターの言っていた「あなた」や「僕ら」とは誰の事でも良いんじゃないか、と。それが私だろうが家族や好きな人や友達だろうが、さらに言えばサンボマスターだろうが誰でもいい、「誰か」が「誰か」を大切に思う曲なのだ。
 そして、曲中「青春」という言葉は1回も出てこない。高校時代や10代が青春とよく言われる世の中の風潮に私は振り回され焦っていたのかもしれない。
彼らは、何歳だろうが何回めだろうが関係なく「全力で生きている瞬間」こそ青春だと言っている気がした。
 人知れず私はサンボマスターに救われていた。
 そして、私はサンボマスターのファンになっていた。
 
 

 高校を卒業して大学に進学し、私は軽音楽サークルであれだけ嫌いだったバンドでドラムを始めた。意外に向いていたらしくやけに褒められた。
サークル内で大事な人たちができた。新しい趣味ができた。まだ自己嫌悪で泣きそうな夜もあるけれど、それでも前よりかは幾分幸せかもしれない。
今まで2度サンボマスターのコピーバンドをした。来年もまたサンボマスターを叩く。
 今日も私はスタジオで、マイクと観客とまだ捻くれた自分に向かってドラムを叩きながら叫ぶ。
 

    「そして僕等は淡い海になって溶け合うのよ」
 
 

 今が青春だと信じて。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい